ロケⅢのパフォーマンスは、オレの期待を満たして、さらに大きく余りあるモノだった。
「最高のチューニングは絶対的な排気量の拡大」とは、よく耳にする言葉だ。
ワルキューレに近い車体構成・剛性は、ロケⅢのエンジンの存在感を高水準で引き出していた。
2300㏄の排気量から生み出されるトルクは、何モノにも代え難く、最重量級の車体を意識しないで押し出していった。
左足を1回踏み込む。
アイドリングからやや雑にクラッチミートしつつ、乱暴にアクセルをひねる。
240というバカげたサイズのリアタイヤは、ためらいながらも路面を捉える。
半呼吸か、それより短いか。
フロントを大きく抜重しながらオレを車体から振り落とそうと、前方へその巨体を突き出していく。
アクセルの開度を維持するよう意識しつつ、肩幅より大きく開いたハンドルを強く握り締め、ヒザでタンクを締め上げる!
脳の血液が後頭部に寄っていくのが判る。
肩・ウデの筋が後方にひっぱられながら、握力は緩めない。
上体を伏せようとする腹筋に、さらにチカラが入る。
タコメーターは、レッドゾーンとの境目。
出来るだけ、瞬間に近いと思える動作で、アクセルを閉じつつ、ハンドルを押さえながらクラッチを切る。
ギヤをカキ上げ、クラッチをつなぐ速度と同じ速さでアクセルを再度振り絞る!
再び、後方へのGを追体験しつつ、狭窄する視野を睨みつける。
車体から振り落とされそうな意力。
進展しつつ尚厚くなる空気の粘度に抗い、ハンドルにしがみつく。
反射に等しい作業を繰り返す、3速!
エンジンは、増加していく抵抗とその凶暴さを相殺しつつも、RPMを上げるその意思を萎えさせない。
視野の狭窄はさらにその視界を絞り込んでいく。
一般のクルマを避けるマージンは、3速のレッドゾーンを待たない。
この領域においては、ロケⅢの質量を思い通りにフリ回して、意思通りに走行させるコトは不可能だ。
アクセルを全て戻し、車体を減速させる。
エンブレに腕力が割かれる直前、4速に入れ、アクセルを閉じたまま通常モードに戻る。
アクセル全閉のまま、5速に入れる。
エンジン回転は2千近くまで落ちるが、車速は60キロ近い。
きわめて平和な視野に、少し安堵する。
ココからでもアクセルを開ければ車体が長槍を振りかざすように加速していく予感は、暴力というスパイスの効いた甘美な旋律だ。
コレは、2300㏄の排気量を持つこのバイクのみが演出可能な、独自の世界だ。
ワルキューレが多量生産の工業製品でしかありえないコトを再認識する。
そう。
ロケⅢのオーナーになると言うことは、何時でも、自分さえその気になれば、この感触を咀嚼することが可能なのだ。
この愉悦はオレを虜にした。
常に手の届く領域にロケⅢが存在するコトは、プライオリティになった。
この、金属と、樹脂と、ゴムとガラスで構成される機械は、形而上の存在を、現実のものにしていくコトが可能なのだ。
操るものの魂は、実体としてそれを加速させていく。
そして、その意思は、機械が単なる機械であるだけのコトを否定する。
だから、オレはロケⅢの色んなネガティブを改めていくことになった。
そう。
オレはロケⅢを、深く深く、愛し始めていた。