ぬえの能楽通信blog

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活動報告書(12/9~10)

2014-01-18 15:40:41 | 能楽の心と癒しプロジェクト
能楽の心と癒やしプロジェクト
第18次被災地支援活動(2013年12月09日~10日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに16度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、および福島県双葉町の住民が避難している旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田、寺井は、去る12月9日~10日の2日間に渡り宮城県・石巻市にて計2回の能楽の上演および奉納を行いました(※注2)。

今回の活動はずっとお世話になっている石巻市の仮設商店街「立町復興ふれい商店街」さまが開設2周年を迎えられるということを仄聞してお祝いのイベントに急遽出演させて頂くことになりました。あまり準備期間もなかったために活動は短期間に終始しましたが、商店街での上演のほか、市民の崇敬を集める羽黒山鳥屋神社さまにて舞囃子の奉納をさせて頂きました。鳥屋神社の宮司さまは何度も奉納でお邪魔させて頂いております住吉大島神社の宮司を兼任しておられ、その関係で今回の奉納を受け入れて頂きました。

今回の活動では滞在期間も短かったですが、支出も大変コンパクトな活動となりました。また後述しますが仮設商店街の店舗から活動資金の提供を頂いたり、当地を取り巻く状況も少しずつ変化しているように思われます(一方では営業不振から仮設商店街撤退している店舗もある、という話もこの頃から耳にするようになってきました)。仮設商店街ではもう顔馴染みであることもあって大変歓迎頂きました。関係各位のご協力に深謝申し上げたいと思います。

それと特筆すべきは、今回はスケジュールに余裕があったため、帰途に塩釜市の「籬が島」、塩竃神社、多賀城市にある歌枕「末の松山」「沖の石」、そして「東北歴史博物館」の特別展「神さま仏さまの復興」を見ることができたことでしょうか。支援活動も2年半を迎えながら、ほとんど観光としうものをした事がないのですが、視察ではなく純然たる観光ができたのは新鮮な感覚でした。我々の活動は市民とともに文化の復興を目指していますので、支援する土地の風土というものを感じながら活動することは大切かもしれません。活動費が募金を基本としていますため、どうしても一度の滞在で活動を欲張りがちですが、時間のある場合はその土地の文化に触れて行きたいという気持ちも持っております。

※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。うち今回の活動は能チームの八田・寺井の2名。
※注2 今回の上演場所は①石巻市・立町復興ふれあい商店街②石巻市・羽黒山鳥屋神社の2箇所。

【出演者】
八田達弥、寺井宏明(能楽の心と癒やしプロジェクト)
【協力者】
 石巻商工会/石巻立町復興ふれあい商店街/羽黒山鳥屋神社/石巻観光協会
【主催】
 能楽の心と癒やしプロジェクト

【活動記録】
 12月9日(月)
未明に東京を出発、朝、偶然この日チーム神戸代表・金田真須美氏も石巻市に入るとのことだったので連絡を取り合い仙台空港にて金田氏をピックアップ、そのまま石巻へ向かう。いつもお世話になっている観光協会さんにてしばらく休憩させて頂いたのちに立町商店街の控室へ。

13:30より「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。能『石橋』。ところが会場に到着してみると上演時間は1時間を予定してあった。もとよりシテと笛だけの上演は毎度せいぜい10分~15分程度しか上演できず、また今回は商店街の2周年記念イベントということで多くの出し物の中のひとつとしての出演を想定していたが、実際にはステージイベントは少なかった。1時間を告知してあれば、終了時間までには到着できるという判断で集まるお客さまもあるだろうと考えて、上演予定時間の大半を笛の独奏に充て、能の上演は最後にしたのであるが、結果的にこれは正しい選択ではなかった。

終演後に聞いたところでは、開演当初は大勢のお客さまがいらっしゃったが、あまりの寒気のため、能の上演を待たずにお帰りになった方も多かったとのこと。我々も楽屋入りした当初は身体を動かして準備に当たっていたため寒気はそれほど感じなかったが、椅子に座ってご覧になるには12月の石巻は厳しい環境であった。天候や見所の条件に配慮できていいなかった事は大きな反省点であろう。告知されていた上演時間にこだわる事なく、早々にシテも出演する上演をするなり、能の上演を最初と最後の2回に配するなど臨機応変に上演に工夫を加えることが必要。

 12月10日(火)
朝より羽黒山鳥屋神社へ。今回は突然決まった活動だったので石巻市民の協力者にも事前の告知はほとんどできていなかったが、石巻に到着してからようやくご連絡差し上げた相澤利喜子さんは、この日鳥屋神社にわざわざご足労くださった。また湊小学校避難所時代からの住民さんのリーダーである佐藤哲美さんもこの日お出ましくださった。

羽黒山からは八田が震災前に学校公演で伺った「石巻小学校」が見えた。現在の被災地心活動の原点であり、感慨深く思う。午前10時よりお祓いを受けたのち舞囃子『融』を奉納。宮司さまには大変ご懇意にして頂き、コーヒーなど控室にお振る舞い頂き、神酒を頂戴した。奉納後、佐藤さんにお誘いを受けて日和山のカフェにて懇談。震災当時のお話を伺う。

その後石巻を離れ、途中で昼食を摂りつつ塩釜市へ。能『融』にも登場する籬が島を見、塩竃神社に参拝してから多賀城市へ。歌枕の「末の松山」「沖の石」を見てから「東北歴史博物館」にて開催されていた東日本大震災復興祈念特別展「神さま仏さまの復興 ~文化財の修復と継承~」を見学。気仙沼の地福寺さまのご本尊「地蔵菩薩坐像」および修復が成ったばかりの登米市の大徳寺さまの「不動明王坐像」(通称:横山不動尊)などを拝観。夕刻になり出発、深夜に帰京。


【収入・支出】

  プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。近来JIN'S PROJECTさまとの共催の形を取り、同団体の斡旋により企業より活動資金の一部を補助頂くことができておりますが、今回はプロジェクトのみの主催にて活動資金の提供は受けておりません。

  募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。

  プロジェクトの活動資金としては、前回活動繰越金として 260,637円(内訳:ギエ228,137 円ギエ32,500円)があるほか、今回の活動の前後に1名の個人(ハシモトさま)より活動資金として2度に渡り計20,000円を頂戴致し、また活動中に支援活動場所である「石巻立町復興ふれあい商店街」の店舗さまより活動資金5,000円を頂戴致しました。よって計285,637円(内訳:ボラ 253,137円 ギエ32,500円)が今次活動の前に計上されております。

これに対して今回の活動による支出の内訳は別紙決算報告書にある通りで、今回の活動終了時の残額は 237,367円(内訳:ボラ204,867円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として計上し次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。

  プロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するなど工夫はしておりますが、体力や公演スケジュールによって、必ずしも深夜走行ができない場合もあります。宿泊につきましては、従来は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊ができましたが、街が落ち着きを取り戻しつつある昨今では旅館などに宿泊する機会も増えてきました。この場合にも宿泊費はおおよそ5,000円まで、素泊まりを旨としており、食費については酒食の区別がつきにくいため、すべて自己負担としております。

【成果と感想・今後の展望】
今回の活動は仮設商店街の開設2周年のお祝いイベントと神社への奉納ということで、短時間での駆け足の活動ではありましたが、思うところも大きかったと思います。仮設商店街では店舗さまより活動資金を頂戴致しましたが、仮設商店街でのご商売が好調で、次第に自立する道も見え始めてきた、というお話でした。これは大変喜ぶべきことでありましょうが、その一方で同じ石巻市内の別の仮設商店街で撤退する店舗があった、という話を聞いたのも同じ滞在中のことです。その後年末にかけて撤退の話を聞くこともあり、まだまだ現状は流動的と言えそうです。

石巻は駅前付近ではもともと中心街だった駅前周辺の商店街は津波の被害も比較的甚大ではなく、そこから早く復興が進んでいったように思います。一方川沿いの地域、内海橋を超えた湊地区、渡波などの復興は遅々として進まず、さらに広大な面積を持つ石巻市のほかの沿岸地域を考えると、復興の地域格差も顕著になってきたように感じます。一方では復興住宅の建設も始まり、その工事現場を遠望することもできました。石巻駅前は大規模な整理が行われるそうです。

これから震災3年目を迎え、仮設住宅や仮設商店街もいずれは解消されて、いずれは次の段階へと進んでいくことになりますが、我々の活動もその時々の状況に応じて形を変えていくなりの工夫が迫られる日も来るとは思っています。石巻や気仙沼では友人や協力してくれる方も多いので、いろいろと面白いイベントが開けるといいな、と考えております。




平成26年1月18日




                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                                    E-mail: QYJ13065@nifty.com