今朝の朝焼けはきれいだったな。どのくらいきれいかというと、流山児祥が自分のブログにでかい写真を飾るくらい、と言うべきか(http://ryuzanji.eplus2.jp/)。たまたま夜明け前の空を見て、私も散歩に出た。そんな日もあるのだな。ただ私はどちらかというと朝焼け以前の青い世界が好きだ。日暮れ時なら〈マジック・アワー〉というべき時間帯。この言葉が日本で知られるようになったのはいつ頃だったか。アルメンドロスの本を別にすれば、地人会に私が『心と意志』という戯曲を書き下ろした時は、まだ説明が必要だった。
選挙に落選した知人から電話。お見舞い(?)の連絡を入れようと思っていたら先を越されてしまった。元気な人だ。頼もしいことではある。参議院と同時に、私のいる杉並区では区長・区議会議員補欠選もあったから、投票用紙を四枚書いたことになる。私が書いた人が何人当選したかは内緒だ。……長時間机に向かう姿勢は身体に悪いかと思い、五年か六年ぶりにスウェーデン型の椅子を引っ張り出して座る。腰掛けは小さく角度がついていて、別に膝を乗っける部分があり、背もたれはなく、自然に背中を伸ばす姿勢になるヤツである。買ったのは十五年前。立派なものではない。パイプ椅子である。キャスター付きのタイプを『反戦自衛官』という芝居にも登場させている。私にこのブツを紹介してくれた大学時代の同級生は十年以上前に「そんなのとっくに使ってない」と言っていたが。確かにこの椅子で姿勢を悪くして座ると逆効果であろう。
今年の夏もやります。毎年売り切れなので申し込む前に諦めてしまっている方が多いのか、まだ残席あります! 〈非戦を選ぶ演劇人の会 ピースリーディング vol.13〉。第一部:ピースリーディング『Re:カクカクシカジカの話』(作:相馬杜宇 構成・演出:楢原拓)、第二部:インタビュー(20日:安田菜津紀氏、21日:鎌仲ひとみ氏)、第三部:井上ひさし追悼リーディング。7月20日(火)・21日(水)、19:00開演(18:30開場)。会場:全労済ホール/スペース・ゼロ。チケットぴあ、スペース・ゼロでのお取り扱いは終了致しましたが、直前予約をご利用下さい。青年劇場 TEL:03-3352-6922(平日 10:00~17:00)、非戦を選ぶ演劇人の会( info@hisen-engeki.com)に、名前(フリガナ)・電話番号・日にち・枚数をお知らせ下さい。豪華出演陣です。私は出ませんけど。なんにしても、よろしく。
残念なことである。私たち世代の演劇人に与えた影響は計り知れない。極めてシンプルなアイデア・コンセプト・構造で状況をとらえ直すことで、演劇としての強度を獲得した。『熱海殺人事件』一本だけでも、そのへんの講座やワークショップが束になっても敵わない教育性・公共性を有し、以後の時代の指針の一つになったと思う。確実に、「つかこうへいの時代」というべきものがあったのだ。
前夜は羽田着が夜十時過ぎ、目覚めても帰宅したという実感が乏しい。劇作家協会の急に確定した企画であれこれ動く。合間に投票。夜、参議院は「世間の予想通り」の開票結果となった。マスコミおかしいぞ、と今回ほど思った選挙もなかったが、それに流される有権者もよくない。自民も民主もいずれは消費税上げようと言っているわけだから、今回の争点にならない。そんな次元の話題に隠れてしまったというのか、今回の選挙結果は、ほとんどの国民の「米軍基地を沖縄に押しつけてしまって構わない」という「民意」を反映している。ツケは必ず回ってくる。
昨日に続き〈お日様キャラバン〉、今度は深浦町。秋田に近い場所。今日は文化庁文化部国語課国語調査官・鈴木仁也さんも加わる。青森名物のおいしい蕎麦をいただき、帰京。……帰国しているのに、二日連続、見事に携帯電話のアンテナが立たない。各方面にご迷惑をお掛けする。PHSだから仕方がないのだが。
早朝、韓国ワークショップで一緒だった青森在住の畑澤聖悟氏と仁川空港から青森空港に帰国。私は青森県立美術館へ。長谷川孝治舞台芸術総監督に館内を案内していただく。巨大なシャガール三点に圧倒される。今別町開発センターへ移動、弘前劇場が自殺防止演劇に取り組んでいる〈お日様キャラバン〉上演後、アフタートーク。同町保健協力員会長、PTA連合会長、青森県障害福祉課の方々と。青森県は秋田に次いで自殺者率全国二位、今別町は女性の自殺者が多く、高齢者率は第一位という。終えて高山稲荷(車力村)に移動、宿泊。周囲は真っ暗。道を跨ぐ赤い鳥居が迫力。霊感の強い人はびんびんくる場所という。
午前中、宿で仕事。午後、大学路に出て歩いているといろんな人に声を掛けられたり、挨拶されたり。アルコ劇場で仕事してから一年だが、覚えてくれている。『笑の大学』韓国版演出で知られる劇作家イ・へジェにもばったり。カフェをハシゴして仕事。夕方の用事をすませ、夜は京都の演劇人と韓国劇団による合作を観る。別役実『マッチ売りの少女』の変奏曲であることは明らか。釜山から帰ってきたキム・カンボも加わり、ソウル最後の夜。チョン・マンシクの劇団〈白髪狂夫〉の面々に紹介される。アングラな名前だがソウルで最も勢いのあるカンパニーの一つ。
矢内原美邦さんに薦められた釜山美術館へ。昨日の言を翻すようだが昼飯に焼肉を食べ、新幹線でソウルへ戻る。車中はチェーホフを読みつつ北上なので妙な感じ。夜は『たたかう女』別バージョンを観る。別というか、キム・スヒは女性版の他に男性版を作ったのだ。映画『息もできない』で映像界でも注目のチョン・マンシクら、『屋根裏』出演グループで4日前に来られなかった面々も来る。
昼飯にクッパの一種というべき豚汁飯をいただく。キム・カンボが子供の頃から通っていた店。「二日酔いによい」というが、二日酔いでなくてももちろん美味い。実のところ昨年も韓国で肉を焼いた物はあまり食べていない。食文化は多彩。スープのおいしさにあらためて納得。……ワークショップ終了。カンボは今年から二年契約で釜山市立劇団の芸術監督に就任。釜山の演劇事情も聞く。その他、今後の日韓交流についていろいろ相談。……本当はこの時期、釜山で演出を頼まれていたのだが、諸般の事情で引き受けられなかった。今後の可能性もないわけではないが、なかなかタイミングの合う時期はないものだ。改めて残念だと思う。
釜山文化会館でワークショップ講師を務める。釜山市立劇団の面々ら、熱心で集中力のある受講者たち。終えて、キム・カンボに案内され魚介焼き。カンボの鍋奉行ぶりはさすが釜山育ち。鍋じゃなくて網だが。たいへんリフレッシュする。……釜山は人口360万人、大都市だ。韓国経済の活気を感じさせる港町。部分的にえらく立派に開発されているが、庶民的な所もあり。観光地としてもマイアミ的高層ハイソ地区と熱海ふう生活感溢れるエリアを両方擁しているようだ。都市全体としてはシドニーを思わせるところもあり。などと勝手に思う。……日本海を逆方向から見るのはなんとも不思議な感じ。天気が良ければ対馬も見えるという。
ホテルに籠もりチェックアウト延長して仕事。薦められていた『人魚都市』を午後三時の部で観る。ホスピス患者たちの妄想が海の魔物の幻想を招くという内容(のはず)。アングラ的と聞いていたが、本水を使ったりはしているものの、演技スタイルは意外と新劇的。作・演出コ・ヨンウンとカタコト英語で立ち話。自分の劇団を構えて5年目という。韓国演劇の人材の層は厚い。台本付きオールカラーのパンフレットが立派。……韓国新幹線KTXで釜山へ。技術はフランスのTGV式。三時間。着いてジャガルテ市場のキム・カンボ推薦店で食事。韓国で初めて刺身をいただく。タコは皿に載ってもまだ動いている。
あまり眠らずにソウル行き。大学路へ。キム・カンボ、木村典子、ミヘンと話。そして、5月から始まっているフェスティバル「女性演出家展」で上演中の拙作『たたかう女』を観る。十五年前、岡本麗さん出演で作った一人芝居だ。演出はソウル版『屋根裏』で演出助手だったキム・スヒ。ハードな90分をウ・ミファが熱演。面白いではないか。一言一句出てこないが、その年の震災とオウム事件の影響を感じる。アフタートーク。場所を変え、ソウル版『屋根裏』の俳優、スタッフが三々五々、集合。なんだかみんなとても仲が良く、なんだかんだ理由を付けては月に一回は集まっているらしい。彼らはその後、それぞれ活躍の場が広がったという。あれから一年も経つとは思えない。
逃げも隠れもできず仕事が進まないぶんはそのまましんどさとなって残る。まあそれでもがんばるしかない。……「せりふの時代」最終号が届く。井上さんにも生前、休刊せざるを得ないことはお伝えした。出版不況は自明のことだから、「仕方ないですね」ということだった。井上さんの尽力でできた雑誌を、井上さんをお送りする言葉で終える。一つの時代の区切りではある。
ある地方の公共の仕事を担っている方々から相談を受ける。いろいろ紛糾しているように見える東京の演劇事情がわからず惑っているようだ。夕刻、虎ノ門でフランスとの書類相談。夜は東京會舘「井上ひさしさんお別れの会」。一般記帳も含めれば何千人になるのだろう。演劇人と文化人の大集合。井上さんがいないという事実はますます受け入れがたい。揺れ動く感情を隠さない丸谷才一、大江健三郎両氏の別れの言葉、井上さんに「(家庭の)外で言わないで」と釘を刺されたことを話さずにいられないユリさんの挨拶、来週『ムサシ』公演でニューヨークに発つ鈴木杏ちゃんのいきいきとした表情の中にも、新たな井上さんはいる。