ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

『パイレーツ・オブ・カリビアン』を観てきました

2011-06-18 00:45:50 | 能楽
は…? 突然なんの話題? と思われたでしょうが、じつは ちゃあんと能にリンクする話題だったりします。

映画館に足を運んだのは平日のしかも夕食時、それも「吹き替え版」という条件だったとは言え、予想に反して映画館はガラガラでしたね~。封切り直後にも観に行く機会はあったのですが、さすがに満員かなあ、と思って しばらく時間をおいていたのですが…いまの映画館の入りって、こんなものですか?

で、「パイレーツ・オブ・カリビアン」ですが、ぬえにとってはこれまでで一番面白かったと思いました。人魚こわっ…
CG技術など、ぬえがやっているようなお仕事(?)とは正反対の方向に進んでいったものではありますが、やっぱり突き詰めていったプロの技ってのはどの世界でもスゴイものですね~。メガネを掛けて観る3D映像も、ちょっと前には目が疲れたものですが、今回はほとんど違和感なし。どうなっているんでしょう~??

ところで、ぬえがわざわざ吹き替え版を選んで観た理由は、まだ豆ぬえには字幕を読むのが無理、ということもあるのですが、吹き替え版の声優さんが目当てだったからです。

以前に、ぬえが「演劇倶楽部『座』」という劇団の団員さんにお稽古をしている事を記事にしたのを覚えておいでの方もあると思います(→演劇倶楽部「座」の役者さんに謡の稽古)。

こちらは「詠み芝居」という独特の切り口で、近代文学などを小説の原文そのままで舞台化する、というちょっと驚くような手法のお芝居をされている劇団で、最初にそれを聞いた ぬえは「へええ??そんな事が本当にできるのかしら?」と思ったものです。だって原作が舞台化を前提には書かれていませんから… ところが公演の録画を見せて頂いてびっくり。いや~…成立している、どころの騒ぎではありませんで、ぬえが大学で国文学を学んでいた時には気づかなかった小説の微妙なニュアンスとか登場人物の心理のようなものが、行間に到るまで読み込まれて脚本化されている…いや、一言一句改変はされていないから脚本化という言葉が当たっているかはわかりませんが… ちょっと驚異的な成果が そこにはありました。

で、この劇団が泉鏡花の『歌行燈』を取り上げることになりまして、この小説は能楽師が主人公なので、舞台に登場する役者さんの謡や舞、小鼓を ぬえがお稽古することになったのです。

この公演は今年の秋…それなのに稽古は昨年の夏からスタートしました。1年以上を準備に費やすなんて…

とはいえ、謡の習得は、プロの役者さんにとってもやっぱり難しいようです。いえ、謡うことだけならば、近世に成立した芸能…長唄とか浄瑠璃と比べても謡曲は単純な音階変化でできていると思うのですが、「能楽師が謡っている」という、そういうプロのような印象で聞かせるまでに上達するのはやはり簡単ではないようです。ぬえもそれは当初から予想してはいたので、「役者さんとして声色(こわいろ)で真似をする」とか、「能楽師にそっくりである必要はないので、プロの邦楽家のように聞こえて、それが成立していればよいのです」というアドバイスはしているのですが、まだそのレベルには達していないかなあ…あと少し。

ところでこの劇団の主宰者である「壌晴彦」さんという方…見せて頂いた公演の録画では役者ではなく小説の地の文…「ト書き」の部分を担当されていたのですが、その滑舌のあまりになめらかなことと、どんなに早い口調での朗読であっても 揺るぎもしない盤石で説得力のある語り口には ぬえは絶句するしかありませんでした。こういう人も世の中にいるのねえ(このブログでは「さん」と表記していますが、驚愕した ぬえは「壌センセ」とお呼びしております)。

ぬえは壌さんではなく主に若手の役者さんにお稽古しているので、ほんのたまにしか壌さんにはお会いしないのですが、先日ちょっとお会いしたときに親しく話をさせて頂きまして、そのとき壌センセが映画の吹き替えもされている、という話題になったのです。