春の海地球に浮きし船の数 渡部ひとみ
平易な平凡なおだやかな句との印象をまず受け止める
このままの読みであるわけがなく
二読すると中七のなかの地球がやたら目立って見える
作者にとって地球そのものが宇宙に浮かぶ船なのだ
さすれば宇宙はなんと大きな春の海なのだろう
(小林たけし)
春の海はおだやかでのどか。ひゅーるるると頭上を鳶が飛んでゆくのも嬉しい。寒い北風に封じ込められていた海の中でも生き物たちが動きはじめる。そんな春の海に船の取り合わせは平凡に思えるが、それを「地球」サイズの大きさに広げたことで、暗黒の宇宙に浮かぶ地球そのものもあまたの船を抱え込む船に思えてくる。青く静まる海にどれだけの船が浮かんでいるのか、考えるだけで気の遠くなる思いだが、貨物船、客船、屋形船、ヨットからカヌーまで、それぞれの船に似合いの海の名前、その色を想像してみるのも楽しい。作者は写真家でもあり、CDジャケットの大きさの句集はさまざまな写真に彩られている。掲句には東京タワーを彼方に見下ろした東京の景観が取り合わせてある。こうした構成には、読み手が俳句から広げるイメージを損なわないよう句と写真を組み合わせるセンスが必要なのだろう。ページをめくるたびその妙が楽しめる一冊になっている。『再会』(2008)所収。(三宅やよい)
【春の海】 はるのうみ
◇「春の浜」 ◇「春の渚」 ◇「春の磯」
春の、明るくきらめいている長閑な海。のたり、のたりと静かに悠長な感じ。
例句 作者
春の海のかなたにつなぐ電話かな 中村汀女
春の海ひねもすのたりのたりかな 蕪村
釣糸と繋がつてゐる春の海 太田土男
春の海入渠の船のうすき煙 山口誓子
革命は幻想なりき春の海 神山 貞
春の海けぶるは未来あるごとし 長谷川浪々子
春の海一燈つよく昏れにけり 桂 信子
朝ごとの色確かめつ春の海 小川濤美子
春の浜大いなる輪が画いてある 高浜虚子
春の海かく碧ければ殉教す 岩岡中正
春の海のかなたにつなぐ電話かな 中村汀女
春の海ひねもすのたりのたりかな 蕪村
釣糸と繋がつてゐる春の海 太田土男
春の海入渠の船のうすき煙 山口誓子
革命は幻想なりき春の海 神山 貞
春の海けぶるは未来あるごとし 長谷川浪々子
春の海一燈つよく昏れにけり 桂 信子
朝ごとの色確かめつ春の海 小川濤美子
春の浜大いなる輪が画いてある 高浜虚子
春の海かく碧ければ殉教す 岩岡中正