「ミゼレーレ」 ジャン=クリストフ・グランジェ 創元推理文庫 上・下巻
MISERERE 平岡敦・訳
採譜が禁じられていた、システィーナ礼拝堂だけのための聖歌『ミゼレーレ』。
少年モーツァルトが聴き覚えて楽譜を起こし世に広まった、喩えようもなく美しい聖歌と、パリのアルメニア使徒教会で起きた聖歌隊指揮者の謎に満ちた殺害事件にはいかなる関わりがあるのか?
遺体は両耳の鼓膜が突き破られていた。凶器は?
遺体のそばには子供の足跡……
定年退職した元警部と、優秀だが薬物依存で休職治療中の青少年保護課の若い刑事が、それぞれのこだわりのもと、バディを組んで事件に挑む。『クリムゾン・リバー』の著者による圧巻のミステリ!
<文庫本上巻1頁目より>
アルメニア使徒教会の殺人事件後に続いた同様の殺人事件。
両耳の鼓膜を突き破られ、周囲には、血文字で書かれた聖歌『ミゼレーレ』の歌詞。
元警部と薬物依存症に苦しむ刑事というはぐれ者ふたりによって明らかになっていく聖歌隊の少年たちの失踪事件と、殺された指揮者の秘密。
彼は、ピノチェト軍事政権下の南米チリから亡命してきたドイツ系チリ人だった。
南米のナチ残党と秘密兵器研究、謎のカルト教団のコロニー……。
そして明らかになる、捜査権のない二人の驚くべき過去。
グランジェの強烈な筆致に読者は翻弄され息を吞むこと間違いない!
<文庫下本巻1頁目より>
どこまでも暗い闇が潜んでいる物語。
暗い物語で、読んでいると気持ちが落ち込むが事実も含まれ、歴史的には正しいのだろう。
政権を維持する為に用いられる政策には、拷問がある社会があるのだ。
ナチスの蛮行は結構明らかにされているのかも知れないが、まだまだ知らない歴史がある。
本当は捜査権がない、元警部のリオネル・ダンカンと薬物依存症の刑事セドリック・ヴォロキン。
どちらもトラウマを抱えている事は分かるが、その事が明らかになる後半はより重くなる。
2人が似たもの同士だからお互いの気持ちが分かるのか、2人の接し方が何だか優しい。
すべては戦争が係わっている。戦争がなければこんな事にはならないのだ。
事件の謎が調べにつれ、次々と色々な事が明らかになり繋がって行く。
過去から現代へ、その謎解きの様子がきっちりとしていて分かりやすい。
悲惨な事件と少年の聖歌隊という天使の歌声の対比があるのだが。
残念ながら、美しい方の雰囲気はあまり伝わって来なかった。
それは自分にあまり縁がないからだろうか。
殺人兵器の話も出て来るが、これは超能力の話には時々登場する。
実際にも出来そうで怖い。
ラストの3行はぞっとするが、(その前から、こんな所で歌を聴いて大丈夫なのと思ったが)
これは何年かしたら解決されるのだろうか。
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