日本シナリオ作家協会のハラスメントに対する「声明文」。
「謝罪」からはじまることに、いろいろなことを考えさせられます。
主体の置き方について熟考されているようです。
どの地点から考え始めるか、ということです。
そして、「この声明の精神が映像業界全体の常識になるよう、全力を尽くしていきます」と終える、「自負」と「責任」。
「自覚」と「変革」について、あらためて、具体的に、学びます。
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http://www.j-writersguild.org/entry-news.html?id=448841
声 明
私たち日本シナリオ作家協会は、文化・芸術に関わるすべての業界における、あらゆるハラスメントを根絶するために、全力を尽くすことを「声明」としてここに宣言します。
これまでに発生した加害も、被害も、決して“なかったこと”にはしません。私たちの在り方そのものを全面的に猛省し、傷つけられた方々に対しては、心から謝罪をいたします。
私たちは今後、あらゆるハラスメントを断固として許しません。黙認も放置もしません。苦しみを抱える人をひとりも出さず、ひとりも置き去りにしません。そして、協会員が決して暴力や危険にさらされることのないよう、また、誰ひとり加害者にならないための努力を怠りません。優越的地位を濫用した暴言や暴力、脚本家の権利の侵害や搾取、とりわけ、性暴力を含む悪質な事案が発生した際には、法的手段を含む措置を断行します。
日本シナリオ作家協会(以下、作家協会と略します)を含む映像業界には、長年の間、性行為の強要を含む様々な形のハラスメントが存在し続けていました。それにもかかわらず、2017年、アメリカのハリウッドにおけるセクシュアル・ハラスメント告発が世界的な♯Me Too運動に拡大したときにも、自らの問題とせず放置したままでした。
2022年になって、被害者の方々の勇気ある告発により、日本の映像業界における性暴力の実態が明るみになりました。その結果、この告発に応えようとする気運が一部には生じたものの、作家協会を含む映像業界全体が問題意識を持って対処することはありませんでした。なぜならば、長期に渡り、加害の意識が欠如した者たちが加害を繰り返してきたにもかかわらず、周囲の問題意識が薄弱なために加害者を許容し、被害者に冷淡であったという異常な体質を、映像業界が維持してきたからです。この体質が、ハラスメントを長期化・悪質化させ、被害を隠蔽させて、現在においても新たなハラスメントを生じさせている要因となっているのです。
ここに私たちは、日本の映像業界においても、被害を受けた方々が名誉をかけ、リスクを背負っても性的暴力をはじめとする一連のハラスメントを告発した行動に対し、心からの敬意を表します。あわせて、こうした告発がなければ、現実を直視することもできず、過去の在り方を省みることもなかった自らの実態を、深く恥じます。
ハラスメントは、男性から女性への場合のみならず、女性から男性、同性同士など、性差にかかわりなく起きています。被害に遭っても何も言えぬまま、今も苦悩を一人で抱えている方、夢を諦めて映像業界を去らざるを得なかった方がどれほど沢山いるか、どれほど多くの加害と被害とがこれまで隠蔽されてきたか、今こそ認識し、自覚しなければなりません。
脚本家は、プロデューサーや監督から仕事を貰い受ける立場であることが多く、密室における少人数での作業となりがちな職業です。職務上の地位や関係性からも、被害が起きやすい状況下におかれています。このような環境のために、プロデューサー、監督、スタッフ、俳優、その他の業界関係者、同業の脚本家からの、性行為の強要という犯罪をも含むハラスメントが、現在に至るまで計り知れないほど起きていました。打ち合わせや酒席においても、性的な言動にとどまらず、性的な誘いや接触をはかるといった加害と被害が数知れずありました。明るみになった事例はほんの一部に過ぎません。
立場の強い側は、「目をかけてやっている」「育ててやっている」と驕り、パワー・ハラスメントやモラル・ハラスメントに至る局面がありました。立場の弱い者に対し、人格否定のような暴言を吐く、アイデアを出させ、タイトな締め切りで執筆させながら、クレジットタイトルに氏名も記載しない、報酬も払わないなどの、悪質な搾取行為も起きています。
脚本家をめぐるハラスメントには、共通する構造があります。立場の強い側が当然の権利のごとく、あるいは無自覚にハラスメントを行う。一方、弱い側は、仕事を降ろされることや、無視されたり、悪評をたてられたりすることなどへの恐怖心から、拒否も抵抗もできず泣き寝入りを強いられる。そのような単純にして強固な構造です。また、このような実態が見えていても黙認する者も多く、さらには容認すらしている周囲の人々の存在があることが、この構造を存続させ、より強固なものにしていました。
ハラスメントは作家協会内部において、脚本家間でも起きていました。師匠と弟子、先輩と後輩などの力関係の下、共同作業であるにもかかわらず、「勉強させてやった」などの理由をつけられて、立場の弱い側が執筆者として扱われず、本来なら著作権者として得られるべき対価や権利を奪われることもありました。作家協会内ではさらに、脚本家から事務局職員への酒席でのセクシュアル・ハラスメントや、業務上の適正な範囲を超えた暴言も確認されています。また、作家協会が主催するシナリオ講座においても、講師(協会員である脚本家)から受講生への指導を超えた罵詈雑言、性的な誘いを持ちかけるなどの悪質な行いがありました。一方で、受講生から講師へのカスタマー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメントの事実もありました。協会員が外部の大学などで教える場でも同様で、講師側ないしは学生側からのハラスメントの事実もありました。教育の場での傍若無人な振る舞い、立場を利用したハラスメントなど決してあってはならないことです。
これらの数知れないハラスメント事案が作家協会内外にあった事実を、私たちは、直接的にも間接的にも知りながら、実態調査や加害者の処分といった対策を講じることを放棄してきました。そして、加害者を許容して内輪で庇い、被害者を見えない存在にし、より追いつめ、傷つけてきました。
世間の常識や人間の倫理としては法的にも道徳的にも決して許容されないようなことが、作家協会を含むこの業界では、まるで特権的に許されたことでもあるかのように平然と行われ、強い立場の者が弱い立場の者を虐げたり、性的な行為を強要したりすることがまかり通っていました。社会では明確な犯罪になることが、長年の間、黙認され許容され、隠蔽されてきたのです。この異常性を、私たちは今ここではっきりと自覚しなければなりません。
私たち作家協会は、これまでの在り方を猛省した上で、あらゆる種類のハラスメントを根絶するために、対策委員会を立ち上げました。
今後、協会員及び職員が被害を受けた時は、即座に対応できるようにするため、相談窓口を設置します。ここでは、現在発生しているハラスメントのみならず、過去に起きた事案も受け付け、対処します。加害者及びその属する組織に対しては、法的措置を含む断固とした態度でのぞみます。
作家協会内部で実施したアンケートの結果をふまえて、独自の「ハラスメント対策ハンドブック」を作成し、すべての協会員のみならず、映像制作会社、映画会社、テレビ局、その他関係諸団体に配布します。
また、専門家を招いて講習会、勉強会を実施し、作家協会に残存するハラスメントの構造を破壊し、意識の変革に努めていきます。
この声明を、映像業界に生きるすべての人々、映像業界の未来を担っていく若い世代、映画、ドラマ等の映像作品を愛するすべての人々に向けて宣言します。
声明の主語は、作家協会にとどまるべきではありません。この声明の精神が映像業界全体の常識になるよう、全力を尽くしていきます。
2022年10月11日 日本シナリオ作家協会
文責・ハラスメント対策委員会