読書日和

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「マリアビートル」伊坂幸太郎

2010-10-29 23:59:23 | 小説
今回ご紹介するのは「マリアビートル」(著:伊坂幸太郎)です。

-----内容-----
酒浸りの元殺し屋「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた悪魔のような中学生「王子」に復讐するため、東京発盛岡行きの東北新幹線「はやて」に乗り込む。
取り返した人質と身代金を盛岡まで護送する二人組の殺し屋「蜜柑」と「檸檬」は、車中で人質を何者かに殺され、また身代金の入ったトランクも紛失してしまう。
そして、その身代金強奪を指示された、ことごとくツキのない殺し屋「七尾」は、奪った身代金を手に上野駅で新幹線を降りるはずだったのだが……。
物騒な殺し屋たちを乗せた東北新幹線、東京発盛岡着、2時間30分の物語が始まる!

-----感想-----
この作品は「グラスホッパー」と少しだけリンクしています。
グラスホッパーに登場した殺し屋たちの名前がこの作品にも登場したり、もしくは殺し屋本人が再登場したりもします。
時系列としては、グラスホッパーから数年後が舞台になっているようです。
とはいえ作品としては独立しているので、この作品から読んでも十分楽しめると思います

今作では東北新幹線の「はやて」が舞台になっています。
「はやて」の中に図らずも物騒な殺し屋たちが集結してしまい、何ともスリリングな新幹線の旅が始まります
元殺し屋の「木村」、狡猾な中学生「王子」、腕利きの殺し屋「蜜柑と檸檬」、何かと不運に見舞われる殺し屋「七尾」、さらには「スズメバチ」の影も。。。
それぞれの殺し屋たちの物語は、新幹線が進むにつれて絡まっていきます。
この構成は、伊坂さんの作品でよく見られますね。
最初は別々だった物語が、徐々に絡み合い、一気に怒涛の展開となっていく感じです^^

何かと不運に見舞われる殺し屋「七尾」はなかなか印象深かったです。
七尾は「蜜柑と檸檬」が護送している身代金を強奪するのが仕事で、予定では東京駅を出発してすぐ、上野駅で降りるはずでした。
しかし持ち前のツキのなさに見舞われて降り損ねてしまいます。
でも実はこの降り損ねたのは、その後の展開を考えるとある意味ラッキーだったんですよね。
七尾は殺し屋業界では若干馬鹿にしたニュアンスで「天道虫(てんとうむし)」と呼ばれています。
しかし天道虫は小さな虫ながらも、幸運を運ぶようなイメージもあります。
自分では不運だと思っているわりに、重要な場面では実は運があるんだなと思いました。

腕利きの殺し屋「蜜柑と檸檬」は、檸檬のキャラが面白かったです。
檸檬は「機関車トーマス」が大好きで、初めて会った人を機関車トーマスに出てくるキャラに例えたがります。
「トーマス」、「ゴードン」、「ジェームス」、「パーシー」などです。
最初はそんなに重要視していませんでしたが、これが終盤で思いのほか盛り上がる伏線となりました。
トーマスのキャラには「ディーゼル」という悪役機関車がいて、終盤で檸檬はある人物のことを「俺はお前のことを○○だと思っていたが、どうやら違ったようだ。お前はディーゼルだ」と言う場面があります。
檸檬がその人物の正体を見破った場面で、読んでいてかなり盛り上がりました
”黒いディーゼルだけは信用するな”
まさか機関車トーマスネタでこんなに緊迫した展開になるとは思っておらず、さすが伊坂さんだと思う一コマでした。

それと、登場人物の中で圧倒的にムカついたのが狡猾な中学生「王子」。
名字に相応しく、生まれながらの王のような性格の「王子」は、他人を支配することを好みます。
本当に歪んでいるという表現がぴったりで、こんな中学生がいたら最悪だなと思います。

元殺し屋の「木村」は幼い息子を王子によって建物の屋上から突き落とされ、寝たきりの状態にされてしまいます。
木村はその復習のために「はやて」に乗り込んでいました。
しかし王子の狡猾さは想像以上で、そう簡単に殺せるような相手ではありません。
しゃべり方もいちいち嫌味だし、本当に王子は嫌なキャラでした。
早く誰かに殺されてしまえと思いましたが、こういうキャラはなかなかしぶといんですよね。。。

それぞれの物語が絡み合っていくわけですから、当然殺し屋同士の戦いも起きます。
中でもスリリングだったのが「七尾」対「スズメバチ」の戦いです。
物語を読んでいて、車内に「スズメバチ」が潜んでいるのは確定だったのですが、それが思いもよらない人物で衝撃的でした。
「お前がスズメバチか!!」と度肝を抜かれましたね
スズメバチは「グラスホッパー」にも登場して、最後の最後に少しだけ登場しただけでしたが大仕事をやってのけました。
まさに「ハチの一刺し」で殺しをやってのける危険な方々です。
そんな強敵を相手に「天道虫」こと七尾が勝てるのか緊迫感たっぷりの戦いにハラハラしながら読んでいました。

それにしても。。。
新幹線が走っている間、次から次へと死人が出て、どんどん死体が積み重なっていきます。
七尾の仕事の仲介役「茉莉亜」が言っていた「一体どうなってんのその新幹線は。死体列車?」という台詞が結構ウケました。
かなり怖い光景のはずなのですが、こういう台詞があると滑稽なようにも感じますね^^

この作品を読んで、こんな物騒な新幹線にだけは乗りたくないと思いました(笑)
スリリングで予想外の展開もあり、伊坂さんらしい作品に仕上がっているので、興味のある方はぜひ読んでみてください


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