竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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乾きゆく音をこもらせ干若布  笠松裕子

2020-03-24 | 今日の季語


乾きゆく音をこもらせ干若布  笠松裕子

音をこもらせ
この中七の措辞がこの句の骨格だ
干されている若布の景、浜辺の潮風まだが鮮やかだ
(小林たけし)


季語は「若布(わかめ)」で春。井川博年君から、彼の故郷(島根県)の名産である「板わかめ」をもらった。刈ってきた若布を塩抜きしてから板状に乾かして、およそ縦横30センチほどにカットした素朴な食品だ。特長は、戻したり特別な調理をしたりすることなく、袋から出してすぐに食べられるところである。早速食べてみて、あっと思った。実に懐かしい味が、記憶の底からよみがえってきたからだった。子供の頃に、たしかに食べたことのある味だったのだ。ちょっと火にあぶってからもみ砕いて、ご飯にかけたり握り飯にまぶたりしていたのは、これだったのか……。住んでいたのが島根隣県の山口県、それも山陰側だったので、島根名産を口にしていたとしても不思議ではない。それにしても、半世紀近くも忘れていた味に出会えたのは幸運だ。こういうこともあるのですね。そこで、誰かがこの懐かしい「板わかめ」を句に詠んでいないかと探してみた。手元の歳時記をはじめ、ネットもかけずり回ってみたが、川柳のページに「少しだけ髪が生えたか板ワカメ」(詠み人知らず)とあったのみ。笑える作品ではあるけれど、私の懐かしさにはつながらない。そこでもう一度歳時記をひっくり返してみているうちに、ひょっとすると「板わかめ」を題材にしたのかもしれないと思ったのが掲句である。食べるときのパリパリした感じが、実は「乾きゆく音」がこもったものと解釈すれば、「板わかめ」にぴったりだ。いや、これぞ「板わかめ」句だと、いまでは勝手に決め込んでいる。山陰地方のみなさま、如何でしょうか。『炎環・新季語選』(2003)所載。(清水哲男)

【若布】 わかめ
◇「和布」(わかめ) ◇「和布刈」(めかり) ◇「和布刈竿」 ◇「和布刈舟」 ◇「和布刈鎌」 ◇「和布刈り」(わかめがり) ◇「和布干す」 ◇「鳴門若布」
わが国特産の海草。黄褐色の海藻で、日本各地の海岸に生ずる。昆布に似る。長さ約1メートル。春、茎の両側に厚いひだができ、胞子嚢を生ずる。食用。竹の先に小さな鎌を付けた若布刈り竿で刈る。2、3月から4月にかけて若布刈りの時節である。古くは若布をただ(め)とも呼んだ。

例句 作者

櫓を揚げて鳴門落ちゆく若布刈舟 山口誓子
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
一盞の海傾けて若布刈舟 市堀玉宗
潮の中和布を刈る鎌の行くが見ゆ 高浜虚子
若布舟夕照る潮にいまいづこ 水原秋櫻子
子も孫も都に住むと若布干す 茨木和生
風の道陽の道どこも若布干す 星野恒彦
みちのくの淋代の浜若布寄す 山口青邨
和布利桶神代の潮をしたたらす 大江加代子
若布舟大きくうねる中にあり 小林るり子