Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

投票、そして、My Sunshine

2012-12-14 | Weblog
あれこれしているうちに午後になる。……慌てて近所の公民館に投票に行く(写真)。期日前投票はどうも高齢者ばかりだ。若い人達は投票日に来てくれるのかな。頼むよ。急な選挙のため手続き事務員不足は以前から指摘されていたが、役所から狩り出されたのであろう中年係員が、慣れているらしい若者にいろいろ指導されながら、もたもたと受け付けていた。……夜、「世田谷ものづくり学校」へ。なかなか面白い空間、廃校の文化施設としての再利用という点ではニューヨークの「PS122」を思い出す。杉並区にも同様の施設を作ってほしいとたまたま区の学校統廃合担当だった方にお話ししたばかりだ。そこのギャラリーで、Utervision Company『マイサンシャイン』。今年の岸田戯曲賞を受賞したノゾエ征爾の新作である同一脚本を、三浦佑介演出、小池博史演出の2バージョン・二本立てで。ノゾエ氏は私の後としては久しぶりに現れた、岡山出身の劇作家で、個性的な俳優でもある。さて、この企画、一本目の三浦演出は、男優が声ばかり大きく大袈裟な演技で辟易。「見やすさ」のためにセットを動かすやり方も極めて安直だ。だったら対面座席にする必要はない。若手劇団を見たり、この数年の劇作家協会新人戯曲賞の候補作群を読んでいてもよく思うことだが、どうも若い劇作家というか演劇人達は「ファンタジー」というものに対する認識が、私たちの世代とは違うようだ。端的に言えば、「ファンタジー」に要求される「リアル」についての理解というか探究が、浅いと思う。『マイサンシャイン』は、明らかに台詞が過剰である。作者の才気を感じさせる瞬間もある。だが、この「設定」からの飛翔を期待する立場から考えると、「新しさ」や「オリジナリティ」は、乏しいと言わざるを得ない。さて、二本目の小池演出は、戯曲を解体している。というか、まったく自分流に書き直してしまった。台詞は削られ意訳されてほとんど消滅し、あるいは歌にされてしまう。まったく原形を留めていない。だが、一本目よりははるかに私たちと戯曲の「距離」を近づけることに成功している。日本の通常流通している「演劇」の範疇では、こうした手法はまず認めてもらえない。私自身も悔しい思いをしたことがある。劇作家としての私は、相手によっては「そこまで変えるな!」と言いたくもなるだろうが。ともあれ、この、戯曲そのものに対する容赦なき「批評」は、劇作家協会新人戯曲賞の公開審査での喧々諤々どころではない。肝が冷える。公開審査に異議を申し立てたいと考えるような最終候補者の方々には、ぜひ観ることをお薦めする。それにしても、小池博史最新演出をこのような形で観るというのは、新鮮かつ贅沢な体験だ。何より小池氏のエッセンスが詰まっている。過去に観た小池作品と印象で一番近いのは『百年の孤独』ワークインプログレスだが、よりシンプルなぶんだけ、作劇する小池氏の裸像が透けて見えてくる。興味深い。パパタラフマラ時代を終えて彼がどう変貌するかの方向性を決する萌芽が、ちらほらと見えているのかもしれない。小池氏はなまじっかな「ファンタジー」を否定する。そして「リアル」を持ち込むが、それを自分自身で壊す。それが幾重にも繰り返される。爽快でありグロテスク。言語を超越しているせいもあってか、観ている私自身が「PS122」やヨーロッパの小劇場にいるような錯覚をもたらす。そして、時に、塀の向こうにガザを感じさせ、あるいは、辺野古浜のキャンプ・シュワヴとの境界にあるフェンスの前にいるような気持ちにさせる。終演後、小池さんと立ち話。来年は三分の二が海外だそうだ。セットはほぼ「壁」だけ。私も参加したフランス・グルノーブルのフェスティバルは、その年、『壁を壊せ!』がテーマだったことも、思いだした。……「My Sunshine」といえば、この秋に観た唯一の映画がクリント・イーストウッド製作・主演の『人生の特等席』。イーストウッド演ずる老野球スカウトが亡妻の墓前で「You are My Sunshine 」を歌うというか、歌詞をただぼそぼそ呟くのだが、メロディ自体も有名なこの歌の歌詞は、まさにそういうものだったかと唸らされる。監督はイーストウッドの近年の片腕であるロバート・ロレンツ。哲学過多になってきたイーストウッド監督最近作よりもハリウッドの王道を往く作風。シナリオはもう、登場人物たちが最初に出るときに既に先が読めてしまうのだが、その大いなる予定調和を安心して展開させるだけではなく、小技や今現在を感じさせるネタが効いている。誰も死なないが、泣ける映画。会社で同じスタッフを抱えて粛々と活動し続けるイーストウッド・チームは「劇団」のようなものだと、あらためて感じさせる良作であった。……北朝鮮のロケットだかミサイルだかが飛んできたらしいが、落ちた地点に近いフィリピンは怒っていないの?とごく当然なコメントを出す人は、正しい。……福一4号機の燃料貯蔵プールを補強したコンクリートがボロボロに傷んできていて、「危険な状態」になっているという噂がある。取り出し作業を一年前倒しにするのはやはりそのせいなのだ。私たちの「表現」は、そうした「リアル」に拮抗しなければならない。……まもなく名古屋に入る。『星の息子』ツアー開始である。私も含めスタッフチームは、朝から劇場先乗りとなる。
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