前回は話が横道へ逸れましたので、本日はテーマを外さないようにします。日本共産党との関係で語られる資料は、探してみると思いのほか沢山あり、取り上げるのに迷うほどです。よほど乱暴な情報でない限り、紹介します。
「文化大革命終結後の1978 ( 昭和53 ) 年、中国の新しい最重要指導者となった鄧小平は、文化大革命に関連する毛沢東主義の政策を徐々に解体した。」
「また鄧は、文化大革命によって疲弊した中国経済を立て直すために、改革開放政策を開始することによって市場経済体制への移行を試みた。」
鄧小平のしたことはスターリンの死後、フルシチョフがした「スターリン批判」以上の方向転換でした。彼が中心となって実施した経済政策は、文化大革命で崩壊した中国経済を立て直すため、具体的には経済特別区の設置、人民公社の解体、海外資本の積極的な導入などいわゆる市場経済への移行でした。
資本主義社会を否定する社会主義中国が、部分的にとはいえ資本主義の制度を取り入れると言うのですから、一歩間違うと体制崩壊につながる政策でした。きわどい政策を取り入れなければ中国が経済破綻し、共産党独裁政権が国民に否定される・・と、当時の中国はここまで追い詰められていたということになります。
毛沢東は「清貧な社会主義」と「共産党の一党独裁」を信念としましたが、リアリストの鄧小平は「豊かな社会主義」と「共産党の一党独裁」を信じ、共産党の独裁については同じでも、経済に関する主張が土台から違っていました。彼の生涯が、毛沢東との闘いだったということがよく分かります。
私は今この意見を、7年前に読んだ『鄧小平秘録』を思い出しながら述べています。伊藤正氏が平成20年に、産経新聞出版社から出した本です。また本題を外れますが、当時の中国を理解するため、あえて紹介します。
「穏健な周恩来は終生毛沢東に異議を唱えなかったが、鄧小平は節を曲げなかった。だから彼は、劉少奇と共に反革命分子や走資派などと批判され、二度も毛沢東から失脚させられた。」「だが有能な彼は何故か毛に庇護され、職位剥奪で冷遇されても決定的な処分を受けなかった。」
日本人である私は毛沢東にも鄧小平にも好感をもちませんが、この二人の人物が中国の歴史に残る傑物だったことは否定しません。7年前の書評ですがそのまま紹介しても、不自然さがありません。
「鄧小平は歯ぎしりするほど毛沢東を恨んでいながら、彼へ敬愛の念を失わないという矛盾の中で生きた。その思いが阿吽の呼吸で毛沢東に伝わっていたことが、首の皮一枚で命を長らえた理由だったのかも知れない。」
「生涯を傍で支えてくれた周恩来について、毛沢東はつれない評価をしている。〈彼は言われたことはなんでもするが、それだけの人間だ〉・・」
「当時ナンバーツウだった林彪を、事故に見せかけて粛清した毛沢東は、周恩来が末期ガンと知った時、後を任せられるのは鄧小平しかないと即断した。」「文革四人組の江青夫人などの猛反対があったにもかかわらず、地方に蟄居していた彼を、すぐさま北京へ呼び戻した。」
こうしてみますと、毛沢東も鄧小平もよく似ています。二人は「目的のためなら、手段を選ばない」人間でしたし、信念を曲げない彼らは、逆らう者を容赦なく切り捨て、自分に献身する者でも裏切りを見せられると即座に断罪しています。
過去の書評と合わせて今回の情報を読みますと、いっそう理解が進みます。
「鄧小平は、経済の面では一貫して積極的に自由化を進めたのとは対照的に、〈四つの基本原則の堅持〉に象徴されるように、政治改革には消極的であった。」
「ここでいう四つの基本原則とは、〈社会主義〉、〈人民民主主義独裁〉、〈共産党の指導およびマルクス・レーニン主義と毛沢東思想の堅持〉のことである。」
「これは、彼が心から共産主義を信奉しているというよりも、経済建設の前提条件となる政治の安定を保つためには、一党独裁を維持することの必要性を認識していたからであろう。」
「鄧小平氏は、毛沢東晩年の過ちへの 〈行き過ぎた批判〉を戒めている。 その理由は、〈このように偉大な歴史上の人物を否定することは、我が国の重要な歴史を否定することを意味し、思想の混乱を生み、政治的不安定を招く〉 からだというものだった。」
毛沢東を否定することは、彼が作った共産党の中国、つまり一党独裁を否定することで、そのまま社会主義国中国の崩壊につながります。だから彼らには、「文化大革命」の検討ができませんし、「二つの天安門事件」の検証ができません。これが尊大な中国政府が抱えている「国家的矛盾」であり、「ウィークポイント」です。
宮本氏が中国共産党政府の矛盾や弱点を知らないまま、中国共産党を批判しているとは考えられませんので、日本共産党は相変わらず本音を隠し、建前だけの中国批判やソ連批判をしていることになります。
「マルクス主義は科学的社会主義論で、矛盾や曖昧さのない理論だから、マルクス主義に則って指導している共産党の政策に間違いはない。マルクス主義は科学であり、根拠のない精神論ではない。」
宮本氏の指導する共産党は、令和の時代になっても同じ意見を述べていますが、恥ずかしげも無くよく言えるものです。矛盾だらけの共産党が、自民党政府の矛盾ばかりを国会で責めていますが、多くの国民はもう騙されないはずです。
今回も横道へ入り込み先へ進みませんでしたが、日本共産党と中国の情報は次回で紹介します。77年間も共産党に翻弄されて来たことを思えば、「ねこ庭」の話が進まないとしても、それが何だろうとそんな気がします。心に余裕のある方だけ、次回も「ねこ庭」へ足をお運びください。