「不思議な音の国」を使い始めて7年目を迎えました。
この教本を使い続けられる生徒の目安が掴めたように思います。
この教本はピアノ導入教本です。
曲は大部分が8小節と短く、音域も2オクターブしかありません。
見た目は簡単に見えます。この内容で、本当にピアノが弾けるようになるのか、もっと難しい方が力が付くのではないか。
私も初めて見た時は、これは半年くらいで全部終わってしまうのでは?と思いました。
ところが、いざ使ってみると結構な手強さです。
タッチの細かさが半端ないです。
8小節の中に様々なアーティキュレーションが詰まっている上に、メロディーと伴奏というお決まりのパターンではない曲が多いので、両手で音を受け渡しながら頭の中でメロディーを繋いでいく力が必要です。
右手の音しか聴けないとか、左しか聴けないではメロディーが自分の中で繋がらず、何を弾いているのかわからない、どんな曲なのかさっぱりわからない、となってしまいます。
しかしこれが、多声体の音楽への入り口になります。
メロディーを手の中でどう受け渡そうが、それを続けて聴く力がなければ色々な作曲家には出会えなくなります。
ピアノを教えている身としては、この世にある素晴らしい曲に出合ってほしいと思っています。
しかし、それは全員に叶うことではありません。
出来れば基礎としてこの2冊は終えてほしいと思っておりますが、長い年月をかけて何とか終えても何も身になっていない人もいます。
それでは生徒も私もただの我慢大会に参加しただけです。
それを生徒にさせてしまっていたので、反省を踏まえ他の先生方の参考になればと思い、これまで使ってきた結果を振り返り、わかったことを書かせて頂こうと思います。
この教本は練習が絶対に必要です。音を読んで弾いていくだけで弾ける教本ではないからです。
どのようにレガートを弾くかとか、4分音符のスタッカートはどのように手首を使うかとか、アクセント、テヌート、はどうするかとか・・
長い期間をかけてそれらのことを毎回レッスンしても、全く身に付いていない、記憶にも残っていない生徒が存在します。
音楽は好きでも、音には興味がないのかもしれません。
これは、ただの参考程度にお読み頂ければと思いますが、
上巻は練習をすれば就学前のお子さんでも10カ月で終わります。
それ以上時間がかかっている場合は、下巻に進むのは難しいのではと思います。
小学2年生以上でピアノを始めた生徒さんは、上巻はさほど練習をしなくとも5カ月くらいで終わってしまいます。ただ、音を出す時に注意されたことを自分で意識できているかをみると、練習の有無は大体分かります。そして指使いに無頓着な場合は、あまり練習していないと見て良いかもしれません。
どの指で弾くかがわかっていなければ、力まずに鍵盤に手を下ろす準備ができません。その場で慌ててこっちの指だったとやっていると、上手く力が抜けず、取り敢えず自分は曲が弾けたから良いになってしまい、この教本を使う意味がなくなります。
すると、下巻に入って早々に1曲に3週間くらいかかり、クレッシェンドとデクレッシェンドの章で、さらに時間がかかるようになります。
週に4日以上、1日につき15~30分練習できていると、最低でも上巻は1回のレッスンで3曲は弾けると思いますし、下巻ははじめの方は2曲は弾けると思います。
弾けるの意味は音の出し方に注意を払っての意味です。
上巻で週1曲、それを3週間かけて終わらせているようでしたら、この教本は難しいと考えて良いのではないでしょうか。
長く続けたとしても、残念ながら身に付くものがほぼないのが現実です。
でしたら、方向転換した方が良いと思います。
細やかなニュアンスを要求されていない教本に変えた方が良いです。
どこまで様子を見るかですが、私の経験では3年半が限界だと思います。
発表会で4カ月くらい教本をお休みにした期間を含んでいますので、4カ月×3年で1年分は差し引くと、教本を休みなく使って2年半で終わりが見えていなければ、使い続けても意味を成さないということになりそうです。
教本の著者イリーナさんは、2冊を1年で終えると仰っています。
月3回、30分レッスンで計算すると、倍近くかかると思います。
速く進むことが良いわけではありませんが、ピアノは練習量やご家族のご協力が大きく左右するので、遅くともいつまでにどこまで進んでいるか、どのくらいのペースで曲が仕上がるかは、こうなってくれたらという希望は織り込まずに見極める必要があると思います。
この教本を使っても、良い基礎が身に付いてくれたなと思える生徒は、結局、練習を続けた生徒だけです。
初級でここまでの細かな技術が身に付いた生徒は、この教本を使うまで誰もいませんでした。私自身がこのような教え方を知らなかったということもあります。
どこで方向転換するかもっと早く気付くべきでした。
反省点のもう1点は、併用本を積極的に使うべきだったこと。
この教本の曲の短さが問題で、新しい音が出てきた時に、週に2回程度しか曲を弾かない生徒は、これではいつまでたっても音が読めるようになりません。
16小節、32小節とあると、同じことの繰り返しがあるので、その度に新しく習った音を目にします。
少ない練習回数なのは問題ではありますが、8小節の曲を2~3回しか弾かないよりは、まだましです。
リズムに関しても同様です。
曲が短いと何度も繰り返し練習をする生徒は覚えられますが、そうではない生徒は、曲が新しくなるたびに8分音符の速さがわからなくなります。
この教本を使うようになって、私はそのような生徒が増えました。
弾けなければ曲のレッスンに時間がかかってしまい、リズムをカードで練習をするなどといった時間が作れなくなってしまいます。
イリーナさんが1年以上使わない、と言った意味がこのことからもわかります。
上巻は平均8カ月かかります(未就学児は10か月)。そのペースでしたら下巻に進めると思います。ただし、併用教本なり曲集は必要だと思います。
この教本に変えた頃は、2年弱で皆、2冊終えていたので私も併用するものが必要だとは考えておりませんでした。
皆、よく頑張ってくれていたんだと、今頃、知りました。
色々と書きましたが、7年使って私が得た結論として、1週間で1曲しか弾けない生徒さんにはこの教本は向いていない。
なぜなら、曲が短すぎて音の読み方もリズムも覚えられないから。
3~5曲ずつ練習できれば、音の出し方、手の使い方に集中でき、逆に曲の短さを活かせます。
このペースでしたら2冊を長くとも2年弱で終わらせられます。時々、他の曲を弾く余裕もあるはずです。
この教本の良さを先生方にも活かして頂けたらと思い、反省点を書き連ねてみました。
あくまで私が使ってみての結果ですので、このようなケースもあるのだという程度で捉えて頂ければと思います。