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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

「大阪市学校活性化条例案」への疑問

2012-05-21 06:59:14 | ニュース

http://www7b.biglobe.ne.jp/~hotline-osaka/3.16kasseikazyourei.pdf

今度は「大阪市学校活性化条例案」について、私の疑問に抱いた点を次のとおり列記していきます。また、条例案そのものについては上記のページを見てください。なお、ところどころに変換ミスなのか、誤字が上記のページには見受けられますが・・・・。

・第1条について。この条例案は基本的に「教職員の能力発揮」と「学校が児童等の活気あふれる場」になることを目指す条例だとのこと。だとしたら、たとえば全国統一あるいは大阪府の学力テストの結果公開、教職員の評価の公開、学校選択制の導入などと、これに関連して行われるPDCAサイクルでの学校改革などで、かえって教職員が委縮したり、子どもから活気が奪われることが生じれば、当然、「学校活性化条例」の趣旨に反することになります。昨日の教育行政基本条例案へのコメントにも書きましたが、すでに学校選択制へもさまざまな批判があり、他自治体では取りやめたところも出ています。また、教職員を「罰、罰・・・・」で追い込むような教育施策の実施に対して、「落ちこぼれゼロ法」以来のアメリカ教育改革の動きを取材して批判した報道も出ています。そういう流れからすると、この第1条の趣旨に即して大阪市が導入しようとする教育施策が、その第1条の趣旨自体を裏切ってしまう危険性が多々あります。この点を議会はきっちりと議論することができるのかどうか・・・・。

・第2条について。毎年、校長が教育振興計画に基づいて学校運営の指針を出すそうですが、振興計画がそもそも何年かの期間を想定して作られるものである以上、そんなにコロコロ校長が指針を変えることなど「めったにない」でしょう。また、コロコロ校長が指針を変えているような学校というのは、逆に「一貫した教育方針がない」という見方もできます。この条文をつくる意味があるのでしょうか?

・第3条について。学校の校長が当該校所属教職員の「能力、適性、勤務意欲の向上」をはかるために「指導、監督」を行うとか。だとしたら、たとえば、校長からの卒業式などでの君が代斉唱の指示が所属教職員の「能力、適性、勤務意欲の向上」にとってかえってマイナスになるとすれば、それはやめていいわけですね? 当然、校長から所属教職員へのパワー・ハラスメント的な指導・監督はすべて条例違反になると思われますし、そういう校長の動きを後押しするような市教委からの指示なども条例違反になるでしょう。

・第4条について。校長が学校運営に関する計画をつくるときに「学校協議会の意見を聴く」「教育委員会が支援する」ということになるそうです。でも「教育委員会の支援」が「指示・命令」に近いものになる危険性が残りますし、「学校協議会」も校長のやりたいことを支持してくれる人々で構成されることもありえます。そして、そのようにして練られた学校運営の計画が、子どもの最善の利益に反したり、保護者の意向などからずれている場合は、学校活性化条例ではなくて、教育行政基本条例の趣旨に反するのではないでしょうか。このように、もともとひとつだった教育基本条例案を2つ(職員条例などをからめると3つ以上)にわけたことで、条例相互間の矛盾が起きる危険性があります。

・第5条について。学校運営に関する経費を校長が要求し、市教委が確保するといいますが、市の財政を握る当局(首長を含む)や予算審議を行う議会が、これにノーを言う危険性が常につきまといます。それは、ここ最近の市政改革素案やPT案などを見てもわかることかと思います。だからこの条文なども、教育行政基本条例案などと同じく、「守る気もない条例を無理やりつくっている」という印象を受けてしまうのですが。

・第6条について。前々から言うように、保護者が学校選択制の導入などいらない、全国学力テストの結果公開など不要といった場合、保護者との連携の趣旨からすると、当然それは「やめるべき」ということになるかと思うのですが。「開かれた学校運営」は、他の方法でもできるかと思いますが。

・第7条について。教員の授業運営に関する評価について、市教委や各学校はどのような手法をとるべきなのか。当然、第4条でつくる計画に即して評価をするわけですから、単純に全国一斉学力テストの結果だけで教員の評価を決めるようなことがあってはならない、もしそれがあったとするとこの学校活性化条例の趣旨に反する、ということになりますが。

・第8条について。ここも第4条などでつくった計画の趣旨に即して評価を行い、各学校の教育改善に向けての取り組みを行うわけですから、全国一斉学力テストの結果だけですべてを判断するようなことが「あってはならない」という趣旨になりますよね。また、市教委からの各学校への支援も、各学校の計画や方針に沿った支援になるのでしょうか。もしそうでなければ、市教委から各学校への「余計なおせっかい」にしかならないと思うのですが。

・第9条について。学校協議会に参加する保護者や「教育委員会が必要と認める者」は、「校長の意見を聴いたうえで、教育委員会が」任命するんですよね。だとすれば、校長と意見が対立するとか、その学校運営の方針や市教委の施策に何か異論のある地元住民・学識経験者などは、当初から排除されている形で学校協議会が設置される恐れがあります。これって、学校活性化条例にもとづく協議会設置という施策が、教育行政基本条例の趣旨を裏切るということになるのでは?

・また、第9条4項(3)によれば、この学校協議会が、保護者から学校へのクレーム申し立ての中身を判断する協議を行ったり、指導が不適切だとされる教員への校長の対応などに意見を述べるとのこと。先ほど述べたとおり、校長や市教委に対して異論がある人が排除された学校協議会においては、校長・市教委の意向に即した形で保護者からのクレーム対応や、指導が不適切だとされる教員への対応が行われる危険性があります。また、そのような学校協議会の対応が、校長や市教委の恣意的な対応の「隠れ蓑」に使われる危険性もあるでしょう。

・第10条について。まずは、これまでの外部人材(あえて民間人とはいいませんが)の校長登用によって、学校改革はほんとうにすすんだのでしょうか? もしも本気でそれを行うのであれば、その点検・検証を市教委として行う必要がありますし、その場合は外部人材が居た学校の教職員や保護者、地元住民、そして子どもの意見なども聴く必要があるでしょう。でなければ、外部人材の校長登用という施策が、教育行政基本条例案の趣旨とずれる危険性があります。

・また、第10条については、公募で優秀な校長が集まることへの「幻想」がこの条文をつくった側にはあるのかもしれませんが、条件が悪い校長職であればだれも寄り付かないかもしれないですし、むしろ従来のような任用のほうが学校経験の豊かな管理職が選べてよかったかもしれない、ということもあるかもしれません。そういう意味でも、外部人材の校長登用をすでに実施したところの点検・検証が必要です。なにかとPDCAサイクルをやかましくいう昨今の教育行政ですから、特にそれはやるべきでしょう。

・第11条について。ここはすでに述べてきたとおり、教職員の評価を学校運営の指針や計画に即して行うのであれば、その学校の全国一斉学力テストの結果だけで判断することはできません。

・第12条について。教職員の研修の奨励について、一般論的にはそのとおりかもしれませんが、たとえば現場を離れて研修をしたり、現場においても授業を離れて研修を行うための「条件整備」がなければ、この条文などは絵に描いた餅になります。となれば、各学校に少し多めに教員を配置するとか、教員に余裕のある形で担当授業時間や校務分掌の割り振りなどができるようにする。あるいは、教員に多様な研修機会を提供する。こういった市教委としての教員支援施策の手厚さが問題になってくると思われます。そちらのほうについては、それこそ教育行政基本条例案などでいう「教育振興計画」の問題かと思われますが、いったい、市教委としてどんな教員支援施策を打ち出すのか、そこがあまり明確でないように思います。

・第13条について。今までも校長から教職員の人事に関して、市教委に対して意見を述べることなどなかったんですかね? あらたにこの条文を設ける意味はなんでしょうか?

・第14条について。これも今までの「不適格」教員対応に関するルールがあるのに、またあらためて条例としてこのような手続きを定めるのは、なぜなのでしょうか? また、第12条でいう教員支援施策が不十分で生じている教職員と子どもとの関係上の問題については、この第14条が想定するような「最終的には免職」という対応以前にするべきことがあるようにも思われます。そして、この14条の対応の前提にも、先述の学校協議会の意見が関与します。学校協議会が校長・市教委の意向を「先取り」する形で、ある特定の教員の排除にこの14条を使った場合は、どのようにその問題を是正するのでしょうか?

・第15条について。「就学校指定の手続き」という形でおそらく学校選択制に関する諸規定が整備されるのでしょうが、ここでは何も具体的なことが述べられていません。どのようにすすめていくのでしょうか?

以上のとおり、この「学校活性化条例案」についても、ひとつひとつの条文について具体的に想定される事態や、これまでの大阪市の教育施策の動向などを見ていると、かなり疑問点がある代物だなあというしかありません。ですから、この条例案をすんなりと会派間の数合わせで可決・成立させてしまうことについては、私としてはいろいろと危惧されることが多く、「もう廃案にしたほうがいいのでは?」と今もなお思う次第です。

なお、下記のような最近の新聞のネット配信記事などでは、どうもこちらの学校活性化条例案や職員条例案のほうで修正が行われ、維新・公明の両会派の賛成で可決・成立を目指しているそうです。

しかし、この記事によると、「学校協議会」の設置を必置から選択制にするというそうですが、そうなると、教育行政基本条例案でいう「保護者の意向」などを把握するといった方向性はどうするんですかね? あと、教員評価の分布公表など保護者を含む市民が全く求めていないケースなども、どう考えるんでしょうか?

今後の条例の修正協議において、些末なところで条例案をさわることで、ますます条例案の中身がおかしくなってしまう結果が予想されます。<そういう条例案は、当初から問題が多いのだから、やっぱり廃案にするしかないのでは?>と思いました。

http://www.nnn.co.jp/dainichi/news/120519/20120519043.html (教員評価の分布公表、維新、教育条例案修正へ:大阪日日新聞2012年5月19日ネット配信記事)

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