初めて上野ストアハウスへ。ITI(国際演劇協会)の「紛争地域から生まれた演劇シリーズ4」として上演された『第三世代』。構成・台本はイスラエルのヤエル・ロネン。訳は、私がいつもドイツ演劇のことを教えていただいていて、ベルリンに行くたびに情報を提供してもらっている、新野守広さん。ベルリン・シャウビューネ劇場とテルアビブ・ハビマ劇場によって共同製作された作品の日本初紹介であり、「ドイツ/イスラエル/パレスチナ、対立の壁を超えて」という副題がついている。圧倒的多数の元東側劇場が主力のベルリンで、シャウビューネは西側でありほぼ民間主導、私はあまり好きになれないオスターマイヤーが芸術監督だった。この作品はドイツ演劇らしさはあまり感じられない。以前にITIの会議後に林秀樹さんに台本を見せてもらった時に「難しいな」と感じた部分は、やはりそのまま難しいと思う。情報として目新しいところはほとんどない。新野さんがこの作品を紹介したいと思ったのは、劇的趣向と各国俳優たちが言語を交錯して演じる臨場感からであろうか。かなり難しいテキストを相手に、中津留章仁演出は日本向けというか中津留流というか、細部に工夫し、ゴンゴン押してくる感じで、なんとか日本版として飽きないように持たせている。俳優陣もリーディングなのに台本を離している部分が多い熱意で応える。日本でやるならこのやり方がいいと思わせる、真摯さである。ただ、作品=作者のもともとの立場、「イスラエル側」としての言い分は透けて見えてくる。パレスチナを圧倒的な武力で蹂躙してきた、連綿と今現在に至る「事実」は消えない。本作が「イスラエル政府・外務省からも好感を持たれていない作品」だとしても、どうしてもイスラエル容認のプロパガンダに見えてしまう部分がある。直接的な戦争を知る世代の次の次の代としての「第三世代」というのがタイトルの意味だろうが、それは「今まさにイスラエルが行っている戦争」を矮小化し隠蔽してしまうことになりかねない。戦争そのものが、過去形ではないのだ。この劇では、真の意味ではパレスチナは「不在」である。「比べないで」というのはまさにパレスチナ側が言うべきコトバであり、お互いに対等に言いたいだけ言い合っているかのような「喧嘩両成敗」的なニュアンスにされてしまうことは、認めがたい。……なんにしても、ここにこの作品が紹介されることに、演劇の「広場」としての可能性がある。「紛争地域から生まれた演劇シリーズ」は、更に続けるべきだ。……初めてのストアハウスは小綺麗でタッパもあり、既にいい感じに劇場のにおいがする。上野駅から最短距離で来ると周りはビルばかりで、上野に来たという気がしない。駅ビルの上海食堂で酸辣湯麺を食べる。酸味が胃に優しい。
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1 コメント
コメント日が
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- Unknown (you)
- 2012-12-31 06:21:55
- 同じシリーズの、「ほとりに」というフランスの作品はご覧にならなかったですか?私も出演者の候補でしたが、決まりませんでした。複雑なセクシャリティの、難解な作品ですが、興味がありました。どんなふうに上演されたか知りたかったです。
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