去年の蔓に蕣かゝる垣根かな (山口素堂)
朝顔/朝顔・蕣・朝皃(あさがお) あさがほ アサガオ 牽牛花(けんぎゅうか)
● 季語の意味・季語の解説
竿、垣根、格子窓(こうしまど)などに左巻きの蔓(つる)を絡め、晩夏から初秋にかけて藍、紺、白、紅、空色などの花を咲かせる。
去年の蔓に蕣かゝる垣根かな (山口素堂)
去年=こぞ 蕣=あさがお
蕣に垣ねさへなき住居かな (炭太祇)
蕣=あさがお 住居=すまい
アジア南部原産で、日本へは奈良時代から平安時代にかけて中国から輸入された。
もともとは、牽牛子(ケンゴシ)と呼ばれる種から漢方薬をとるための植物であったが(ゆえに牽牛花という呼称が今も用いられる)、江戸時代に入ると、もっぱら鑑賞用に栽培されるようになった。
それ以前は、桔梗(ききょう)や木槿(むくげ)が朝顔と呼ばれていたと考えられるが、牽牛子の花の美しさ、朝早く開いて昼前にはしぼんでしまう儚さが日本人の心をとらえ、この花が朝顔と呼ばれるようになった。
鑑賞花になってから速やかに庶民の日常に溶け込んだらしく、江戸時代から生活感あふれる句が多い。
朝皃にほのかにのこる寝酒かな (杉山杉風)
朝顔に釣瓶とられてもらひ水 (加賀千代女)
● 古今の俳句に学ぶ季語の活かし方
朝顔には、紺、藍、紫、白、紅、ピンク、空色など、様々な色のものがあります。
ただし、朝顔の色に焦点を定めた俳句の多くは、紺または藍の朝顔を素材としているようです。
紺や藍の持つ落着きと深みが、日本人の心を捉えるのでしょう。
朝がほや一輪深き淵の色 (与謝蕪村)
朝顔の紺の彼方の月日かな (石田波郷)
堪ゆることばかり朝顔日々に紺 (橋本多佳子)
朝顔の藍やどこまで奈良の町 (加藤楸邨)
上の楸邨の俳句を読んでいただけるとわかると思うのですが、この朝顔の紺・藍は、長い歴史を経て風格を帯びた古い町の風景と、よく調和するようです。
朝顔や小橋の多き小京都 (凡茶)
また、朝顔の紺・藍は、まだ光の弱い早朝の空の灰紫色と、本当に相性の良い色だと思います。
朝顔や濁り初めたる市の空 (杉田久女)
初め=そめ
朝顔や一本の塔失せし空 (凡茶)
さて、朝顔は、江戸時代に鑑賞花となると速やかに市井に普及し、庶民の日常風景の中に溶け込みました。
そのため、朝顔は、生活感のある、人間臭い俳句を詠むのに適した季語となっています。
郵便の来て足る心朝顔に (富田木歩)
朝顔の庭より小鯵届けけり (永井龍男)
朝顔やすでにきのふとなりしこと (鈴木真砂女)
また、朝早く開いて昼前にはしぼんでしまう朝顔は、儚さ、寂しさを象徴し、時には人の死を意識させる花としても、俳句に詠まれます。
朝顔やおもひを遂げしごとしぼむ (日野草城)
朝顔に手をくれておく別れかな (富安風生)
朝顔や百たび訪はば母死なむ (永田耕衣)
百=「もも」と読む。
朝顔や子でありし日は終りし筈 (中村草田男)
筈=はず
朝顔や掃除終れば誰も居ず (中村汀女)