おっちーの鉛筆カミカミ

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ONE EYES(21)

2010年04月09日 00時25分59秒 | 小説『ONE EYES』

第6章 夢、追い駆けて(3)


 明日作る番組の構成も固まった。あとは、一応麻衣子に確認をとればいい。
 渋谷恵美はペットボトルの、半分ぬるい紅茶をひと口含むと、味わうように口腔内で転がした後飲み込んだ。
 麻衣子は思った通り、まだここに戻ってこない。時計を見ると、もうあれから一時間は経っている。
 まったくどこで何をしているんだか……
 このラジオ番組を麻衣子と一緒に作り始めた最初の日――やはり似たようなことがあって――待てど暮らせど彼女は戻ってこないのでもう家に帰ったのだろうと思い、待つのを諦めて帰宅した。
 すると次の日、麻衣子は機嫌が悪かった。
――どうして先に帰っちゃったの!? ずっと待ってたのに。
――どこで?
――屋上!
――そんなの分からないわよっ!!

 今も屋上にいるのだろうか。
 しかし恵美が探しに行っても、そこにはいなくて途方に暮れたことが何度もあった。
 どこにいるのかな……
 やっぱり……とりあえず屋上に行ってみますか――

 ――屋上には誰もいなかった。麻衣子はどこに行ったのだろう。これまでの経験から、家に帰ったということは絶対に有り得ない。この建物の敷地内のどこかに、麻衣子はいる。
 一階に降りて「庭」の辺りをきょろきょろと見回す。
 すぐに出入り口の門の前に「詩」の書かれた石碑が目に入る。
 麻衣子と恵美のこの場所を、『あおば荘』と呼ぶようになった理由がこの詩の中にある。

『あおばの山際
 浮かぶ月よ
 我らを照らして
 その姿いづ』

 麻衣子がこの詩をいたく気に入り、あまりに喜んだ様子なので、恵美が「じゃあ…この私たちの場所を“あおば荘”と呼ぶことにしよう!」と提案したのだ。
 麻衣子は恵美のネーミングセンスにイマヒトツ納得いかない様子だったが、「この『詩』の中の言葉を使ってここの名前を付ける」というアイデアには大いに賛同したらしく、なかなかの笑顔でその決定を承認した。

 どこを探しても麻衣子が見付からないので、恵美は途方に暮れていた。
 その時、背後から声が聞こえた。
「恵美ちゃん!! どこ行ってたの!?」
 振り返るとようやく見付けた……麻衣子が恵美のいる所まで走り寄ってきている。
「どこって……あんた探してたんじゃない。麻衣ちゃんこそ今まで何処に居たのよ!?」
「放送室に戻ってたよ。そしたら恵美ちゃんいないから……びっくりして」
 いつもは恵美がこの建物中麻衣子を探し回って、ようやく見付けて一緒に帰途につくのだ。
「自分から戻るなんて珍しいね。何かあった?」
「……ううん、屋上で後ろから誰かに名前を呼ばれた気がしたの。でも振り返ったら誰もいなかったから、恵美ちゃんが呼んでるのかなって思って」
「それで戻る気になったの?」
「そう」
 恵美はあきれるあまり絶句してしまった。
「……まあいいわ、もう暗くなってきたよ。帰ろう」
「でも夜になるのも遅くなったよねえ~」
「そうね」
「明日も楽しい一日だといいなあ~」
「そうだね」
「でも学校がなきゃいいのにね」
「はいはい」
 そんな会話を続けながら、二人は門をくぐり、家路へと向かった。
 そして夏が始まる。

      *

 いかがでしたか?
 ようやく物語が本格的に動き出す段階に入ってきました。
 奔放な女子高生「今井麻衣子」とちょっと陰のある女性「渋谷恵美」……不思議な関係の二人がこれから臨む現実とはどんなものなのか!?
 続きをお楽しみに~

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