竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

三月の甘納豆のうふふふふ  坪内稔典

2020-03-01 | 今日の季語


三月の甘納豆のうふふふふ  坪内稔典


なんといっても「うふふふふ」が特異で秀逸
三月はほんとうの春到来といって異論はない
しかめっ面は似合わない
甘納豆などどうということもないものにも
思わず顔がほころんでくる
(小林たけし)

この句を有名にした理由は、なんといっても「うふふふふ」という音声を活字化した作者の度胸のよさにあるだろう。EPOのかつてのヒット曲に『うふふふ』があるが、彼女の場合には「うふふふ」を音声で(歌って)表現しているわけだから、度胸という点では稔典には及ばない。いずれも春の歌であり、春の喜びを歌っていて、両方とも私は好きだ。ところで、このときの俳人の度胸は、単に音声を俳句に書き込んだという以上に、既成の俳句概念をすらりと破ってみせたところで価値がある。従来の俳句は「うふふふふ」を、字面の外から聞かせる技術の練磨に専念してきたと言えようが、稔典はそのことを十分に踏まえつつも、あえてあっけらかんと音声そのままに提出してみたのである。「言外」という、なにやらありがたげな領域への文学的な信仰を無視したとき、現われてきたのは、誰もが素朴に生理的に嬉しくなってしまうような「三月」の世界であった。この覿面の効果には、作者ももしかすると吃驚したかもしれない……。ただ、この句を思いだすたびに俳句のなお秘められた可能性を思うが、同時に稔典を安易に真似した句の氾濫には憂鬱にもなる昨今だ。『坪内稔典集』所収。(清水哲男)
【三月】 さんがつ(・・グワツ)
寒さは峠を越し気温は次第に上がって行く。日いちにちと確実に春の到来のを感じる。3月はまた卒業,別れの季節でもある。
例句 作者
三月の光の中の盲導犬 花島陽子
三月の甘納豆のうふふふふ 坪内稔典
いきいきと三月生る雲の奥 飯田龍太
三月や寝足りてけぶる楢林 宮田正和
三月やモナリザを売る石畳 秋元不死男
三月や魚ゐるらしき瀬のひかり 木附沢麦青