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蕗の薹空が面白うてならぬ 仲 寒蟬
一読、明解、そして納得
長い冬の間、今か今かと春到来を待ち望んでいた蕗の薹である
まだ雪の残っている地面から顔を出すと
まず目に飛び込んでくる青空
そこにゆっくりと動く白い雲
すーと横切る鳥たち
もう面白くてたまらない
春の浅い寒さも忘れてしまった蕗の薹であった
(小林たけし)
雪の間から顔を出す蕗の薹。薹とは花茎を意味し、根元から摘みとっては天ぷらや蕗味噌にしてほろ苦い早春の味覚を楽しむ。穴から出た熊が最初に食べるといわれ、長い冬眠から覚めたばかりで感覚が鈍っている体を覚醒させ、胃腸の働きを整える理にかなった行動だという。とはいえ、蕗の薹は数日のうちにたちまち花が咲き、茎が伸びてしまうので、早春の味を楽しめるのはわずかな期間である。なまじ蕾が美味だけに、このあっという間に薹が立ってしまうことが惜しくてならない。しかし、それは人間の言い分だ。冴え返る早春の地にあえて萌え出る蕗の薹にもそれなりの理由がある。地中でうずくまっているより、空の青色や、流れる雲を見ていたいのだ。苞を脱ぎ捨て、花開く様子が、ぽかんと空にみとれているように見えてくる。〈行き過ぎてから初蝶と気付きけり〉〈つばくらめこんな山奥にも塾が〉『巨石文明』(2014)所収。(土肥あき子)
【蕗の薹】 ふきのとう(・・タウ)
◇「春の蕗」 ◇「蕗の芽」 ◇「蕗の花」
きく科の多年草。早春まだ野山に雪が残っている頃、土手の上や藪影に、萌黄浅緑色の花穂を土中からもたげる。花の開かぬ前に摘み取って食べるとほろ苦い春の味がする。蕗味噌。
例句 作者
蕗の薹おもひおもひの夕汽笛 中村汀女
花蕗をわけて石狩川となれ 長谷川かな女
円墳の一処ほころび蕗の薹 中山嘉代
襲ねたる紫解かず蕗の薹 後藤夜半
みほとけの素足はるけし蕗の薹 原 和子
師弟ほどのへだたり蕗の薹二つ 今瀬剛一
蕗の薹傾く南部富士もまた 山口青邨
山峡をバスゆき去りぬ蕗の薹 三好達治
蕗の薹まじめな貌の山ばかり 倉橋弘躬
水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹 木下夕爾
蕗の薹おもひおもひの夕汽笛 中村汀女
花蕗をわけて石狩川となれ 長谷川かな女
円墳の一処ほころび蕗の薹 中山嘉代
襲ねたる紫解かず蕗の薹 後藤夜半
みほとけの素足はるけし蕗の薹 原 和子
師弟ほどのへだたり蕗の薹二つ 今瀬剛一
蕗の薹傾く南部富士もまた 山口青邨
山峡をバスゆき去りぬ蕗の薹 三好達治
蕗の薹まじめな貌の山ばかり 倉橋弘躬
水ぐるまひかりやまずよ蕗の薹 木下夕爾