御降や一つ丘なる住宅地 小川軽舟
正月早々、空を灰色の雲が覆い雨を降らせた。
隣近所との親交が希薄になったと言われて久しいが、
新年ばかりはそんなことも忘れ、
日頃疎遠な人同士でも道で会えば
御慶を言い合うのが例年の新年らしい風景であった。
作者も、そんな人々の晴れやかな表情を見て、
年の改まった喜びを実感していたのかもしれない。
しかし、今年の新年はあいにくの雨である
普段ならば町には晴れ着姿の人々が溢れ、
どこからか笛や太鼓の音も聞こえてくるのであろうが、
雨に降り込められた町は、しんと静まり返って人の気配さえ感じられない。
一つの丘陵地帯に段々に並ぶ家々も、
みなひっそりと窓や扉を閉じたままだ。
一つの丘を分け合って住むという、
本来ならば共同体とも言うべき住宅地だが、
朝から降る冷たい雨のために各戸がそれぞれ別々に孤立している。
心では他者との連帯を希求する人々と、それを阻もうとする雨。
人との繋がりを大切に思いながら、
人と繋がる術を忘れてしまった、
現代社会を象徴するかのようだ。
参照 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880622271/episodes/1177354054880622272