写真は、道南・上ノ国の笹浪家住宅外壁。
表面に扱われている素材は何かなぁ、と見ていたらボランティアの方が
「ヒバの樹皮です。断熱効果を期待していたそうです」
という説明をしてくれました。
北海道日本海側地域は、
北前交易など、伝統的に日本海側地方からの移民が多く、
この住宅も「能登屋笹浪家」という出自をそのまま屋号にしたもの。
一般的に家の次男三男といった存在が
「一旗」組として北海道に可能性を夢見て
初めは労働者として移住し、
徐々に船を持ったりして、自立を図ったのでしょう。
そういった事例は、山形県酒田から来た「青山家」など、
たくさんの事例があります。
この笹浪家もそういった家系出自をもった家。
享保年間に能登から、この地にやってきたということですから、
約300年前くらいのこと。
この建物は、何回か改築されてきたもので、
江戸末期から明治初年に建てられたものと言うことです。
寒冷地住宅として、この地に住んで百数十年経過した家系なので、
なんとか、寒冷条件を克服できないかと
考えている痕跡がこの「ヒバの樹皮」貼りの外壁。
日本家屋の伝統技術には寒冷地用の技術は大変乏しいので、
この樹皮を貼る、という考え方はたぶん、蝦夷地アイヌの
住宅などからヒントを得てのことだったのではないかと思われます。
樹皮は油分が多く含有されているので、
たとえば平安期北海道の原住民の住宅では、
防水・防腐の効果を期待したような使い方が復元住宅などで行われています。
漁労労働力として、あるいは交易の相手として、
アイヌとふれあう中で、
そういった知識、「技術」などを見聞きしていた可能性はある。
で、そういった知識を膨らませて、
原木のヒバの樹皮をていねいに剥いで、
住宅の外壁に貼り込むという知恵の飛躍を試みたのでしょう。
この住宅の屋根には柾目板が使われていますので、
木材を薄物として利用するような大工技量を持った棟梁が
このような工夫を考えついたものでしょうか。
残念ながら、現在は保存建物で住んではいない建物ですので、
冬期間の暮らしようはどうなのか、
証言は得られませんでしたが、どうなんでしょうか。
まぁ、その後、樹皮の建物外皮が普及したという話も聞いたことがないので、
いわゆる「暖かさ」という点では、
期待したほどの効果は出なかったのではないか、と思われます。
しかし、きわめて風の強い地方ですので、
面で風を受け流す、という意味では「防風」的な効果は
あり得たものかも知れません。
日本建築として、ギリギリの防寒的試みとして、
ちょっと興味を抱いた外壁でした。
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