読書日記

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空爆の歴史 荒井信一 岩波新書

2008-10-11 22:38:22 | Weblog

空爆の歴史 荒井信一 岩波新書



 空爆はヨーロッパ諸国による植民地制圧の手段として登場し、現代に至るまで戦争の中心的な役割を果たしてきた。無辜の民を殺戮する無差別爆撃は究極の人権侵害として糾弾されるべきだ。わが国は太平洋戦争においてアメリカ軍のB29の空爆により東京、大阪、名古屋、横浜、川崎、神戸等の都市が破壊され、多くの市民が虐殺された、そして広島、長崎への原爆投下。原爆投下の責任者であるトルーマン大統領は投下理由について二つあげている。一つは真珠湾無警告攻撃や捕虜虐待など日本が犯した国際法違反を糾弾するため、二つ目は原爆が多くの命を奪ったことではなく、逆に多くのアメリカ兵の生命を救ったのだと。これは有名な早期終戦・人命節約論である。後には、救われたのはアメリカ兵だけでなく大勢の日本人の生命も救われたのだという主張にまで発展する。この恐るべき人命軽視は日本人に対する差別意識に由来することは確かだ。その後、ベトナム戦争でもアメリカは同じ過ちを犯している。アジア人に対するレイシズムは消えることはない。
 このホロコーストとも言うべき犯罪行為に対するアメリカの公式な謝罪はない。日本も強硬に謝罪を要求した形跡もない。このような状況で締結された日米同盟はいわば砂上の楼閣で、いつ倒れるかも知れない。所詮アメリカの都合でいい様にあしらわれるということをしっかり肝に銘じておくべきだ。折りしもアメリカの金融恐慌がサブプライムローンの破綻で広がり、その余波が全世界に広がっている。アメリカの市場主義経済をグローバリズムの模範として数々の規制緩和を断行した小泉首相は引退。アメリカから忠犬ハチ公と称えられた人物も政界を退く。この仁の犯した犯罪も万死に値すると思うのだが、日本人はお人よしでなんでもすぐに水に流してしまう。小泉は忘れてもいいが、原爆をはじめとする無差別爆撃の被害者であるという意識は集団的記憶として残しておかねばならない。空爆はまだまだなくならない。