読書日和

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「水族館ガール2」木宮条太郎

2016-05-29 16:20:51 | 小説
今回ご紹介するのは「水族館ガール2」(著:木宮条太郎)です。

-----内容-----
水族館〈アクアパーク〉の飼育員の先輩と後輩という立場から、恋人の関係になった由香と梶。
しかし、梶は関西の老舗水族館へ出向。
離ればなれの職場でそれぞれが失敗を繰り返す日々。
そしてある日、傷を負った野生イルカが海岸に漂着したとの知らせが…
女子イルカ飼育員の奮闘を描く感動のお仕事ノベル。
イルカやアシカ、ペンギンたち人気者も登場!

-----感想-----
※「水族館ガール」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

新年度になり梶良平が関西にある海遊ミュージアムに出向します。
館長室に挨拶に来た梶はそこに居た女性レスラーのような雰囲気の鬼塚館長代行の態度に面食らいます。
梶が「よろしくお願いします」と言うと、「よろしく?そらあ、無理やろうな」と言い、さらに次のような会話をしていました。

「あの、こちらは館長室では?」
「館長室やで」
「では、その、館長は?」
「おらんで」
「じゃあ、お戻りは?」
「知るかいな。こっちが知りたいわ」

この対応にはさすがの梶も面食らっていました。
同じく館長室に居た和服姿で坊主頭の初老の男が事情を説明してくれて、母体である市のほうで色々あって館長は現在休職扱い、代わりに飼育部門の総責任者の鬼塚が館長代行を務めていて周りからはオニ代行と呼ばれているとのことです。
そして梶に説明してくれたこの男は「栄誉館長」であり、その正体は上方落語の噺家、桂亭遊楽(かつらていゆうらく)師匠です。
鬼塚によると海遊ミュージアムは出向者を受け入れられる状態ではなく、任せられる仕事もないとのことですが、そんな時に咲子(さきこ)という企画室の女性が助け船を出してくれます。
梶はまず学生さんへの教育業務として咲子とともに女子高に行って「相利共生」の説明をすることになります。

その頃嶋由香のほうは兵藤という18歳の専門学校生が後輩として入ってきました。
背は高いがヒョロっとしているためあだ名はヒョロになります。
そしてヒョロは由香が新人の時よりとても優秀で、由香は複雑な心境になっていました。
ただ一年経ち由香もかなり成長しています。

由香は事情通の吉崎姉さんから海遊ミュージアムの岬館長が不在となった顛末を聞きます。
梶を海遊ミュージアムに呼んでくれたのは岬館長でした。
二年前に市本体から海遊ミュージアムの経営建て直しのためにやってきた岬館長はかなりのやり手で建て直しも上手く行っていたのですが、建て直し計画仕上げの年となる今年、急に市の都合で市本体に引き戻されることになりました。
市は別の館長を送ろうとしましたが、計画建て直しの途中で館長がすげ替えられることに現場は猛反発し、新たな館長は迎えずに鬼塚館長代行、遊楽栄誉館長の体制で業務を行うことになりました。
そんな状況なので梶は鬱陶しい邪魔な存在として煙たがられていました。

梶は鬼塚から「トンネル水槽構想」の議論の叩き台を作るように頼まれます。
海遊ミュージアムには最近流行の透明なトンネル通路を歩くトンネル水槽がなく、その案を作ってくれとのことです。
ゴールデンウィークを間近に控え本来なら現場は猫の手も借りたいほど忙しいのですが、鬼塚は「悪いけどな、来たばかりのあんたに割く時間は、今、誰にもないんや」と言い現場とは関係ないこの仕事を振っていました。
鬼塚の言葉は一年前に自分が由香に言ったのと同じ言葉だということを梶は思い出しました。
今度は自分が由香の立場になったのです。

梶は遊楽とともに奈良の奥大和にある水族館の水槽を作っている久間(くま)製作所を訪れ、作成したトンネル水槽案の説明をしますが、梶の案は猛反対に遭います。
梶がこうもつまずくのを初めて見ました。
また、未だに海遊ミュージアムの職員と打ち解けられずに梶は悩みます。
吉崎と由香は梶の無愛想な性格では周囲と合わないのではと心配しますがまさにその通りになっていました。

ちなみに由香は梶のアパートを訪れますが、色々とあって激怒しすぐに帰ってしまいます。
梶は咲子と浮気しているのではと疑いを持たれてしまいます。
この展開は予想どおりで結構ウケました。
激怒していた由香がファストフード店に居ると瀬戸内海洋大学の沖田という男に遭遇します。
沖田はイルカトレーナーとしての由香のことを知っていました。
沖田は由香にアクアパーク生まれのイルカ「ニッコリー」と野生のイルカの違いを説明していました。
遠く離れた地で暮らすことになった梶と由香それぞれに新たな人との出会いがあり、二人の関係がどうなるのか気になるところでした。

感情で突っ走ることがある由香は梶への腹いせに海遊ミュージアムでトラブルを起こし、そのせいでアクアパークと海遊ミュージアムという水族館同士の揉め事になりかねない状況になります。
そこは岩田チーフがフォローしてくれていました。

ある日岩田と由香はストランディング(座礁)したイルカを助けることになります。
その時岩田チーフは本来なら獣医の磯川がやるべきな作業まで由香の前でしていました。
磯川によると岩田チーフは市からの出向という形から水族館に転籍した由香の決断に応えるため、色々なことを見せてあげようとしているとのことでした。
保護されたイルカは野生のため人間を警戒していて餌を食べてくれません。
由香はこのイルカと向き合うことになります。
「保護個体」と呼ばれ名前はないですが由香とヒョロは密かに保護個体を省略形にした「ホコ」という愛称で呼んでいました。
またこのイルカは野生なので海に返すことになりますが、感情移入しやすい由香はアクアパークで飼育したがっていました。
その時に岩田チーフが印象的なことを言っていました。

「いいか。この仕事をやってると、時々、自分が何をやったらいいのか、分からなくなる時がある。そういう時はよ、目の前の水族だけを見るんだ。で、『その水族にとってベストは何か』だけを考える。人間側の余計な感情を絡ませねえようにな」

「水族館ガール」の時にも問題となった「飼育技術者は感情移入してはいけない」というテーマについて丁寧に由香に説いていました。

梶のほうはアシカの仲間のオタリアという、極めて飼育が難しい怪獣への給餌を押し付けられていました。
咲子によると「新入りいびりの仕打ち」とのことですが梶はオタリアに向かっていきます。
そして明らかに咲子は梶に好意を持っていて、これは咲子が梶に想いを伝える展開もあるのかなと思いました。

一つひとつの業務と真摯に向き合ったことでやがて鬼塚も梶のことを認めてくれるようになります。
そんな時、梶は海遊ミュージアムを不在にしている岬館長と待ち合わせをして話すことになりました。
その時の岬館長の「水族館が変わろうとしていること」の話は興味深かったです。

「『オラが町にも水族館、どこかで見た同じ光景を』では、もう通用せんのです。ある内陸部の水族館は海洋生物の展示をやめました。地元の渓流をアピールし、淡水専門館になったんです。ある水族館はクラゲ専門館に、ある水族館は漁協と協力して体験型のスクール館に。皆、悩みつつ変わろうとしとる」

たしかに90年代半ばくらいから水族館の経営はどんどん厳しくなっています。
単に海の生物を展示するのではなかなかお客さんは来てくれないので、色々な水族館が個性をアピールして変わろうとしています。
また、岬館長の「もの珍しいという感情は長持ちしない。面白くてためになるが必要」という言葉も印象的でした。
珍しいだけでは1回見れば満足して終わってしまいますが、面白くてためになれば「また来ようか」と思ってもらえるとあり、その工夫は大事だと思いました。
現在の海遊ミュージアムはアカデミック(学究的)な雰囲気であり、そこから「新しい海遊ミュージアム」を形作るため、梶は大役を頼まれることになります。

「水族館ガール2」では一年前の由香と似た立場になった梶が戸惑いながらも海遊ミュージアムで奮戦する姿が印象的でした。
トラブルを起こしながらも時に鋭い指摘をする由香もこの先のさらなる成長が楽しみです。
物語的にはもしかすると続編が出るかも知れないので、出た場合は読んでみたいと思います。


※「水族館ガール3」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。
※「水族館ガール4」の感想記事をご覧になる方はこちらをどうぞ。

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