特急の風が手伝う野焼きかな 矢野しげを
特急電車が轟音を伴って野焼きにけぶる大野を走る
野焼をけしかけるような、春が威勢よく
確実に近づいている景を感じる
野焼きは野焼きからの命や生活の移りようを詠むものが多いが
この句のような直截的なものは少ない
(小林たけし)
先月21日、高知市から四万十川に向かう途中、土佐市の水車茶屋という渓流沿いの小さな茶店でうどんをいただいていました。鶏が放し飼いで、メジロが木に挿したみかんをつつきにやってくる、のどかな山あいです。店内には、俳句と短歌の短冊が貼ってあり、「満員の特急列車や雪しまく」「無人駅雪割桜の山近し」(しげを)の句に魅かれ、俳句手帖に書き写していると、茶屋のおかみさんが「お客さん、その俳句作った人、携帯で呼んであげるから」と言ってくださり、矢野しげをさんと出会いました。二十年以上の間、短歌を作られてきた方で、「無人駅に貨車連結の音絶えて引込線にゆれるコスモス」は、かつて、タバコの巻紙に混入する石灰石を輸送するために使用されていた引込線を偲ぶ歌です。 矢野さんは、氏のホームグラウンドであるJR土讃線・吾桑(あそう)駅で吟行中だったところを茶屋のおかみさんに呼び出されたしだいで、掲句は、2012年2月21日午後3時当日、出来たての句です。特急列車が轟音を立て、風切って無人の吾桑駅を通過する。沿線の野焼きは、一瞬、燃え盛る。矢野さんは、もう、六十歳を過ぎたとお見受けしましたが、鉄道を憧憬する心の炎は、少年です。「見ると感動し、感動すると見ます。永く短歌ばかりを作ってきましたが、生きている証を残すために、俳句を始めました。」一枚の短冊が、初めての土地で、初めての人を引き寄せてくれました。吾桑駅までご案内していただき、握手をして別れました。(小笠原高志)
【野焼】 のやき
◇「野焼く」 ◇「野火」 ◇「草焼く」
草の生育をよくし害虫を駆除するため、春先に野を焼く。その灰は蕨・薇などの発育を助ける肥料ともなる。
例句 作者
聲高に野焼がへりの勢子らしき 石川星水女
古き世の火の色動く野焼かな 飯田蛇笏
多摩川や堤焼きゐるわたし守 水原秋櫻子
野火放ち男の構えほどかざる 宇咲冬男
駅伝の次の走者は野火の先 伊藤白潮
野火遠し病者のその後思ふとき 岡田晴子
野を焼いて今日新たなる雨降れり 渡辺白泉
眼のごとく石乾きをり野火のあと 新谷ひろし
野を焼く火川と出合ひて猛りけり 藤田あけ烏
大野火を神話の神に奉る 岩岡中正
聲高に野焼がへりの勢子らしき 石川星水女
古き世の火の色動く野焼かな 飯田蛇笏
多摩川や堤焼きゐるわたし守 水原秋櫻子
野火放ち男の構えほどかざる 宇咲冬男
駅伝の次の走者は野火の先 伊藤白潮
野火遠し病者のその後思ふとき 岡田晴子
野を焼いて今日新たなる雨降れり 渡辺白泉
眼のごとく石乾きをり野火のあと 新谷ひろし
野を焼く火川と出合ひて猛りけり 藤田あけ烏
大野火を神話の神に奉る 岩岡中正