「われら闇より天を見る」 クリス・ウィタカー 早川書房
WE BEGIN AT THE END 鈴木恵・訳
「それが、ここに流れてるあたしたちの血。あたしたちは無法者なの」
アメリカ、カリフォルニア州。海沿いの町ケープ・ヘイヴン。
30年前にひとりの少女が命を落とした事件は、いまなお町に暗い影を落としている。
自称無法者の少女ダッチェスは、30年前の事件から立ち直れずにいる母親と、まだ幼い弟とともに世の理不尽に抗いながら懸命に日々を送っていた。
町の警察署長ウォークは、かつての事件で親友のヴィンセントが逮捕されるに至った証言をいまだに悔いており、過去に囚われたまま生きていた。
彼らの町に刑期を終えたヴィンセントが帰ってくる。
彼の帰還はかりそめの平穏を乱し、ダッチェスとウォークを巻き込んでいく。
そして、新たな悲劇が……。
苛烈な運命に翻弄されながらも、 彼女たちがたどり着いたあまりにも哀しい真相とは――?
人生の闇の中に差す一条の光を描いた英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。
<単行本カバー見返し側より>
WE BEGIN AT THE END、私たちは終わりから始める。
親しい人の死に出会い、辛く悲しいことも、そこから生きることが始まる。
30年前に事故で死んだのは7歳のシシー・ラドリー。
シシーの姉スターの恋人ヴィンセント・キングが事故で車ではねてしまう。
しかしヴィンセントはそれに気が付かず、行方不明のシシーを捜索するのに15歳だったスターの友人ウォークやマーサも参加していた。
ウォークはケープ・ヘイヴンの警察署長になり、恋人だったマーサは町を出て弁護士になっている。
スターは父親がいない2人の子ども、13歳のダッチェスと5歳のロビンの母親になっていたが、立ち直れないままアルコールに溺れ、ダッチェスがロビンとスターの面倒を見ているようなものだった。
それを気に掛けるウォーク。
誰もが心の傷を抱えたまま、終わりから始めなければならなかった。
スターの父親のハル・ラドリーも。
これはダッチェスの物語。
「自分は無法者」と言わなくては生きていけない、ダッチェスの強がり。
自分が家族を守ると言う頑なまでの思いが、反対に厄介事を巻き起こして行く。
ダッチェスの思い込みがなければ、ここまで縺れて悲劇になることはなかったのではないか。
本当はもっと誰かを頼れば、もう少し楽にダッチェスもロビンも生きていけるだろうに。
しかし、それが出来なかった。
そんな堅苦しい人ばかり登場する物語。
終わりから始められなかった人たちなのかも知れない。
ダッチェスからは悪者として見られているリチャード・ダークも、ヴィンセントも同じ。
ミステリの要素もあるが、それよりもそれぞれの生き様を描いている。
この人達の人生は、もう少しなんとかならなかったのだろうか。
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