すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「雪の降る光景」第1章Ⅰ~3

2006年01月29日 | 小説「雪の降る光景」
 戦争は、終わりに近づいている。それは確かだ。しかし、勝利は、確かなものではなくなってきている。敵は、イギリス、ロシア、そしてアメリカ。この3国こそが、我々が今まで占領したどの国々よりも強大であり、恐怖なのだ。我々、ナチスの幹部たちは今、この3国への進出と、千年帝国を夢見て現実離れしがちな、わがままな総統のことで、頭がいっぱいなのだ。
 昨年5月に、有能な副総統を失ってからは、なおのことだった。彼、ルドルフ・ヘスがイギリスへ飛んだことが、はたして総統の意志だったのか、それとも彼自身の意志だったのかは、誰も知らない。しかし、私個人の意見を言わせてもらえば、彼の行動は、返って我々の首を絞める結果となった。私ならあんなバカな真似はしない。彼が、「偽の友好のため」に飛んだのではなく、「ナチを裏切り、その罪から逃れ、イギリスの牢獄に“安楽の地”を求めた(つまり、亡命だ)」のならまだ話はわかる。だが、なぜよりによって・・・。まぁ、いい。どっちにしろ、彼がイギリスで捕らえられたおかげで、私が収容所所長の後釜につくことができたのだから。
 
私は、総統が正午を過ぎないと帰らないのを承知で、いつも通り、9時ちょうどに彼の邸のドアを叩いた。愛人のエバ・ブラウンが、ドアを開け、私を中に入れた。



(つづく)
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