
雪解くる雨だれ落ちつ雪降れる 小西鷹王
一読、ちょっと気色の変わった表現の作風だ
題材があまりにも多くて初心者が詠めば
指導者に注意されるに相違ないが
春に近い景と春を待つ作者
時の果断ないうつりようを感じるではないか
(小林たけし)
季語は「雪解(ゆきげ・ゆきどけ)」で春。春先にしばしば見かける情景だが、このようにきちんと詠んだ句は珍しい。屋根に積った雪が解けて「雨だれ」となって滴り落ちている上に、また春の雪がちらちらと降ってきているのだ。「雪解」「雨だれ」そして「雪」と道具立てがややこしいので、短い俳句ではなかなか読み難いところを、苦もなく詠んでいるように写る。こうした技術をコロンブスの卵と言うのだろうが、私は大いに感心させられた。技術だけではなく、全体に春近しの情感がよく滲み出ていて、内容的にも十分である。このような日に、私はときどき窓を開けて外の様子を眺める。雨だれに淡く白い雪が降りかかり、降りかかってはすぐに解けてしまう。そんな情景を眺めながら、寒い冬が嫌いなわりには、どこかで冬に惜別の情を感じるような気がするのだから、勝手と言えば勝手なものだ。しかし、掲句で降っている雪は、「雪降れる」の語調からして、もう少し雪らしい雪のようにも思える。となれば、また冬への逆戻りか。いや、もうここまで来ればそんなことはないだろう。などと、作者の内面には冬を惜しむ気持ちはさしてなく、やはり春待つ心に満ちていると言えそうだ。なお、この句が収められている『小西鷹王句集』(2006)は、生前に一冊の句集も持たなかった作者のために、ご子息である小西真佐夫・昭夫氏が三回忌を前にまとめられたものである。(清水哲男)
【雪解】 ゆきげ
◇「雪消」(ゆきげ) ◇「雪解く」 ◇「雪解道」 ◇「雪解川」 ◇「雪消水」(ゆきげみず) ◇「雪解田」 ◇「雪解野」 ◇「雪解風」 ◇「雪解雫」 ◇「雪滴」 ◇「雪解」(ゆきどけ)
雪国で冬の間に積もった雪が、春暖により解けること。また、その時。
例句 作者
月光の休まず照らす雪解川 飯田龍太
念佛のさまよひおつる雪解川 中山純子
雪解川烏賊を喰ふとき目にあふれ 細見綾子
音たてていのちのいろの雪解川 加古宗也
にぎはしき雪解雫の伽藍かな 阿波野青畝
石獣の口に虫棲み融雪期 加藤憲曠
夜も軒の音をゆたかに雪解村 橋本栄治
恃むものいま己れのみ雪解川 松島不二夫
雪解けの湯気の立ちけり父の墓 若井新一
犬橇かへる雪解の道の夕凝りに 山口誓子
月光の休まず照らす雪解川 飯田龍太
念佛のさまよひおつる雪解川 中山純子
雪解川烏賊を喰ふとき目にあふれ 細見綾子
音たてていのちのいろの雪解川 加古宗也
にぎはしき雪解雫の伽藍かな 阿波野青畝
石獣の口に虫棲み融雪期 加藤憲曠
夜も軒の音をゆたかに雪解村 橋本栄治
恃むものいま己れのみ雪解川 松島不二夫
雪解けの湯気の立ちけり父の墓 若井新一
犬橇かへる雪解の道の夕凝りに 山口誓子