音楽評論家の吉田秀和さんが5月22日、亡くなられた。「レコード藝術」6月号に連載中でもあった。クラシック音楽の様々な分野での評論に、感心していただけであったが、図書館で本を手にした。
『永遠の故郷 夜』集英社
「≪月の光≫―堀江敏幸に」で、「中原中也にフランス語の手ほどきをしてもらったといっても、それは高校1年のせいぜい1年あまりのこと。その終りのころ、私はヴェルレーヌの詩の全集を買った。」の書き出しで始まる。
このヴェルレーヌの詩のひとつ「月の光」に作曲したフォーレの曲をあとできいて「いっぺんに心を奪われた。」と記している。「この曲にはフフォルテッシモはおろか一個のフォルテさえ、指定されていない。でも、いつも低声(こごえ)でそっと口ずさめば良いというものではないことは、センプレ・ドルチェ(いつも優しく)、センプレ・カンタービレ(いつも歌って)という二つの書き込みと小さなクレッシュンドが三つつけてあるのをみればわかる。」と、今にも聞こえてきそうな語りだ。
日本橋の医者だったお父さんが小樽の病院長になって、小樽で過ごしたころ、家に小林多喜二がきて、「母と合奏したそうだ。但し彼はヴィオラだったという話だがM私は聴いてない。」とも記している。
たくさん残してくれた音楽評論、目を通すのにいまからでも遅くないだろう。