「冷血」 髙村薫 毎日新聞社 上・下巻
2002年12月17日。
32歳の井上克美は、携帯サイトの求人欄に連絡して来た34歳の戸田吉生と待ち合わせをして出会う。
2人はATM強盗を試み、失敗するとコンビに強盗をし盗んだ車で移動しつつ次の強盗を考える。
そして、歯痛に苦しむ吉田に自分が知っている歯医者を紹介しようとして、2人で歯科医・高梨の家に泥棒に入る事を思いつく。
下見に行き、その歯科医が20日から休暇を取りディズニー・シーに行くことを知る。
2002年12月21日未明、高梨家に忍び込んだ2人だったが、家人はまだ家に居た。
2人は一家4人、夫婦と子ども2人を殺害し、キャッシュカードを奪う。
事件が発覚するだろうと思われる24日までに現金1200万円を窃取する。
そして、捜査の末、2003年3月に2人は逮捕される。
取り調べは刑事を困惑させるものになる。
自分が犯した事実は認めるが、動機やその時の気持ちなどは分からないといい、事件その物に無関心な様子を見せる。
「冷血」と言えば、カポーティを思い出すが、まさに「冷血」のオマージュ。
そして、合田雄一郎が登場する物語。
事件は起こり、警察の捜査の様子も書かれている。
しかし、これは推理やサスペンスではない。
状況を淡々とドキュメンタリーのように追いながら、その時の本人の気持ちが書かれる。
その気持ちがはっきりとしているかと言えば、そうでもない。
取り調は被告人の過去まで遡って人格を調べて行く。
本から出て来る情報をそのまま、受け取っている感覚。
面白いかどうかと言われたら、分からないのだが。
結構、頭に言葉がずんずんと入って来る。
そして、心に残って行く。
「太陽を曳く馬」も読んだ時はそんな感じで、後あとまでその感覚が結構強く残る。
こちらも、当人がよく分からない殺人を起こすのだが。
警察の取り調べでは、動機が重要視される。
そして殺意があったのかどうかも。
それによって刑罰の重さが変わって来るからなのだろう。
検察側がそれを求めていると言うのもある。
しかし、現実として理由がはっきり分からない殺人が増えている。
「人を殺してみたかった」と単純にそう考えている訳でもないだろうが。
しかし、動機がどうであれ、殺意がどうであれ被害者としては変わらない。
奪われた命に変わりはない。
何を1番に考えるのか、難しい事は難しのだが。
事実をもっと見つめても良いような気がする。
すっかり難解になった村さんの物語。
心の中に入っていくもの。
「新リア王」も「太陽を曳く馬」も読み進めるのに時間が掛かった。
しかし「冷血」は、読むのには時間は掛からなかった。
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