ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

演劇倶楽部「座」の役者さんに謡の稽古(その6)

2010-09-11 02:45:33 | 能楽
木曜日は東京で申合があり、夜は自分の稽古。そして金曜は伊豆で子ども能のリハーサルがありました。土曜日は栃木県でホール能がありまして、深夜に帰りますが、翌日の日曜は朝9時に伊豆に楽屋入りしなければなりません。なんだか忙しい1週間です。

ところで先日の大雨で通行止めになった東名高速ですが、すでに開通していました。…と思ったら、東名高速の下り線には大井松田~御殿場の間は右ルートと左ルートに分かれているのですが、その右ルートが通行止めでした。その時はあまり事情が判らなかったのですが、帰りにはじめて理由がわかりました。上り線の同区間が復旧工事中で、便宜的に下り線の右ルートを上り線に割り当てていたのです。いつもは下りで走っているこのルートを、上りで逆走することになるわけで、なんだか不思議な気分…イケナイ事をしているような気持ちになってきました~(¨;)

子ども能のリハーサルは…残念ながら先日の稽古の方が出来が良かったかな。つまり、役別の稽古をしてから、さてその日の稽古の集大成として通し稽古をするならば、みんな自信を持って演技をし、大きな声も出せるのですが、今回のリハーサルのように、いきなり本番通りに通して上演すると、急にみんな自信がなくなって、他の子の様子を伺いながら演技したり、おっかなびっくりの声になってしまったり。7月末にようやく稽古を始めて、考えてみればまだ2ヶ月も経っていないのですね。前回までに、ほとんど演技自体は完成していたもので、子どもたちの習得の進度には目を見張りましたが、やっぱり ぶっつけ本番にはまだ無理もあるようです。とはいえ日曜にはプレ公演として、はじめての人前での上演です。ここでお客さまの前で演じる恐ろしさも感じ、自分の責任について思うことができれば、稽古に対する態度も変わってくるでしょうし、11月の本番の公演はもっと素晴らしいものになるでしょう。

さて月曜日のことなのですが、演劇倶楽部「座」の「詠み芝居『歌行燈』」の稽古に伺って参りました。

へへ。今回は稽古のほかに ぬえには別の目的があったのです。…それは、先般会ってみて、とても興味を持った高野力哉さんの演技力を、実際に目の前で見せてもらうこと!

いやまあ、稽古をつけるために伺う ぬえにとっては失礼も甚だしいのかもしれませんが、ひとつには、どうしてもDVDの『歌行燈』の中で見せる無頼風の、あるときには激情をほとばしらせる、その鬼気迫る演技が、ぬえが稽古でお会いする素顔の高野さんと一致しないので、その人格を変化させてみせる演技術というものを実際に見てみたかったこと。もう一つは、リアリズム演劇と、能の象徴的な演技の違いをお互いに見せ合うことで、お互いの刺激にもなるのではないかと思ったこと…こう考えて、あえて事前に「座」の事務局には ぬえの希望を伝えておきました。

もちろん、一方的に「やって見せて~」と言うだけじゃイケナイので、ぬえも「若女」の面を持参して、『松風』の一部を演じて見せました。こちらも興味を持って頂けたようで、まずはよかった。ここでの稽古は同じ舞台人同士の交流でもあるのですから、ぬえも能の技法について実演したり、またこちらの役者さんからもいろいろと教えて頂こうと思っています。今回はそのほかにも、面を見せたり笛を体験して頂いたりしました。

さて、高野さん。かなり照れていましたが、ぬえの強力な所望によって、やがて『歌行燈』の台本の一節を朗読してくれました。

…うううううううううむ!! トリ肌が立ちました。
やっぱり、目の前で今さっきまで稽古していた、どちらかというと気の弱そうな高野さんが…別人になりました。

読んで頂いたのは『歌行燈』の次の部分。かなり登場人物の心情が揺れ動いて、そうして初めて自分の罪を語る部分です。

「いや、手をやすめず遣ってくれ、あわれと思って静に……よしんば徐(そっ)と揉まれた処で、私は五体が砕ける思いだ。 その思いをするのが可厭(いや)さに、いろいろに悩んだんだが、避ければ摺着く、過ぎれば引張る、逃げれば追う。形が無ければ声がする……ピイピイ笛は攻太鼓だ。こうひしひしと寄着かれちゃ、弱いものには我慢が出来ない。淵に臨んで、崕(がけ)の上に瞰下(みお)ろして踏留まる胆玉のないものは、いっその思い、真逆に飛込みます。破れかぶれよ、按摩さん、従兄弟再従兄弟か、伯父甥か、親類なら、さあ、敵を取れ。私はね、……お仲間の按摩を一人殺しているんだ。」

正直言って、高野さん、語っている間は目が据わっていました。(^◇^;) ぬえのムリヤリの所望だったのに、ときに静かに、ときに激しく、高く、低く、鋭く、大きく間を取り…。面白いねえ、変幻自在です。

その後も役者のみなさんと、いろんな話をしました。演劇や古典芸能の将来性とか現代の問題点もたくさん議論して。

…そうして今回の稽古は4時間もかかっちゃったい。σ(^◇^;)