彼らは散々暴行した挙句、はぁはぁと息を切らせながら、もう一度私を押さえつけ、傷口が開いてしまって真っ赤に染まっている右腕の裾をまくった。そして、私の右腕を地面に叩きつけた。
「どうだ。謝る気になったか?」
ハーシェルは、ポケットからタバコを取り出し、ライターでその1本に火をつけて大きく煙を吐き出した。
「震えた声で凄まれても、別に何も感じないがな。謝る気になったか、だって?まさか。」
地面とキスをしそうな口で、私は微笑んでみせた。彼はタバコをプカプカ吹かしていて、何も言わなかった。しかし、肩がかすかに怒りで震えているのがわかった。
「わからなければこうしてやる!」
彼はいきなり、私の右手の傷口を踏みつけ、思い切り体重をかけてきた。ぐっ!と私の口から音が漏れると、彼は、いかにも嬉しそうに、ゆっくりとしゃがみ込んだ。そして、くわえているタバコを、私の右の手首の辺りで揉み消した。
手首の皮膚が、ジュッと音を立てて強張った。右の肩から指先一本一本までが、痛みを他に発散させないように筋肉を固くしていた。私は、顔を半分地面に押し付けたまま、開いた傷口の痛みが次第に麻痺してくれるのを待っていた。まるで意識を無くしたように、静かに待っていた。それが、ハーシェルに、勘違いをさせてしまったらしい。彼は、こう言った。
「こいつはもうおしまいだ。・・・いいか、おまえらがこいつの仲間でなかったらこのまま帰してやるところだが、あいにく俺は、こいつの仲間まで何もしないで帰してしまうほどお人好しじゃないんだよ!」
彼のその言葉が、友人たちへ危害を加えようとする合図であることを私が感じ取った時、既に彼らは、私の仲間に暴力を振るっていた。
「やめろ!やめてくれ!やめないと・・・、やめないと・・・。」
やめないと、君たちが痛い目に遭うんだぞ。私の仲間は、そう必死で警告しているのに、バカな奴らだ。私はそう思いながら、ふつふつと沸き起こってくる怒りに、身を起こしかけていた。
右手の傷は、完全に麻痺し、痛みは全く無くなっていた。私は起き上がる時、無意識のうちに右手を支えに使っていた。私は幼い頃から、痛覚と感情を精神力でコントロールすることができた。よって、怒りで痛みを消すことなど、なんてことはなかった。私と数人の仲間はそれを知っていたが、ハーシェルたちは、かわいそうに、それを知らないのだ。
今、ハーシェルたちは誰一人として私に注目していなかった。私はもう気を失っていると誰もが思っていたので、私の友人たちへの暴行に全力を尽くしていたのだ。ハーシェルは、自分がボスであることを内外ともに知らしめるかのように、唯一人、拳を振り回している自分の仲間と殴られている私の友人を遠回しに見つめていた。その彼さえもが、私が倒れていた場所に背を向けているせいで、私が背後から彼に近づいて行くのに全然気づいた素振りを見せなかった。
私は、彼の後頭部に息がかかるほどの距離まで近づき、不意に左腕を彼の首に巻きつけた。一瞬彼は、驚いて声を出せずにいたが、私がギリギリと腕に力を増していくと、私の腕と首の隙間に指を滑り込ませようともがきながら、こう叫んだ。
「くっ、苦しい!やめろー!」
私は、その叫びを待っていたのだ。そして、その思惑通り、彼の仲間たちはびっくりして拳や蹴りを止めた。彼らはこちらに目をやり、呆然としていた。彼らのうち数人は、目を見開き、怯え、私の方に殴りかかろうとした2人の仲間を制止させていた。きっと、この間私がケガをした時、ハーシェルと一緒にいて一部始終を見ていた連中なのだろう。彼らが今日も仲間に加わっていたことは、ハーシェルたちにとっても、私にとっても、都合が良かった。彼らが私の恐さを知っているなら、ハーシェルたちは大事な仲間にケガをさせないで済むし、私は、この間以上に本気にならなくても相手に敗北を認めさせることができる。
「知らなかったのなら覚えておけ。俺たちにケンカを売るなら、俺を一発で殺るか、自分も同じ目に遭う覚悟が必要だってことをな。」
私は、左腕の力を抜くこと無くこう言ったが、彼らはその言葉を聞く前に、既に後悔をし始めていた。特にハーシェルには、耳元から聞こえてきた私の言葉が、私はおまえを殺すことなんか何とも思ってないんだぞ、というふうに聞こえたに違いない。
(つづく)
「どうだ。謝る気になったか?」
ハーシェルは、ポケットからタバコを取り出し、ライターでその1本に火をつけて大きく煙を吐き出した。
「震えた声で凄まれても、別に何も感じないがな。謝る気になったか、だって?まさか。」
地面とキスをしそうな口で、私は微笑んでみせた。彼はタバコをプカプカ吹かしていて、何も言わなかった。しかし、肩がかすかに怒りで震えているのがわかった。
「わからなければこうしてやる!」
彼はいきなり、私の右手の傷口を踏みつけ、思い切り体重をかけてきた。ぐっ!と私の口から音が漏れると、彼は、いかにも嬉しそうに、ゆっくりとしゃがみ込んだ。そして、くわえているタバコを、私の右の手首の辺りで揉み消した。
手首の皮膚が、ジュッと音を立てて強張った。右の肩から指先一本一本までが、痛みを他に発散させないように筋肉を固くしていた。私は、顔を半分地面に押し付けたまま、開いた傷口の痛みが次第に麻痺してくれるのを待っていた。まるで意識を無くしたように、静かに待っていた。それが、ハーシェルに、勘違いをさせてしまったらしい。彼は、こう言った。
「こいつはもうおしまいだ。・・・いいか、おまえらがこいつの仲間でなかったらこのまま帰してやるところだが、あいにく俺は、こいつの仲間まで何もしないで帰してしまうほどお人好しじゃないんだよ!」
彼のその言葉が、友人たちへ危害を加えようとする合図であることを私が感じ取った時、既に彼らは、私の仲間に暴力を振るっていた。
「やめろ!やめてくれ!やめないと・・・、やめないと・・・。」
やめないと、君たちが痛い目に遭うんだぞ。私の仲間は、そう必死で警告しているのに、バカな奴らだ。私はそう思いながら、ふつふつと沸き起こってくる怒りに、身を起こしかけていた。
右手の傷は、完全に麻痺し、痛みは全く無くなっていた。私は起き上がる時、無意識のうちに右手を支えに使っていた。私は幼い頃から、痛覚と感情を精神力でコントロールすることができた。よって、怒りで痛みを消すことなど、なんてことはなかった。私と数人の仲間はそれを知っていたが、ハーシェルたちは、かわいそうに、それを知らないのだ。
今、ハーシェルたちは誰一人として私に注目していなかった。私はもう気を失っていると誰もが思っていたので、私の友人たちへの暴行に全力を尽くしていたのだ。ハーシェルは、自分がボスであることを内外ともに知らしめるかのように、唯一人、拳を振り回している自分の仲間と殴られている私の友人を遠回しに見つめていた。その彼さえもが、私が倒れていた場所に背を向けているせいで、私が背後から彼に近づいて行くのに全然気づいた素振りを見せなかった。
私は、彼の後頭部に息がかかるほどの距離まで近づき、不意に左腕を彼の首に巻きつけた。一瞬彼は、驚いて声を出せずにいたが、私がギリギリと腕に力を増していくと、私の腕と首の隙間に指を滑り込ませようともがきながら、こう叫んだ。
「くっ、苦しい!やめろー!」
私は、その叫びを待っていたのだ。そして、その思惑通り、彼の仲間たちはびっくりして拳や蹴りを止めた。彼らはこちらに目をやり、呆然としていた。彼らのうち数人は、目を見開き、怯え、私の方に殴りかかろうとした2人の仲間を制止させていた。きっと、この間私がケガをした時、ハーシェルと一緒にいて一部始終を見ていた連中なのだろう。彼らが今日も仲間に加わっていたことは、ハーシェルたちにとっても、私にとっても、都合が良かった。彼らが私の恐さを知っているなら、ハーシェルたちは大事な仲間にケガをさせないで済むし、私は、この間以上に本気にならなくても相手に敗北を認めさせることができる。
「知らなかったのなら覚えておけ。俺たちにケンカを売るなら、俺を一発で殺るか、自分も同じ目に遭う覚悟が必要だってことをな。」
私は、左腕の力を抜くこと無くこう言ったが、彼らはその言葉を聞く前に、既に後悔をし始めていた。特にハーシェルには、耳元から聞こえてきた私の言葉が、私はおまえを殺すことなんか何とも思ってないんだぞ、というふうに聞こえたに違いない。
(つづく)