1
自慢するだけのことをしていなければ自慢にならない。自慢にならないということを知っていれば自慢をしないでもすむ。これはいいことなのである。しずかにしていられるからである。ひっそりを通せるからである。
2
自慢になることをした日にはこうはいかない。忙しくなる。人を見つけて己の所行を吹聴したくなる。あいてがそれで高く評価してくれなければ、追いかけて行って蛇足まで加えたくなる。断られれば今度は不満足に陥ってしまう。ひいては相手を恨んでもしまう。
3
自慢者の海には波が立つ。風の強い日の海のようにさわさわと波が立つ。あれこれを自慢にしたくて静かにしていられなくなる。
4
自慢が品切れになればひっそりとなるが、このひっそりの暮らしが妙につまらなくなって来る。このために今度は自己卑下が起こる。
5
己の自慢も卑下もどちらも慢心のなせる業で相手にしないのが最上の得策なのである。
6
人間は生きている限りは自慢者である。自慢することを見つけてはたらたら自慢をしたくなる。わが勝利では飽き足らなくなって、今度は我が子や我が孫のことまで持ち出して来てお喋りしたくなる。
7
おれがこうしたああした。あいつのためにこうしたああした。どうだ、おれを見たか。
8
こういう大威張りを、ぐるりの回りでも、長年聞き飽きるくらい聞かされて来たので、ほとほと反吐が出た。
9
自戒に努めようと思うのだが、自戒をしないでもすむほどに、さぶろうにはこのところまったく自慢の種がない。静かだ。これをよしとしよう。
10
9月12日。土曜日。雨は降っていないが空は鉛色をしている。発芽した大根の葉っぱを青虫が食べ尽くしたのを発見して、さぶろうはカンカンに怒っている。よせばいいのに。