みるみると籠に満ちたる蓬かな 清水良郎
よく晴れた早春の一日、
作者は野に出て、蓬を摘み始めた。
地面にはようやく芽を出したばかりの草が、
地面に這いつくばるように、
産毛の多い若葉を懸命に空へ広げている。
作者はその柔らかな草の上に空っぽの籠を置き、
名もなき草に紛れて萌え出した蓬の葉を選んで摘んでいく。
空には鳥が囀りながら飛んでいる。
耳元には涼しい風が吹き抜けている。
まだ冬の装いの体は動かしにくく、
屈みながら地面の草を摘む作業は思いのほか体に応える。
しばらく蓬摘みに精を出していると、
じわりと額に汗が滲んだ。
太陽は先程よりやや南方へ高まり、
地面からはうっすらと陽炎も兆している
ふうと息をついて立ち上がり、
大空に顔を向けて腰を伸ばす。
体からぎりぎりと音がするようだ。
見れば、空っぽだったはずの足元の籠は、
もう底から半分ばかりも蓬の葉で満たされている。
そんなにたくさん積んだ実感はないのにと、驚く作者。
地面にはまだまだ緑の葉が無数に点在し、
たっぷりの日差しを喜ぶように浴びている。
摘んでも摘んでも、とても摘み切れる量ではない。
本格的な春の到来を感じ、
籠の蓬も作者の心も、充実感に漲っている。
参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272