なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

熱中症ではなく菌血症

2024年07月07日 | 感染症

 7月1日(月)に隣町の内科医院から63歳男性が紹介されて来た。ふだんはその医院に糖尿病・高血圧症で通院している。

 炎天下での作業が続いていたそうだ。4日前からの食欲不振・嘔気が続いているという。熱中症で入院点滴が必要という紹介だった。

 血圧90/59mmHgと低下していて、脱水状態だった。脈拍数100/分・酸素飽和度94%(室内気)で体温は37.2℃だった。

 血液検査で白血球16000・CRP35.8と著明な炎症反応の上昇を認めた。BUN57.5・血清クレアチニン2.62と腎障害がある。CK425と筋原性酵素の上昇は軽度だった。

 胸部X線で肺炎像はなく、尿検査・肝機能検査も異常はなかった。外来で診て入院させた先生は、入院後に急性腎前性腎不全として多めの点滴を入れていた。

 入院してからは39℃の発熱が続いた。担当の先生は血液培養検査2セットを提出した。すると、提出した翌日に検査室から2エットからグラム陰性桿菌が検出されたと報告があった。

 屋外で作業する方なので、両手に傷がある。当初はそこから入ったのかとも考えたようだが、グラム陰性桿菌だと内臓由来が考えられる。

 この患者さんは大学病院で胸部大動脈瘤にグラフト内挿術を、腹部大動脈から両側腸骨動脈のYグラフト置換術を受けている。グラフト感染の可能性もあった。

 7月4日に呼吸器外来に来てもらっている非常勤医が、大学感染症内科の先生なので、相談してもらうことにした。「血圧は保っていて食事摂取もできるので、まずはエンピリックに抗菌薬を投与して菌名判明を待つ。グラフト感染が疑われるときは大学病院へ紹介する」というアドバイスを受けていた。

 

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敗血症性ショック

2024年04月03日 | 感染症

 3月31日(日)は日直をしていた。午後5時前に施設入所中の77歳男性を施設職員が連れてきた。知的障害者の施設だ。

 その日は食事摂取が悪く、意識も低下していた。酸素飽和度を測定しようとしたが、測定不可能だった。全身に浮腫があった。

 救急室に入れて、ストレッチャーに乗せた。衣服を脱がせると、全身が紫色になってチアノーゼだった。発熱はなく、通院している医院から利尿薬(アゾセミド)が処方されていて心不全の増悪かと思ったが、どうも違う。

 血圧は最初100前後だったが、その後90台になった。ふだんは120くらいはあるので低下している。心拍数は120~130/分だった。

 通常の肺炎・心不全の悪化かと思ったが、胸腹部CTでは悪化するほどの肺病変は認めなかった。胸骨が骨折しているようでその周囲に軟部組織が腫瘤状になっていて空気もある。表面からも握雪感がある。

 骨折周囲に膿瘍を形成しており、ガス産生菌のようだ。敗血症性ショックだった。

 末梢血管は全く見えず、採血は動脈から採取した。酸素5L/分で酸素分圧63とぎりぎりだった。点滴は大腿静脈は大分深い位置にあり、結構動脈が被っている。首は硬くて、展開し難い。

 当直は血管穿刺の上手な腎臓内科の若い先生だったので、相談してみた。すると、首を右側に向けると左頸部は出せるので、左内頚静脈からCVカテーテルを挿入してくれた。

 酸素吸入が始まり、点滴が入り始めると、チアノーゼが次第にとれていった。酸素飽和度も指では測定できないので、前額部での測定になったが、94~95%になった。

 

 家族は甥と姪が来てくれた。事情を説明して、首の硬さから気管挿管は無理などは判断していたので、病状悪化時はDNRとさせてもらった。

 来院時は全く発語がなかったが、処置をするにつれて声を上げるようになった。甥は私のことはわかっていないと思います、といっていた。それでも翌日も病院に顔をみせてくれた。

 

 血圧が100以上になって、チアノーゼが改善すると、今度は全身浮腫が目立つ。利尿薬の静注も追加することにした。

 翌4月1日午後に検査室から、血液培養でグラム陰性桿菌が検出されたと報告がきた。まさに菌血症・敗血症だった。

 菌種からみると、胸部打撲・骨折・皮膚挫創からの表皮からの感染ではない。尿路感染症など多臓器の感染症から、菌血症となって、胸骨骨髄炎・骨破壊・周囲膿瘍となった可能性がある。そうなると化膿性脊椎炎などもあるのか。

 

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敗血症性ショック

2024年03月07日 | 感染症

 3月5日(火)の午前中は救急当番・発熱外来担当をしていた。3月2日から発熱が続き、咽頭痛・咳と倦怠感があるという29歳女性が母親の車で受診した。

 前日の3月4日に市内の病院(隣りの市)を受診して、コロナとインフルエンザの検査は陰性だった。家族5人に発熱のある人はいない。子供が小さいので、それらにかかっているか確かめたかったそうだ。

 倦怠感と胸部苦悶感があり、同日の夜間に地域の基幹病院を受診した。検査で異常ないといわれたというが、詳しい内容はわからない。

 発熱外来なので、自動的にコロナとインフルエンザの迅速検査が行われたが、両者陰性だった。症状は上気道症状だが、倦怠感と胸部苦悶感が気になった。酸素飽和度は98%(室内気)で問題はない。

 そこまでは車に乗っていたので、病院内に入ってもらって検査することにした。すると発熱外来担当の看護師から、血圧が68mmHgという報告があった。車椅子に座っていたが、すぐに横臥させると血圧は90mmHg台になった。一瞬ウイルス性心筋炎が頭に浮かんだ。心電図は洞性頻脈以外はまったく正常だった。

 症状は発熱・咽頭痛・咳で上気道症状だったが、発熱した時から下痢(水様便)が続いているという。嘔気はなく、腹部は下腹部にやや重苦感がある。

 そうなると下痢による脱水症での血圧が低下と思われた。食事摂取低下も続いている。それなら点滴すれば何とかなると思ったが、それではなかった。

 血液検査で白血球37600・CRP25.0と著明に炎症反応が上昇している(どちらも検査室から異常値として報告)。検査室の血液検査担当の技師さんに白血球分画を診てもらったが、芽球はなく、顆粒球が97%だった。

 結膜を見て貧血と思われたが、Hb9.0g/dl(MCV74.7)で鉄欠乏性らしい。血小板は22.5万と正常域だった。血液疾患ではないようだ。肝機能障害(AST 40・ALT 141・ALP 141・γ-GTP 106・総ビリルビン3.4)と腎機能障害(血清クレアチニン5.49mg/dL)がある。

 頸部~腹部CTで頸部に小リンパ節腫脹があるが、耳鼻咽喉科領域に異常は認めない(耳鼻咽喉科医にCTを診てもらった)。

 胸部は両側肺の下葉背側にわずかに浸潤影を疑うような所見はあるが、それだけが原因とは思えない(単に水分分布による陰影の可能性もある)。

 尿は導尿してもわずかしか採取できず、沈査までの検査ができず尿路感染症とは断定できない。腹部は両側腎臓に異常はなく、それ以外にも肝胆道系や腸管に異常はなかった。

 乳酸リンゲル500mlの2本目が入っていても、血圧が70mmHg台になった。だるそうにしているが会話はできる。

 細菌感染症による敗血症性ショックだが、感染巣がわからない。なにしろ年齢が若すぎるし、とても当院で責任をもって治療できる自信はない。

 地域の基幹病院に連絡した。救急搬送は地域医療連携室に連絡して、担当科に回してもらうことになっている。救急科の先生にお願いします、と伝えた。すると、すぐ送ってくださいといわれました、という。

 すぐに救急隊を呼んで、ありがたく搬送させてもらうことにした。点滴全開で、救急の看護師さんに救急車内で次の点滴に切り替えてもらうことにした。

 29歳女性と敗血症性ショックとしか、Dr.に伝わっていないはずで、年齢の点で問題なく受けてもらえたのかもしれない。検査結果をみると驚かれるのではないかと思ったが、重症を見慣れている先生だとそれほどでもないか。

 血管(静脈)が見えにくい方で、手背の静脈への点滴も上手な看護師さんが3回目の穿刺で入れた。採血は無理で動脈からの採血となった。血液培養2セットは動脈からの採血になってしまう。採取しないで搬送した。

 先方ではCVカテーテルを挿入して、そこから採血するのかもしれない。細菌検査室があり、院内で菌名・感受性がわかる病院なので、当院(細菌検査は外注)で施行するより結果が早い。

 

(後日記)

 3月11日途中経過の報告がきた。血圧低下は下痢の持続と水分摂取不足によるhypovemic shockで、敗血症性ショックではないとされた。敗血症ではあるそうだ。感染源は不明ともされていた。

 

 

 

 

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敗血症性ショック

2024年03月05日 | 感染症

 3月1日(金)の午前中、急性期病棟で病棟看護師さんがショックの患者さんが入院すると慌てていた。

 COVID-19の患者8名が入院しているため(スタッフは5名罹患)、基本的には入院を止めている。軽症~中等症ならば地域包括ケア病棟に入院できるが、ショックだとそちらには頼めなかった。

 その日の午前中は発熱外来担当・救急の入院担当だったが、連絡はきていない。内科新患を受診した患者さんが、いきなりショックだったのかと思った。

 確認すると、前日2月29日の当直帯に高熱で救急搬入された92歳女性だった。当直だった内科の先生が対応していた。その時は血圧110/54mmHg・脈拍93/分・呼吸数24回/分・酸素飽和度100%(室内気)だった。(後から見れば血圧は低下していたのだろう)

 胸腹部CTで肺炎はなかった。右腎結石・右腎盂拡張があった。やせていて内臓周囲の脂肪織が乏しく、尿管結石は確定し難い。膀胱内に石灰化があった(尿管口に詰まっている?)。

 白血球 6200・CRP 0.1と炎症反応の上昇はなかった(急性期のためだろう)。抗菌薬を投与して翌日泌尿器科医と相談することにして帰宅とした。

 

 翌3月1日の午前10時前に家族の車で受診したが、血圧65/42mmHg・脈拍101/分になっていた。当直だった先生が翌日診ることにしていたので、そのまま呼ばれて対応していた。

 血液検査では、白血球 34600・CRP 7.6と上昇していた。肝機能障害と腎機能障害(血清クレアチニン2.06)もあった。尿検査は白血球50-99/HPF・細菌(3+)。

 尿路結石による閉塞性腎盂腎炎だと泌尿器科救急になるが、なかなか受け入れが難しい。地域の基幹病院でもCOVID-19 の院内発生があって入院が厳しいようだ。点滴・抗菌薬・昇圧薬が開始された。

 超初期の炎症反応(白血球・CRP)はあてにならない。

 

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発熱、口内炎、リンパ節腫脹

2024年03月02日 | 感染症

 2月27日(火)に市内の医院から16歳女性(高校生)が紹介されてきた。発熱外来担当だったので、コロナとインフルエンザの迅速検査を提出した。午前中は外来があるので、陰性確認後は内科新患担当の先生が診ることになっている。

 2週間前の2月13日から発熱・口内炎・頸部リンパ節腫脹・頭痛があり、2月22日医院を受診した、とある。発熱は微熱が続いて、20~21日には38℃になった。コロナとインフルエンザの迅速検査は陰性で、アセトアミノフェンで経過をみたそうだ。

 口内炎とあるのは、口腔内アフタが散在していたのだろうか。頸部リンパ節腫脹というのは、痛みがあったようだ。

 発熱が続いて、2月26日に再受診した。またコロナとインフルエンザの迅速検査を行って陰性だった。

 血液検査で、白血球1700と低下していたが、血小板減少はなかった(貧血もない)。CRP0.8と発熱期間の割にわずかな上昇でウイルス感染症を示唆している。

 EBウイルス感染症かヘルペスウイルス感染症を疑いますが、という紹介だった。抗体検査で確認すればという気もするが、2週間発熱が続くので、そのまま経過をみたくなかったのだろう。

 

 診察では口内炎の所見はなく、咽頭・扁桃に発赤・腫脹はなかった。頸部リンパ節腫脹はある。血液検査では、白血球2200・CRP1.2とほぼ同様の所見で、リンパ球37.0%・単球12.0%・異形リンパ球1%だった。

 EBウイルスだと一般的にはリンパ球増加による白血球増加が多い。ただ肝機能障害(AST 171・ALT 128・LDH 936で特にLDH上昇が目立つ)があり、EBウイルスっぽい。

 EBウイルスと単純ヘルペスウイルスの抗体検査が提出されて、1週間後の再受診とされた。どちらかというと単純ヘルペスウイルスの初感染のように思われるがどうなるか。

 それにしてもコロナとインフルエンザの検査を計3回受けたことになる。今時としては仕方ないか。

 

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ウイルスの本

2023年12月31日 | 感染症

 最近、ウイルスに関する一般向けのわかりやすい本を集めている。中でも武村政春先生の本がわかりやすい。分子生物学からウイルス研究になり、現在は巨大ウイルスを研究されているそうだ。(妖怪も研究している)

 下記の本は小学生でも読める内容で、武村先生がこれまで書かれたブルーバックスよりもやさしい。あの宮沢孝幸先生と共著でウイルス図鑑も出している。

 

 医師・医学者が知っているウイルスの種類はわずかだ。ウイルスは動物や植物などあらゆる生物に感染する。動物ウイルスは獣医・獣医学者が詳しいわけで、植物ウイルスは植物学者の方が詳しい。

 人間の身の回りにも、身体の中にも無数のウイルスが存在している。ウイルスは感染する生物が決まっているので(宿主特異性)、人間に感染しないウイルスが無数にいても、病気にはならない。

 それが本来の宿主以外の生物に感染するようになると、共生関係が保てず、高病原性となって宿主が死んでしまう。宿主が死んでしまうのは、生物の中でしか生きられないウイルスとしては好ましいことではない。

 SARS-CoVは高病原性でほとんど消滅してしまった。SARS-CoV-2は当初は致死率5%だったが、致死率が低下する方向に変異してきたので、普通の風邪ウイルスとして定着していきそうだ。

 

図解 身近にあふれる「細胞・遺伝子」が3時間でわかる本 (ASUKA CULTURE 2302-8)

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不明熱

2023年12月01日 | 感染症

 11月28日午前の発熱外来を48歳女性が受診した。40℃の発熱があった。腰痛があって動けないが、前日当院の整形外科外来を受診していた。

 整形外科の記載は11月26日から腰痛とあった。土日に娘さんのこと東京に出かけていた。結構歩いたらしいので、それが引き金になったかもしれない。ただ後で診察した整形外科医に訊くと、安静時痛が気にはなってはいたそうだ。体重が100kg超と肥満がある。

 発熱外来なので、上気道症状がなくてもコロナ・インフルエンザの迅速検査から始まる。両者陰性だった。

 

 この患者さんは2019年に心不全で外来を受診して、地域の基幹病院循環器内科に紹介していた。返事には拡張型心筋症様で心収縮能が全体的に低下しているとあった。糖尿病もあり、心不全に対してにもなるがSGLT2阻害薬が処方されていた。

 何らかの細菌感染症と判断され、院内で精査を行うことにした。白血球14300・CRP19.0と炎症反応高値があった。アトピー背皮膚炎で基幹病院皮膚科にも通院している。

 処置室の看護師さんが蜂窩織炎でしょうか、といっていた。膿痂疹(少し時間が経ったもの)と確かに蜂窩織炎様の発赤が身体中に散在している。ただし、圧痛を伴うようなここが蜂窩織炎といえる部位はなかった。

 肺炎像はなく、意外に尿混濁もなかった。腰痛に注目すれば皮膚感染症から波及して、化膿性脊椎炎になる可能性がある。腰椎MRIで確認することにしたが、特に所見はなかった。(椎間板ヘルニアは軽度にある)

 整形外科医にもMRIを確認してもらったが、ないそうだ。病初期に画像で出ない可能性もあり、1週間後に再検してはということになった。

 心雑音はないと判断したが、自信はない。当院の心エコーは他の病院から検査技師が来る週1回の検査になっている。自分でもエコーを当ててみたが、よくわからない。

 血液培養2セットと(尿所見は異常がないが)尿培養を型通りに提出した。入院で、蜂窩織炎?としてセファゾリンで治療を開始した。

 次の日に検査室から血液培養2セットからグラム陽性球菌が検出された報告があった。やはり皮膚からの菌の侵入、心内膜炎の疑い、化膿性脊椎炎疑いになる。抗菌薬を全グラム陽性球菌カバーのバンコマイシンに変更した。

 

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー~ケアネットまつり

2023年10月30日 | 感染症

 CareNeTVで、ケアネットまつりとして著明な先生方の講義が出ている。岡秀昭先生のレクチャーは何度も見返している。ご著書の「感染症プラチナマニュアル」に沿って日常診療を行っている。

 ただ岡先生は、新型コロナは基本飛沫感染、といわれる。エアロゾル感染は空気感染とは違うともいわれる。

 医療センターの西村秀一先生らは、新型コロナはエアロゾル感染であり、要するに空気感染であるとしている。インフルエンザも他の呼吸器ウイルスも基本的にはエアロゾル感染と考えているようだ。

 西村先生らが主張するように、飛沫と飛沫核は含まれる唾液成分の量が連続的に変化しているだけで、はっきり区別できるわけではない。ダイアモンド・プリンセス号では循環式換気により個室にいても感染した。飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)ではなく、すべてエアロゾル感染と表現するのが正しいと思う。

 通常の風邪もインフルエンザも、周囲に感染者がいない(わからない)状態で感染している。新型コロナも現在はそうなっている。無症状感染者がいることも含めて、それはエアロゾル感染したと考えるのが妥当だと思う。

 

Dr.岡の感染症プラチナレクチャー
お祭りVer.発熱診療
2023年9月23日

症例)22歳女性 39.0℃の発熱と倦怠感
(この時点では)診断できない
検査値:白血球6340・好中球93.5%・CRP6.61、コロナ・インフルエンザ抗原検査は陰性
(この時点では)診断できない

PCR診断のゴールドスタンダード
・咽頭よりも鼻咽頭の方がウイルス量が多い
・PCRは鼻咽頭スワブまたは喀痰(エアロゾル対策のもとで採取)
・スワブでの検体採取の方法
 …少し頭部を後方に反らして目を閉じてもらう

PCRについて
・PCRの精度-高い特異性
 理想的な環境では高い感度も持つが、臨床性能は条件により可変的
・偽陽性はまれ
・偽陰性率は5%未満から40%
・繰り返し陰性で、4回以上の検査で初めて陽性となることはまれ

 偽陰性
 ・暴露日 100%
 ・5日目 38%
 ・8日目 20%
 ・21日目 66%
 Ct値の臨床応用は不正確(異なる検査室で標準化されていないため)

PCRの解釈と運用
・PCRが陽性=COVID-19確定
・PCR陽性≠感染力がある
・陰性でも、可能性が高ければ疑いのまま!!

病院や医療施設での感染予防策
COVID-19は
・症状出現前から感染性がある
⇒病院に入る人全てのユニバーサルマスク(全員のマスク着用)実施を推奨
●実際に医療従事者の感染予防効果あり ユニバーサルマスクの導入後⇒医療従事者のCOVID-19陽性者が減った

いずれにしても大切なことは
決して ガードを下ろしてはいけない!ということだ

症例)22歳女性 39℃の発熱と倦怠感 続き
病歴で、コートジボアール共和国から帰国
末梢血塗抹でマラリア原虫2%
診断:熱帯熱マラリア
治療マラロン

感染症のSTSTAE
(Dr.徳田の臨床推論講座)
S:Sick contact 病人との接触
T:Tb contact 結核暴露
S:Sexual History 性行為
T:Travel History 渡航歴
A:Animal contact 動物との接触、生肉
E:Enviromental Exposure 環境暴露(山、川、温泉)

症例)54歳男性 39℃の発熱と頭痛、倦怠感
診断はデング熱
渡航地:インドネシア
暴露歴:蚊
潜伏期:3~5日

症例)41歳男性39℃の発熱と頭痛、倦怠感
診断はレプトスピラ症
渡航地:西表島
暴露歴:河川での遊泳
潜伏期:5~7日

エボラ出血熱
・症状:発熱、頭痛、倦怠感、嘔気、下痢
潜伏期:約7~10日間
流行地:中央・西アフリカ

症状は非特異的
マラリア、ウイルス出血熱(デングも)、腸チフスの症状での区別は難しい
外来での
発熱!発疹!下痢!咳!
必ず渡航歴の確認をしましょう→速やかに感染症専門医へコンサルト

一方で!
・院内発熱の診断は難しくない!
・ただし、原則を守ること

発熱、CRP上昇のみを根拠に
抗菌薬を開始しない、変更しない、追加しない

感染症診療は三角形で考える
感染臓器
微生物
抗菌薬
  CRPは臓器も微生物も教えてくれない!

感染症診療は2段構え
初期治療(経験的治療)標的治療
 De-escalation:敗血症、細菌性髄膜炎、重症肺炎
 Escalation:膀胱炎、副鼻腔炎

頚椎歯突起周囲石灰化、CRP12
→偽痛風
膝関節炎、CRP18
→偽痛風

院内発熱 非感染症
薬剤熱
偽痛風
深部静脈血栓症
無石胆嚢炎
内分泌疾患

薬剤熱 比較三原則
・比較的徐脈
・比較的元気
・比較的低CRP
発疹や好酸球増加があればラッキー

感染症?非感染症?
・CRPだけで判断できない!
・感染巣、微生物を丹念に探すこと
・感染症は原則、悪化か改善のみ!

院内FUOの原因
〇感染症は悪化か改善する
〇引き分け状態なら以下を鑑別する
・膿瘍
・C.difficile感染症
・薬剤熱
・深部静脈血栓症、肺塞栓症

院内発熱 感染症
だいたいこのどれか!
カテーテル血流感染
カテーテル尿路感染
院内肺炎人工呼吸器関連肺炎
手術部位感染
C.difficile感染症
ひとつずつ指先確認!

●カテーテル血流感染症
 局所感染所見は? 3%

カテーテル血流感染の診断基準
①末梢血液培養の少なくとも1セットが陽性
  +
発熱、悪寒戦慄、血圧低下などの所見があり
  +
カテーテル以外に感染のフォーカスがない
②なおかつ以下のうちいずれか陽性
a.カテーテルの定量・半定量培養で有意な菌量あり
b.CV血・末梢血の培養陽性化に有意な時間差あり
c.CV血・末梢血の定量培養で、コロニー数比が5:1より大きい

●カテーテル尿路感染症
無症候性細菌尿かどうか?
・高齢者では20%ほど
・原則、利用しない(例外:妊婦。泌尿器科手術前)
・カテーテル留置があると1日4%細菌尿
 
膿尿、細菌尿あり≠尿路感染症
カテーテル尿路感染症の診断
膿尿、細菌尿あり+除外診断
⇒血液培養を提出
尿培養から大腸菌、血液培養から黄色ブドウ球菌(こちらが本物)

●院内肺炎/VAP
院内肺炎、VAPの診断
・新規の胸部陰影
  +
・以下のうち2つ
 ✓発熱
 ✓WBC増加
 ✓膿性痰増加
この診断基準でおおよそ7割が実際に肺炎!
⇒血液培養を提出

●手術部位感染
深部か、浅部か?それが問題
深部は表面からではわからない

表層切開部:皮膚、皮下組織
深層切開部:筋膜、筋層
臓器体腔:腹腔内感染、新内外膜炎、縦隔洞炎、頭蓋内感染、骨髄炎、副鼻腔炎、乳腺炎、血管の感染など

●CDI
院内下痢
・非感染性7割→薬剤が多い
・感染性3割→ほどんどがCDI
下痢があれば、CDトキシン抗原検査を出す
便培養ではない

院内発熱で大切なこと
・基本に忠実に、型通りにやる
・全身を診察
・除外診断

発熱ワークアップ
 血液培養2セット尿培養胸部X線

症例)72歳男性
脳出血で入院
開頭血腫除去術実施
術後7日目に発熱、頻脈、血圧低下あり
手術部位は問題なし、喀痰増加なし、胸部聴診異常なし
人工呼吸管理下で経鼻経管栄養中
右前腕に末梢ライン留置あり、オムツ
感染症?非感染症?
・術後7日
・急激に悪化
おそらく感染症!

ひとつずつ指先確認
→末梢点滴部位に発赤・腫脹があった

見逃しやすいものを認識して探せ!
・副鼻腔炎
・感染性心内膜炎
・褥瘡、肛門周囲膿瘍
・急性前立腺炎、精巣上体炎
・化膿性椎体炎、化膿性関節炎
・胆管炎、肝膿瘍

感染症診療は三角形で考える
・感染臓器:CRBSI
・微生物:MRCNS、MRSA、GNR、カンジダ
・抗菌薬

血液培養からE.faecalis
尿培養陰性
胸部X線異常なし

カテーテル血流感染症治療
初期治療(経験的治療)
バンコマイシン+セフェピム
  ↓
標的治療
腸球菌E.faecalisに対してアンピシリン
 
Take Home Message
病歴、身体所見をしっかりとる
端折るな日々血液培養
とことん考えろ 
  迷ったら前へ

 

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ICD講習会

2023年10月02日 | 感染症

 9月28日(木)はICD講習会に参加した。地元での開催なので参加証をもらうのには都合がいい。ICD講習会は医療関係の学会に合わせて開催されて、参加自体は無料だが、遠方の学会場まで出かけることになると負担が大きい。

 講習会は90分と短く、これまであまり役立ったという印象はない。参加証をもらうためと割り切って参加していた。今回も期待してなかったが、これまでで一番役立つ内容的にも面白い講習会だった。

 

 最初の講演は「結核菌の分子疫学解析」だった。結核菌のゲノム解析(約440万塩基対)を行い、ゲノムの変異蓄積状況を制裁することで、誰から誰に伝播したかを推定できる。

 たとえば、病院内で2名の結核患者が出ると、1名から他の1名にうつったと判断されるが、実際はまったく別の患者からその2名がうつったということがわかったりする。

 COVID-19のように潜伏期が短いと、伝播の状況(患者発生の時期・場所・感染経路)が通常の疫学調査で推定できる。結核菌のように潜伏期間が長いと伝播の状況を、疫学調査だけでは推定するのが難しい。そこで、ゲノム解析が必要となるということだった。

 

 2つ目の講演は、リケッチア症とCOVID-19の講演だった。演者は研究したリケッチアの話をしたかったらしいが、学会からの要望はCOVID-19だった。

 日本に多いリケッチア感染症として、つつが虫病と日本紅斑熱ではどちらが多いかを、抗体保有率で調査したそうだ。すると、つつが虫病や日本紅斑熱よりも、(同時に検査していた)発疹熱の抗体保有率の方が多かったそうだ。発疹熱は日本では見逃されているのではないかという。

 つつが虫病は、Orientia tusutusugamushiを保有するダニ(つつが虫)が人を刺咬して感染する。日本紅斑熱はRickettsia japonicaを保有するマダニに刺咬されて感染する。発疹熱はRichettsia typhiを保有するノミに吸血されて感染する。

 かなり以前にフィリピンから帰国した20代女性が発熱・発疹で当院に入院した。血液検体を国立感染症研究所に送って、発疹熱と診断された。ミノサイクリンで軽快退院した。

 

 COVID-19について、長崎港に入港したコスタ・アトランチカ号の集団感染にかかわったそうだ。ダイアモンド・プリンセス号の経験から下船して隔離しようとしたが、受け入れ先がなく、船内で経過をみるしかなかった。

 スマホを使った「健康管理アプリ」で症状を入力してもらって管理したのが好かったそうだ。1名しか感染しなかったので、大成功だが、ニュース性に乏しくほとんど報道されなかったという。(聞いたことがなかった)

 このアプリは病院職員の健康管理(COVID-19罹患の管理)にも使えて、有用ということだ。発熱だけでは拾い上げができず、他の症状(呼吸器症状・全身症状)を入れないと診断できない。

 COVID-19は主にエアロゾル感染なので、やはりユニバーサルマスクの使用、適切なN95マスクの使用、換気が大切ということを具体的な事例を上げて解説してもらった。病院内の離れた病室でCOVID-19が発症したが、換気的に風下に当たる病室だった、というのが興味深かった。

 お互いサージカルマスクを着けただけでは、十分な感染予防にならないので、換気が重要だという。看護師さんたちの申し送りは、お互いに近すぎるということだった。また問題になっている濃厚接触者が勤務する時だが、N95マスクを着けてもらうといいという。

 

 これまで出たICD講習会で一番役立つ会だった。(参加証明で提出する用紙の感想のところにも記載した)

 

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カテーテル関連血流感染症

2023年09月24日 | 感染症

 高カロリー輸液を施行していた91歳女性は発熱が続き、血液培養2セットとカテーテル先端の培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出された。

 

 一人暮らしをしていたが、7月7日に転倒して右大腿骨転子部骨折を来した。当院に救急搬入されて、地域の基幹病院整形外科に搬送して手術(骨接合術)を受けた。

 術後すぐに当院の回復期リハビリ病棟に転院してきた。先方の病院で不穏がひどかったらしく、向精神薬が投与されていた。

 ロナセンテープ20mg貼付、ルーラン4mg2錠内服にロフラゼブ酸エチル1mg、デエビゴ5mgだった。覚醒が悪く、内服困難もあり、それらを中止した。

 それでも経口摂取はわずかで、継続した経口摂取は困難だった。整形外科医が担当していたが、内科に転科となった。

 家族と相談して高カロリー輸液で経過をみることになった。病棟看護師さんから、手は動かすので上から入れるのは(内経静脈や鎖骨下静脈)難しいので、下から(大腿静脈)お願いします、いわれた。

 手関節の偽痛風(関節炎)の発熱もあったりしてわかりにくかったが、上記の培養を提出して、MRSA検出、という経緯だった。

 提出翌日にグラム陽性球菌が検出されたと報告があり、CVカテーテルを抜去して末梢静脈から約1週間点滴してもらった。抜去前からバンコマイシンを始めていたので、継続している。

 末梢静脈からの点滴継続は厳しいので、上肢の動きも以前ほどではないので、(少しだけ看護師さんに抑えてもらって)内頚静脈からCVカテーテルを挿入した。

 

 今月療養型病床のある病院に転院した85歳女性は、高カロリー輸液をしていたが、首も上肢も動かしてしまうことから大腿静脈から穿刺していた。

 カテーテル関連血流感染を繰り返して、MRSA、MSSA、MRSEと次々に体表面の菌が検出された。その都度CVカテーテルを入れ替えていた。

 

 やはり大腿静脈からのアプローチは感染を来しやすい。一番感染しにくいのは鎖骨下静脈からだが、今どきは合併症の危険があるのでほとんど行われなくなった。

 内頚静脈は穿刺が容易で合併症は少ないが固定しにくいという問題と、患者さんが首を動かしてしまうという問題があり、大腿静脈ほどではないが、血流感染を起こす。

 

コメント (1)
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