ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

成田美名子さんが取材に。。(続)

2008-05-15 00:34:05 | 能楽
ただ、長唄の三味線や鼓を習っている外国人の生徒さんは、どうしても長い期間稽古を続けられる人はそう多くはありませんで、日本で定職に就いていて、もう ぬえとも何年もお付き合いのある生徒さんというのは ほんの数えるほどしかいませんね。ビザ等の関係による滞在期間の制限もあるし、なんというか、バックパッカーの延長のように、なんとなく日本に住み着いちゃっている生徒さんもいました。さあ、そろそろ本国に帰って就職するか、って言って帰った人も。日本人と結婚しちゃった人も何人もいるしね。いろんな人がいて面白いですよん。

話は横道にそれますが(またか。。)、仕事のために日本に赴任してきたような人(生徒の中にはほとんどいませんでしたが)を除いて、日本に興味を持って滞在している若い外国人は生活の糧のためにアルバイトをしていたりします。そのためのビザを取るのは大変なのではないかなあ、と まずは思いますが、面白いのは、生徒さんのアルバイト先ってのが、これが判を押したようにみ~~~~~んな英語教師なんですよね~。要するに「駅前○×」みたいな英語教室の教師で、それぐらい教師の売り手市場なんでしょうか、日本は。そしてまた、ザラにいます。まったく日本語を話せない教師さんも。それで教師になれるなら、こりゃラクちんですが、なんだか見ていると日本は外国人にとっては住みやすい国なんでしょうか。

。。と言っていたのも束の間でした。例の「NOVA」が倒産したときの衝撃を ぬえはモロに見てしまった。。生徒さんの中にもいきなり仕事がなくなってしまった人がいました。。そして仕事を失った元・英語教師の人がちまたに溢れてしまったらしく、今は英語教室の教師に応募する外国人はとんでもない高い競争率なのだそうで、なかなか次の仕事も見つからない。先日 ついに生活が出来なくなって帰国してしまった人もありました。なんだかなあ。。

そんなこんなで今彼らにとっては激動の時代なのですが、お稽古は淡々と進んでいくわけで。(^^ゞ

そうだなあ、平均すれば、彼らの日本滞在期間は1年~2年程度なのではないでしょうか。ですから「邦楽の集い」のために仕舞を教えている ぬえにとっては毎回、生徒さんはほとんど顔ぶれが変わっています。それでも毎年できるだけ違う曲目の仕舞を出せるように選曲を工夫して、生徒さんと相談ながらその才能も見極めつつ、仕舞の曲目を決めています。まあ、毎年ほとんど能のことは知らない生徒さんばかりなので(あたりまえ)、あまり難しい曲は避けて、こんな曲なんだよ、と候補曲について説明して、生徒さんの興味を探りながらそれぞれの生徒に合った曲を選びます。

ところが今年は「源氏物語を題材にした能の仕舞を舞いたいです。たとえば葵上とか」と、事前にメールで希望曲を ぬえに伝えてきた生徒さんがいて、これには驚きました。よく勉強してる。。しかし。。葵上はいかにも難しい仕舞だ。。ぬえはメールを返しました。「君が源氏物語や能について勉強しているのは尊重する。しかし葵上の仕舞は難しい。源氏物語を題材にする曲はほかにもある。半蔀なんかどうだろう。はかない夕顔の物語で、とても清楚な感じで美しい仕舞だ。」ここまではよかった。そのあとちょっと ぬえは書きすぎました。「半蔀はお客さまにとってはやや退屈な仕舞に見えるかもしれない。しかし君が習得するのにはどちらかといえば手が届きやすいと思う。一方葵上は習得が非常に難しい。お客さまにとっては派手で見応えはあると思うが、失敗するような事が起こる心配もある」。。そして余計な事も書きました。「いずれにしても最後は勉強してきた君の決断に任せる。演じたい曲を選んで知らせてくれ」。。相手が外国人だという事を忘れていました。

。。やがて返事が来ました。とても興奮した調子で。「先生! 私に選択を任せてくださってありがとうございます! ぜひ葵上をやりたいです! お客さまを退屈させるなんてイケナイ事だと思います。私、がんばってお稽古をして、絶対に失敗なんかしません! 先生に喜んで頂ける成果を出すことをお約束します!」。。ああ、そうでした。外国人のファイトスピリットを忘れていた。。

その後、この生徒さんは『葵上』の仕舞の稽古に七転八倒して苦しんでいました。そりゃそうだ。(__;)

じつは以前にも、そうやって最初に見せるファイトスピリット。。ちょっと日本人は表面には出さないあの闘志をうっかり信じてしまって、本人には荷が重いはずのやや難しい仕舞を ぬえは選んでしまって。。そうして結局 稽古について来れずに仕舞を断念してしまった生徒さんも過去にはいました。もちろん、とうとう克服して立派に舞台を勤めた生徒もいますけれどね。この催しも伊豆の「狩野川薪能」での子どもたちとの稽古に増さず劣らず、いろんなドラマがありました。

。。でもまあ、今回のこの生徒さんはとっても勉強熱心で、『葵上』の稽古は至難だったと思うけれど ちゃあんとついてきます。まだ仕舞の完成には少し足りないけれど、だいぶ形になってきました。残された時間で、おそらく立派に演じきるでしょう。