読書日記

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老いてますます楽し 山崎光夫 新潮選書

2008-08-27 17:51:55 | Weblog

老いてますます楽し 山崎光夫 新潮選書


中味は「養生訓」でおなじみの貝原益軒の生き方の極意を説いたものである。益軒は江戸時代前期に生きた儒学者で黒田藩に仕えた。学問は儒学にとどまらず、本草学、医学、地理学、農学、文学と多岐に渡っており、百科全書派と言える。自身は虚弱体質で結婚したのも三十後半と遅く、妻も同じく健康には不安があり、終に子供に恵まれなかった。しかし、益軒はこの妻を離縁することなく添い遂げた。貝原家には益軒の家族に対する処方箋とも言うべき「用薬日記」が伝わっており、今回その内容が、著者の手によって公表されたのが眼目である。
 益軒の妻は六十一歳で亡くなったが、本人は七十一歳まで勤めを果たし、百部に及ぶ著作物を残した。その主要なものは六十歳を越えてからのものだった。その後八十五歳で亡くなるまで旺盛な老年期を過ごした。彼のモットーは「腹八分目」だという。そして心気を養うことが養生の基本、と説く。平穏で、怒りや欲望、憂いや心配にとらわれず、ストレスを溜めない、まさに現代人の心に響く言葉である。これは黒田藩の殿様に仕え、理不尽ないじめにも耐えた人間の発言ゆえに心に響くのだ。蒲柳の質であればこそ、無理をせずに養生に心がける、これが長命を実現させた。命長ければ、恥多しというが、せっかくの人生、長生きして楽しむに如くはなし。「人生は六十歳から」と益軒先生が保証してくれたのだから心強い。