アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

「弟」の読み仮名はどう書く?

2013年07月26日 | Weblog
 小学校1年生に不登校傾向の男児(正道君…仮名)がいる。
 
 母親が車で連れてくる正道君を、児童玄関で待ち伏せた。
 玄関前の路上に正道君が乗った車が到着。母親が車から引きずり下ろそうとしていました。正道君は、アワビのように、必死で車の手すりに掴まって抵抗。号泣!母親の力では、引きはがすことができない。そこへ、「柔道、空手、野球…」何でもござれの武闘派の担任が現れて、無理矢理引きはがして、拉致よろしく玄関へ入れた。
 不登校傾向の子にそのように過剰な登校刺激は良くないだろうって?感心できないかも知れませんが、初期の段階では、強制執行が効を奏す場合の方が多いです。一度の強制執行で、何事もなかったかのように通学するようになるケースも多いのです。

 観念したのか、正道くんは教室へ入った。ここからが私の出番。なにしろ、元心理学の大家ですから。「大家であって大過ではない」というお決まりのフレーズは遣かわないのかって?皆さんが忘れた頃に遣います。

 まず、正道君の趣味特技を本人の口から聞き出した。えっ?授業中にそんなことしてていいのかって?いいんです!私がコーディネーターに頼まれたのですから、私のやり方でやらせていただくわけで。
 正道君は、市内にあるちびっ子野球チームに所属。スタープレーヤーであることが判明。野球の練習・試合には休んだことがないんだと。それなのにどうして学校へは来たくないのか?理由は、「おもしろくないから」。…明快!

 さて、1時間目は本人からの事情聴取で終了。2時間目は、1年生1学期の復習テスト。
 正道君の手が止まった。「弟」に読み仮名をつける問題。正道君は困っていました。
 …「おとおと?」「おとーと?」哀願の瞳が私へ向けられた。確かに、口語では、「おとおと」と、発音しております。発音通りに書くと、「おとおと」。しかし、これでは、「×」です。テストなので、それらを説明してあげられない。まして、「えーとぉ、音便変化したふりがなが更に簡略化されてしまったもので…文脈的問題で…」などとも説明できない。

 「『おとうと』と書くんだよ」…あらあら、答えを教えてしまった。それって、ダメだろうって?いいんです。で、正道君なかなかやるなあと思ったのは、「おとうと」には満足できず、「おとぅと」と、「う」を小さく書いた。なるほど、この方が、発音に近い。あまり学校に来ないからこのような発想が生まれた。正道君得意満面。
 「先生明日も来てくれる?」
 「ああ、明日も来るよ!正道君も来てね!」
 「・・・・・」

 そして翌日…
 母親が車で連れてくる正道君を、児童玄関で待ち伏せた。
 玄関前の路上に正道君が乗った車が到着。母親が車から引きずり下ろそうとしていました。正道君は、アワビのように、必死で車の手すりに掴まって抵抗。号泣!母親の力では、引きはがすことができない。そこへ、珠算6級、書道3段、柔道4段、アクアウオーキング歴20年の私が登場。無理矢理引きはがして、拉致よろしく校舎内へ入れた。

 前日同様、校舎へ入ってしまうと、普通の小学1年生。
 私としては、何らかの刺激をしなければ気が済まない。ほとんど、自分の趣味で教室に闖入しているようなもの。
 そこで、休み時間に、手品大会を自主開催。10人ほどの児童にもみくちゃにされながら手品(かなり怪しい手品)を披露。正道君の笑顔もあった。教室を出るとき、廊下まで見送りにきた正道君の…
 「先生、ありがとうー」
 という声が聞こえました。これで2学期は元気に登校するだろうって?うーん。私の予想では、2学期も車の手すりに掴まって抵抗するでしょうねえ。私の手品で、不登校が改善されるとはとても思えませんよって。