中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

男人婆

2009-07-16 10:28:34 | 中国のこと
 前掲書『漢語的不思議世界 空巣老人と男人婆』(岩波書店)の副題にある空巣老人(コンチャオラオレン)は、一人暮らしの老人、男人婆(ナンレンポ)は男勝りの女性を指すとのことだ。

 男と肩を並べて活躍する女性は今では非常に多くなっているが、かつては少数で、そのような女性はとかく「男勝り」とか、「女傑」と呼ばれた。この言葉には少々揶揄的なニュアンスも含まれている。中国では近代になっても女性の地位は低かったから、男勝りの女性は特別視されたようで、執筆者は木蘭(ムウラン)という孝行娘の話を紹介している。

 木蘭は中国の伝承文芸や歌謡文芸で語られた物語上の女性主人公で、京劇でも演じられるようだ。老病の父に代わり、娘の木蘭が男装して従軍し、異民族を相手に各地を転戦、自軍を勝利に導いて帰郷する物語という。中国の南北朝時代の北朝の民間民謡に由来するとされ、南朝の最後の王朝である陳(557~ 589)の時代の『木蘭詩』が記録された最古の文献とされているようだ。孝と貞とを併せ備えていたとされ、「巾幗(きんかく)英雄」と呼ばれて別格視されているのだそうだ(巾幗は女性の髪飾り)。このような特別の女性は別として男勝りの女性はやはり揶揄の対象となり、最近では「男人婆」と呼ばれているとのことだ。執筆者が中国人の先生にたずねたら、「男性以上にバリバリやっているというだけで、美醜には関係ありません」と言う答だったそうだ。

 西安の李真が面白いことを言ったことがある。中国には3種類の人間がいて、男と女と女博士なのだそうだ。最近の中国では高学歴の女性が増え、博士号を持つ者も少なくないそうだ。それだけが原因ではないだろうが離婚も増えていると言う。中には急に夫に「アメリカに勉強しに行くから」と言って出て行った女博士も李真の身近にいたようだ。男人婆の項の執筆者は別のところでこんな話を書いている。

 先日わが大学の女子大学院生が、新婚の中国人男子留学生に、結婚の報告をしてくれないのは、同じ研究室で学びながら、あまりに水臭いではないか、と詰め寄った。「結婚なんて当たり前のことだから」と遠慮がちに言った彼の一言は、かえって女子学生の逆鱗に触れることとなった。
 憤然とする彼女らをなだめながら・・・(以下略)

 いやはや厳しいことである。結婚という個人的問題を報告しないからといっていきり立つこともあるまいし、「結婚なんて当たり前のことだから」という正直な答に憤然となることなど理解しにくい。よほど強気の院生たちなのだろう。こういうのが李真の言う女博士の予備軍のようなもので、男人婆と言うのかと思ったが、こんなことを言えば、これまた彼女達の逆鱗に触れるのかも知れない。