ゆずの『夏色』が流れ始める。
日井周平、似千川まひる、五橋夏生の三人は自転車に乗ってサイクリングをしている。
『夏色』のイントロが終わると、曲がストップ。
その瞬間、周平、まひるが前で、夏生がうしろで自転車をこいでいる。
夏生 この長ぁいい長い下りぃ坂を~♪
まひる 何?
夏生 君を自転車ぁの~うしろぉにぃ乗せて~♪
周平 音痴!
夏生 うるせ(え)、ブレーぇキいっぱい握りぃしぃめて~♪
三人 ゆっくりー、ゆっくりー、くだってく~♪
突然激しい車のブレーキの音が鳴り響く。
三人は自転車から放り出される。
転がる三人。
夏生はいなくなる。
周平とまひるが倒れている。
まひる あいたたたたた…
まひるは起き上がろうとする。
辺りをキョロキョロ見回す。
そばに倒れている周平に気が付く。
まひる 周平
まひるは周平に駆け寄る。
途中、体中の痛みに顔をしかめる。
まひる イタッ!…
周平に近づき、声を掛ける。
まひる 周平、大丈夫?
周平からは返事がない。
まひる 周平…周平!…死んじゃったのぉ?
まひるは周平の体を揺する。
まひる 周平! 周へーい!
周平 いたたたたた…
まひる 周平ッ! なんだ生きてんじゃん、良かったあ
まひるは周平の体をはたく。
周平 痛っ! 痛いよお前!ナニスンダヨ!
周平は起き上がる。怒っている。
まひる 元気じゃーん、よかったぁ
周平 元気じゃねえよ、体中いてーよ。
まひる あたしも。私たち、一体どうなったんだろ?
周平はまわりの景色を確認する。
周平 あれっ?夏生は?
まひる ああ夏生くん?…わからない。
周平 わからないじゃねーよ。探そうぜ。
まひる うん、
二人は立ち上がろうとするが、体が痛くて立ち上がるのに苦労する。
周平 (イ)ツッ!
まひる …!…(体が痛いのを我慢している)
周平 痛えー、事故にでも遭ったんかな。
まひる 夏生くん!?
周平 ちげーよ、俺たち三人。
まひる えっ?私たちが?
周平 そう。自転車に乗ってて、突然車が出てきたところまでは覚えてるんだ。
まひる 車にぶつかったってこと?
周平 それならもう俺ら病院に運ばれてるよな。この程度の怪我ですんで良かったけど、それにしてもここはどこなんだろうな。
まひる 天国だったりして。
周平 あぁじゃあ俺たちすでに死んでるんだ。
まひる うん。
周平 冗談。足なくなってないし。
まひる 古典的発想だねえ。外国の幽霊って足あるんだよ、知ってた?
周平 知らねー。それより、夏生と自転車探そうぜ。
まひる うん。
二人は辺りを歩き回る。
周平 夏生ー!
まひる 夏生くーん!
探し回る二人。
しかしいくら探しても、夏生も自転車も見当たらない。
周平 しっかしここいくら歩いても何にもないな。
まひる 草と木しかないね。
周平 ほんとにあの世なんじゃねーの?
まひる あたしたち、死んだんだ。
周平 だってさ、生きてる実感がないっていうか、変な感じがしないか?
まひる うん、ふわふわしてる感じはするよ。
周平 えーーー……
まひる あっ
雨の音。
雨が降ってきた。
周平 うひゃっ、雨かよ。まいったな、雨宿りするところなんかないじゃんか。
まひる 周平、あの木!
周平 あぁ、でっかい木があるな、向こうの方に。あそこまで走るか。
まひる うん!
二人は木に向かって走る。
木の下に駆け込み、体についた水滴を払う。
周平 いやー、まいったまいった…
まひる 周平、雨がピンク色。
周平 えっ!?
周平は周囲を見渡す。
周平 …まわり中、ピンクの土砂降りだぁ。
まひる 雲も…
周平、頭上を見上げる。
周平 うわっ、なんだこりゃ。雲までピンク色かよ。
まひる やっぱりここ、あの世なんだよ…
その瞬間、周平がなにかを感じ取ったようだ。
周平は、フラフラと木の下から離れる。
まひる 周平、どうしたの? 濡れちゃうよ。
周平は、まひるから離れていく。
まひる 周平?
周平 似千川、いいから、お前はそこにいろ。
まひる え? 周平は?
周平 俺は、行かなきゃいけないところがある。
まひる え? 私も行くよ。
周平 お前は、そこに居ろ。
まひる どうして? こんなとこで独りにしないでよ。
周平 サンキュ、似千川。お前にはたくさん思い出をもらった。
まひる ……。
周平 ここで、さよなら。
まひる …なによ、それ。
周平 ……
まひる わけわかんないよ! わかるようにちゃんと説明してよ!
周平は、何も答えない。
まひる あたしはついてく。周平のこと追っ掛けるから!
周平 …じゃあな、似千川。もう二度と会わない。
まひる ふざけんなーーーッ!!
まひるはついに木の下から飛び出る。
土砂降りの雨の中、二人が少し間をおいて向かい合う。
まひる ふざけんな、周平。なんであなたと別れなきゃならないの?…理由を知りたい。
そこで、うしろの遠くの方に夏生が現れる。
夏生 まひるちゃん!まひるちゃん!起きてよ!まひるちゃんまで死んだら、俺どうしたらいいんだ!
周平 ぶっちゃけ、
まひる は?
周平 ぶっちゃけ、俺似千川のことが嫌いなんだ。
まひる なにそれ
周平 なにかあると俺にばっか頼って、我がままばっか。泣き虫で、怒りっぽくて、感情的で、自分勝手で、似千川といると、俺自分のことなんにも出来なくなっちゃうんだよ。自分が自分でなくなっちゃうんだよ。
夏生 まひるちゃん!俺、本当はまひるちゃんのことが好きだった。でも周平に遠慮して…あいつ親友だからさ、わかるだろ? あいつが死んだら、まひるちゃんの事を守るのは俺しかいないと思ってる。だから…
まひる 私は周平のことが…
まひるは周平の方に駆け寄ろうとする。
後方では、夏生が冠のようなものをかぶっている。そして、周平とまひるの間を通る。
「冠」には桃色の細長い布がついていて、結果、二人の間を隔てるピンクの川になる。
周平 動くな!
まひるは周平の言葉を受けて、ビクッと動けなくなる。
しかしそれをすぐに振り切って周平の方に駆け寄る。
走り寄ると、ピンクの川のところで壁にぶつかったように進めなくなる。
まひる なによ!これ!?
まひるは見えない壁を押したり、叩いたりするが、「壁」はびくともしない。
周平 似千川
周平は、見えない壁に、両手を広げて当てる。
まひる 周平…?
まひるも、壁に両手を広げてつける。
二人の掌と掌の距離が、少しずつ狭まっていく。
そして、触れようとした瞬間、
周平は桃色の布に巻かれて小さくなってしまう。
まひるもその場に座り込み、倒れる。
冠を外し、布を片付けた夏生が、倒れているまひるの傍にたたずむ。
まひるは目を覚ます。
夏生 まひるちゃん! 気が付いた? お医者さんも大丈夫だって言ってる。良かったよ。
まひる …周平は?
夏生はうつむき無言で答える。
まひる いつか君の泪がこぼれおちそうになったら何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ……♪
まひるはか細い声で歌う。
もう一度、ゆずの『夏色』が流れてきた。
<終>
日井周平、似千川まひる、五橋夏生の三人は自転車に乗ってサイクリングをしている。
『夏色』のイントロが終わると、曲がストップ。
その瞬間、周平、まひるが前で、夏生がうしろで自転車をこいでいる。
夏生 この長ぁいい長い下りぃ坂を~♪
まひる 何?
夏生 君を自転車ぁの~うしろぉにぃ乗せて~♪
周平 音痴!
夏生 うるせ(え)、ブレーぇキいっぱい握りぃしぃめて~♪
三人 ゆっくりー、ゆっくりー、くだってく~♪
突然激しい車のブレーキの音が鳴り響く。
三人は自転車から放り出される。
転がる三人。
夏生はいなくなる。
周平とまひるが倒れている。
まひる あいたたたたた…
まひるは起き上がろうとする。
辺りをキョロキョロ見回す。
そばに倒れている周平に気が付く。
まひる 周平
まひるは周平に駆け寄る。
途中、体中の痛みに顔をしかめる。
まひる イタッ!…
周平に近づき、声を掛ける。
まひる 周平、大丈夫?
周平からは返事がない。
まひる 周平…周平!…死んじゃったのぉ?
まひるは周平の体を揺する。
まひる 周平! 周へーい!
周平 いたたたたた…
まひる 周平ッ! なんだ生きてんじゃん、良かったあ
まひるは周平の体をはたく。
周平 痛っ! 痛いよお前!ナニスンダヨ!
周平は起き上がる。怒っている。
まひる 元気じゃーん、よかったぁ
周平 元気じゃねえよ、体中いてーよ。
まひる あたしも。私たち、一体どうなったんだろ?
周平はまわりの景色を確認する。
周平 あれっ?夏生は?
まひる ああ夏生くん?…わからない。
周平 わからないじゃねーよ。探そうぜ。
まひる うん、
二人は立ち上がろうとするが、体が痛くて立ち上がるのに苦労する。
周平 (イ)ツッ!
まひる …!…(体が痛いのを我慢している)
周平 痛えー、事故にでも遭ったんかな。
まひる 夏生くん!?
周平 ちげーよ、俺たち三人。
まひる えっ?私たちが?
周平 そう。自転車に乗ってて、突然車が出てきたところまでは覚えてるんだ。
まひる 車にぶつかったってこと?
周平 それならもう俺ら病院に運ばれてるよな。この程度の怪我ですんで良かったけど、それにしてもここはどこなんだろうな。
まひる 天国だったりして。
周平 あぁじゃあ俺たちすでに死んでるんだ。
まひる うん。
周平 冗談。足なくなってないし。
まひる 古典的発想だねえ。外国の幽霊って足あるんだよ、知ってた?
周平 知らねー。それより、夏生と自転車探そうぜ。
まひる うん。
二人は辺りを歩き回る。
周平 夏生ー!
まひる 夏生くーん!
探し回る二人。
しかしいくら探しても、夏生も自転車も見当たらない。
周平 しっかしここいくら歩いても何にもないな。
まひる 草と木しかないね。
周平 ほんとにあの世なんじゃねーの?
まひる あたしたち、死んだんだ。
周平 だってさ、生きてる実感がないっていうか、変な感じがしないか?
まひる うん、ふわふわしてる感じはするよ。
周平 えーーー……
まひる あっ
雨の音。
雨が降ってきた。
周平 うひゃっ、雨かよ。まいったな、雨宿りするところなんかないじゃんか。
まひる 周平、あの木!
周平 あぁ、でっかい木があるな、向こうの方に。あそこまで走るか。
まひる うん!
二人は木に向かって走る。
木の下に駆け込み、体についた水滴を払う。
周平 いやー、まいったまいった…
まひる 周平、雨がピンク色。
周平 えっ!?
周平は周囲を見渡す。
周平 …まわり中、ピンクの土砂降りだぁ。
まひる 雲も…
周平、頭上を見上げる。
周平 うわっ、なんだこりゃ。雲までピンク色かよ。
まひる やっぱりここ、あの世なんだよ…
その瞬間、周平がなにかを感じ取ったようだ。
周平は、フラフラと木の下から離れる。
まひる 周平、どうしたの? 濡れちゃうよ。
周平は、まひるから離れていく。
まひる 周平?
周平 似千川、いいから、お前はそこにいろ。
まひる え? 周平は?
周平 俺は、行かなきゃいけないところがある。
まひる え? 私も行くよ。
周平 お前は、そこに居ろ。
まひる どうして? こんなとこで独りにしないでよ。
周平 サンキュ、似千川。お前にはたくさん思い出をもらった。
まひる ……。
周平 ここで、さよなら。
まひる …なによ、それ。
周平 ……
まひる わけわかんないよ! わかるようにちゃんと説明してよ!
周平は、何も答えない。
まひる あたしはついてく。周平のこと追っ掛けるから!
周平 …じゃあな、似千川。もう二度と会わない。
まひる ふざけんなーーーッ!!
まひるはついに木の下から飛び出る。
土砂降りの雨の中、二人が少し間をおいて向かい合う。
まひる ふざけんな、周平。なんであなたと別れなきゃならないの?…理由を知りたい。
そこで、うしろの遠くの方に夏生が現れる。
夏生 まひるちゃん!まひるちゃん!起きてよ!まひるちゃんまで死んだら、俺どうしたらいいんだ!
周平 ぶっちゃけ、
まひる は?
周平 ぶっちゃけ、俺似千川のことが嫌いなんだ。
まひる なにそれ
周平 なにかあると俺にばっか頼って、我がままばっか。泣き虫で、怒りっぽくて、感情的で、自分勝手で、似千川といると、俺自分のことなんにも出来なくなっちゃうんだよ。自分が自分でなくなっちゃうんだよ。
夏生 まひるちゃん!俺、本当はまひるちゃんのことが好きだった。でも周平に遠慮して…あいつ親友だからさ、わかるだろ? あいつが死んだら、まひるちゃんの事を守るのは俺しかいないと思ってる。だから…
まひる 私は周平のことが…
まひるは周平の方に駆け寄ろうとする。
後方では、夏生が冠のようなものをかぶっている。そして、周平とまひるの間を通る。
「冠」には桃色の細長い布がついていて、結果、二人の間を隔てるピンクの川になる。
周平 動くな!
まひるは周平の言葉を受けて、ビクッと動けなくなる。
しかしそれをすぐに振り切って周平の方に駆け寄る。
走り寄ると、ピンクの川のところで壁にぶつかったように進めなくなる。
まひる なによ!これ!?
まひるは見えない壁を押したり、叩いたりするが、「壁」はびくともしない。
周平 似千川
周平は、見えない壁に、両手を広げて当てる。
まひる 周平…?
まひるも、壁に両手を広げてつける。
二人の掌と掌の距離が、少しずつ狭まっていく。
そして、触れようとした瞬間、
周平は桃色の布に巻かれて小さくなってしまう。
まひるもその場に座り込み、倒れる。
冠を外し、布を片付けた夏生が、倒れているまひるの傍にたたずむ。
まひるは目を覚ます。
夏生 まひるちゃん! 気が付いた? お医者さんも大丈夫だって言ってる。良かったよ。
まひる …周平は?
夏生はうつむき無言で答える。
まひる いつか君の泪がこぼれおちそうになったら何もしてあげられないけど 少しでもそばにいるよ……♪
まひるはか細い声で歌う。
もう一度、ゆずの『夏色』が流れてきた。
<終>