びいと啼く尻声悲し夜の鹿 (松尾芭蕉)
鹿 (秋の季語:動物)
牡鹿(おじか) 牝鹿(めじか) 鹿の妻 妻恋ふ鹿
鹿鳴く(鹿啼く) 鹿の声 鹿の音(しかのね) 鹿笛
季語の意味・季語の解説
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鹿は日本列島の山中に広く分布する野生の草食動物である。
優しい性格で人に懐きやすいため、奈良公園、宮島、金華山などでは餌を持つ観光客を慕って群がってくる。
鹿が秋の季語とされるのは、牡鹿(おじか)が牝鹿(めじか)を恋うてもの悲しい声をあげる交尾の時期が秋だからである。
なお、交尾の後、妊娠した鹿は孕鹿(はらみじか)と呼ばれ、こちらは春の季語となる。
また、その後生まれた鹿の子(かのこ・しかのこ)は夏の季語となる。
秋の季語のつもりで子鹿という語を用いると、季節感のちぐはぐな俳句になるので気をつけたい。
季語の用い方・俳句の作り方のポイント
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日本語には「かなし(愛し・哀し・悲し)」という言葉があります。
かわいい、心にしみていとしい、心がいたむ、せつない、かわいそうである、気の毒である等の意味を含む言葉です。
今風にいえば、「胸がキュンとなる感じ」でしょうか…
秋の妻恋う鹿の鳴き声は、まさに「かなし」を感じさせ、古くから日本人の心を捉えてきました。
俳句にも、鹿の声を詠んだものがたくさんあります。
びいと啼く尻声悲し夜の鹿 (松尾芭蕉)
明星や尾上に消ゆる鹿の声 (菅沼曲翠)
庵室のはやく古びて鹿の声 (早野巴人)
鹿聞いて行燈急にかすかなり (溝口素丸)
行燈=あんどん。
温泉の山や肌骨に徹る鹿の声 (佐藤晩得)
温泉=「ゆ」と読む。 肌骨=きこつ。
鹿老いて妻なしと啼く夜もあらん (井上士朗)
鹿啼くや沼の底より泡一つ (凡茶)
また、温和な性格の鹿は、見る者の心を優しくします。
鹿を季語に俳句を読むときは、優しさに満ちた作品に仕上げたいものです。
蜻蛉に片角かして寝鹿かな (小林一茶)
傘のまま鹿撫でゐたり雨後の寺 (凡茶)
参照 http://haiku-kigo.com/category/7337848-1.html