少々間が開いてしまいましたが、再開します。お時間のある方はお付き合いいただければ幸いです。
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登山2日目、早朝。
結局、何時に眠りに就いたのか定かではないが、少しは眠ったようだ。
3時ごろ目が覚める。Kさんもすでに起きだしていて「まだ少し早いけど、ぼちぼち準備しますか」などと会話を交わす。
山小屋に入る時に「4時出発」と申告していたが、実はあまりしっかりと出発時間を決めていなかったのだ。
トイレを済ませ、暗闇の中黙々と準備をして
3時半過ぎには大陽館を出発した。
実はこのとき失敗が一つ。
山小屋からの注意通り、ザックの準備は概ね済ませてから横になったが、最低限の中身の入れ替えなどはどうしても必要になる。これを暗闇の寝床の上でやったために、iPhoneを置き忘れてきてしまった。
幸い外に出てすぐ気付いた。寝床に上がって手探りで探したら割とすぐ見つかって事なきを得た。登山靴を何度も脱ぎ・履きするのは大変だったし、Kさんを少し待たせることになるなど、やはり準備が甘かったと反省している。
どうも今回は(最近?)物忘れが多い。
外はもちろん闇の中だ。登山者の数もパラパラといった程度。
夜の登山は初めてで、ヘッドランプを使うのも初めて。最初のうちは足元がうまく見えなくてつまずいたりと、ちょっと怖かった。ランプの角度を調整するのを忘れていたのだ。道理でうまく足元が見えにくいわけだ。角度をやや下向きにしたら、グッと見やすくなって、以後はしっかり歩けた。
4時半、本七合目・見晴館に到着。標高は
3200m。
「もう少し標高稼ごうか」
ご来光。圧倒的な光の束。
さらに10分ほど上がったところで、コースからはずれて適当な場所を見つけ、坐ってご来光を待つことにする。
Kさんによれば日の出は
5:07。まだ20分以上あるが、空はすでに赤らんでいた。地平線のすぐ上には薄い雲がかかっていてどのように見えるか少し心配された。
わたしは長袖シャツの上にフリースを着こみ、その上にレインウエアの上下も防寒用に着こんでいたが、待つ間に、多少震えるくらいの寒さになった。
もし山頂でご来光を待つなら、ダウンかセーターを用意する必要があったと思う。
薄雲の効果でオレンジ色の光が地平線に沿って見渡す限りの範囲に広がっていき同時に中央から色を濃くしていく。この世のものとは思われない「神々しい」と言いたくなるような圧倒的な光の大きさと広がり。
【
4:35】中央左は山中湖
【
4:50】太陽が登ると思しき中央部分の光の強さが増していく。右端に、おそらく横浜ランドマークタワーが見える。
【
4:54】この時の光が最も神々しいと感じた。何か平和的なもの、祝福されるべき何かがそこから感じ取れるような美しさ・・・
【
4:57】中央には相模湾。江の島もはっきりと見えた。
【
5:01】パノラマで撮影(iPhone5ではなくAPP)
【
5:08】まさに太陽自体が顔を出した瞬間。下山する若者も途中で脚を止めた。
【
5:10】
できるだけ忠実に写真に収めたいと何度もシャッターを切ったが、肉眼で見る太陽の光の動きや感触は到底カメラではとらえられない。
それは、たとえて言うなら、宇宙船から眺めた日の出のような感覚。
まあるく暗い地球の向こうから太陽の光が洩れて--まるでビッグバンの瞬間か何かのように--一瞬に巨大なエネルギーが一気に発散していくような感覚だった。
雲にバウンスして拡散して巨大な帯となったオレンジの輝きは、あたかもこの世界の始まりを告げる強烈なメッセージか何かのようにも感じられた。
いずれにしても、これまで経験したことのないような大きさと強さだった。
一気に広がって、いったん落ち着くと、山の上だということを除けば、あっという間にいつもの朝とさほど違わないような空になった。
大事なことは一瞬のうちに起こり、あっという間に隠されてしまう。そういうことかもしれない。
気流の関係か、まるで竜のような雲が西に向かって一直線に伸びていた。
一大イベントをしかと目に焼き付けたわれわれは、いよいよ山頂を目指す。
腹ごしらえ、など。
まずは腹ごしらえしようか、と提案されたが、寒くてじっとしていられず、もう少し上まで登って体を温めてから朝食の弁当を食べることにする。登っていればじきに体も温まってくる。
八合目。
3270m。江戸屋。ここが吉田口ルートとの合流(分岐)地点となる。登山者の数がグッと増えるはずだが、時間的な問題か、それほどでもない。
5:35頃通過。
江戸屋通過直後の登山道の様子。
5:40頃。体もどうにかあたたまってきたようで寒くなくなった。コースをそれて弁当を食べることにする。
これは、ちょっとした感動だった。下界なら、さほどのことはないかもしれない。だが、おかずも1つ1つ、ちゃんとおいしかった。とにかく、期待を大きく上回ったところにこの感動の根拠がある。
1泊2食、9975円は伊達じゃないということかもしれない。
さあ、弁当も食べ終えたことだし、あとはひたすら山頂を目指すばかりだ。
いよいよ日本の頂上へ
本八合目・
3370mには富士山ホテルとトモエ館、2つの山小屋がある。
6:10頃通過。
ここはもう人でごった返していた。これから山頂を目指す人、山頂でご来光を満喫して下りてきた人が交差する。
この山小屋の前も登山道の一部になっているから避けるわけにはいかない。通勤時の駅のように人ごみを縫って歩く。
目の前を歩いている女の子に気づく。まだ5歳かそこらだろうか。おばあちゃんに連れられ、励まされながら登っている。ちょっとぐずっているようだ。それもそのはず。「胸突き八丁」の言葉通り、8合目から9合目あたりが肉体的にも精神的にも一番きついところだ。われわれ大人だって、ハッ、ハッと息を切らし、登っては休み、登っては休みながらの道程なのだ。
心の中で「がんばれー、もう少しだよ」と声をかけて横を通り過ぎた。
この日初めて見た小さな雪渓の残り。
9合目到達は
7時前。標高は
3600m。
昨日の高山病と思しき頭痛は、そういえば消えていた。薬も結局服用せずにすんだ。
9合目から下界を見下ろす。建物は本八合目の山小屋。写真上に見えるのは山中湖。
下山道方面を見やる。本当は雲のラインが地上と水平な位置になる。
そして、とうとう、
7時半を前に山頂に到達。石段を登った先に「富士山頂上」と掘られた石碑が見えた。
これが日本一高い場所か。意外とあっけなかった感もあったけれど、確かに登りきることができたという充実感がにじむように湧いても来た。
このあとは、お鉢巡り。
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その6に続く
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