遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(319)小説 海辺の宿(完) 他 三つの不思議な出来事(3)

2020-11-08 12:47:13 | つぶやき
          三つの不思議な出来事(2010.7.31日作)
               (3)
  
   わたしは根底に於いて
   霊魂の存在を信じない  
   人は死によって 総ての幕を閉じる
   生きている時が人の華
   死は人の総てを奪い取ってゆく
   ただ一つ その人が
   生前に生きた心だけは
   のちの世界を生きる人たちの
   心に伝わってゆく
   今を生きる人たちが
   亡くなった人たちの霊前に 花を供え
   食べ物 飲み物を供えるのも
   その人が生前生きた心を
   今を生きる人たちが 受け継ぎ
   のちの世界を生きる人たちに 繋いでく
   その意志の表れにほかならない
   心の伝承だ
   死の世界は無
   花を供えても 供物を供えても
   死の世界の人たちに
   通う事はない
   その人たちが生きた 心
   その姿 それのみが
   のちの世界を生きる人たちの心に残り
   伝わるのだ
   
   わたしの父は十七年前に
   母は四年前に亡くなった 
   わたしはその時 一人で
   父や母と暮らした家に住んでいた
   母が亡くなった翌年 夏
   盆の入りだった
   夕食を済ませたあとわたしは 暑さに辟易して
   片付け物もせずに横になっていた すると
   いつの間にかうとうとしていた その時間が
   どれ程だったのかは分からない 
   わたしは急に 背中の辺りに
   ざわざわとした人の気配を感じて 同時に
  「そんな所に寝ていないで 早く片付けちゃえば」
   と言う 人の声を聞いて 慌てて飛び起きた
   当然ながらに 部屋の中には誰も居なかった 多分
   浅い眠りがもたらした
   夢の中の出来事であったに違いない そして
   その言葉を掛けて来たのが 
   父であったのか 母であったのか それも
   分からない
   ただ その時わたしは 確かに
   背中の辺りに ざわざわとした
   人の気配を感じて その言葉を聞いていた それは
   夢の中の出来事とは思えない 
   確かで 強烈な 現実感を伴って
   わたしの感覚を捉えて来た 
   その感覚は 今でもなお 
   わたしの心の中に残っている
   
   わたしは霊魂の存在を 今なお 信じない
   しかし この時起きた この現象は
   いったい なんであったのか
   夢の中の出来事と言うには 
   余りにも生々しい現実感覚が
   今もって わたしの不思議を誘う



          -----------------


          海辺の宿(完)


「--女将さんが此処へ来て長いんですか ?」
 男はなんとなく、女将さんへ寄せる老人の思いのようなものを感じ取りながら聞いた。
「ええ、それはもう、女将さんが二十代の頃だったと言いますから・・・・。でも、旦那もいい人だったんで、女将さんは此処へ来てからは幸せだったんじゃないですか。たとえ、家庭は持てなかったにしても。この宿も女将さんのものとして残してくれたし」
「そうですか」
 男は静かに言ってウイスキーのグラスを口に運ぶと、すぐにカウンターに戻して言葉を継いだ。
「三時頃、雨が上がったんで散歩に行ったんです。そしたら、松林の中に偶然、墓地を発見して、そばへ行ってみると雑草の黄色くなった中に真新しい墓がありました。花や線香に飾られていて、ああ、これがさっきの人のお墓なんだ、と思いました」
「ああ、あの丘の上の・・・・」
 老人は微笑んで頷いた。
「ええ、海の見える松林の中の」
「そうですか。女将さんにしてみれば、年々、衰えの度合いを増して、話す言葉も不自由になってくる妹さんが亡くなって手が掛からなくなり、ほっとしただろうとは思うものの、やっぱりこの世でただ一人の肉親を亡くして淋しかったに違いありません。あの雨の降る墓地にいつまでも一人で立ち尽くしていました」
 老人は言った。その眼がうるんでいた。
 男も女も何も言わなかった。
 宿全体を包むかのように波の男が響いていた。
 男はグラスを手に取ると、底に残っていたウイスキーを口に空けた。
 女はカウンターに置いたブランデーのグラスに手を掛けたまま、黙っていた。
 老人は男の空になったグラスを眼にして、
「注(つ)ぎますか ?」
 と聞いた。
「ああ、どうも」
 老バーテンダーが男のグラスにウイスキーを注いだ。
 老バーテンダーはウイスキーの栓をするとうしろの棚に戻した。振り返ると、
「あの墓地には、わたしの家内も眠っているんですよ」
 と、なぜか嬉しげなほほ笑みを見せて言った。
 今度は男が虚を突かれたように言葉を呑んだ。
 女は顔を上げて老人を見た。
「わたしの家内も死んで、もう八年、いや、九年になりますかなあ」
 と老人は、やはり静かなほほ笑みで言った。
「この村で亡くなったんですか ?」
 東京のホテルで働いていたという老人の言葉を思い出しながら男が聞いた。
「はい、そうです」
「じゃあ、今は ?」
「一人です。一人でここから三百メートルほど離れたところにある家に住んでせいます」
「お子さんは ?」
 女が尋ねた。
「子供はいます。もう、それぞれに独立して、三人の子供が東京にいます。孫もいます。でも、わたしは子供達のところへは行かないんですよ。いえ、仲が悪いわけじゃありません。上二人が男で、一番下が女なんですがね、自分で言うのもなんですが、それぞれによく出来た子供達なんですよ。でも、わたしは子供達のところへは行かないんです。年寄り一人をこんな田舎に置いておくのは心配だから、来い来いと言ってくれているんですがね」
 老人は話しをするのが楽しいらしかった。自分から進んで話した。
「この村は家内の故郷なんです。家内の故郷と言っても、とっくに実家の代は変わってしまいましたがね。家内の兄も、もう死んでしまって、その子の代で、それも間もなく変わろうとしているところなんです」
「奥さんは、何で亡くなられたんですか ?」
 男が聞いた。
「胸の病気でした。しばらく東京の病院に居たんですが、一時的に良くなると、急に故郷のこの村へ帰りたいと言い出しましてね。当時、わたしもまだ、ホテルに勤めていたんですが、そろそろ歳でもあるし、家内がそれ程までに言うんなら、と思って、此処へ来た訳なんです。でも、此処へ来ると家内は、二年と経たないうちに死んでしまいました」
 老人は遠くを見る眼をした。すぐに思い直したように言葉を継いだ。
「生前、家内は口癖のように言っていたんです。もし、わたしが死んだら、あの海の見える墓地に埋めて下さい、あそこにはわたしの両親も眠っているんですってね。家内にはもう、分かっていたんですよ。たとえ、病気が一時的に良くなっても、自分の人生が長くはないって事がね。それで、あんなにも故郷へ帰りたがっていたのに違いありません。そして、ある朝、なんの苦しみもせずに死んで逝ったんです。そばに寝ていたわたしに気付かれもせずに。わたしは家内の言葉通り、あの墓地に家内を埋めてやりました。以来、わたしはずっと家内の墓を守りながら、今日までこうして生きて来たような訳なんです。ですからもう、子供達のところへ行こうとも思わないんですよ。わたしは女将さんに頼んであるんです。もし、わたしが死んだら、家内の遺骨と一緒にあの海の見える墓地に埋めて下さいとね。その為の準備ももう、すっかり出来ているんです。女将さんは親切な人なんです。わたしが家内に死なれて独りぼっちになってしまった時、わたしが東京のホテルに居た事を知って、人手が必要でもなかったのに、気晴らしの為に、ここに来て働くようにって言ってくれたんです。わたしは初め、御迷惑をお掛けしてもと思い、辞退したんですが、あまりに熱心に誘ってくれるもので、ついつい、こうして今日まで御厄介になってしまったという訳なんです」
 老人は話し終えると満足気な表情を浮かべて微笑んだ。
 玄関入り口広間の時計が一つだけ、ゆっくりとした響きで時を打った。
 波の音が相変わらず、宿全体を包み込むかのように聞こえていた。
「いや、失礼しました。ついつい、老人の愚痴などをお聞かせしてしまいまして」
 老人は時計の音で我に返ったように言った。

          四

 女は先にバーを出た。
「おやすみなさい」
 と、老人は言った。
 男が部屋へ帰った時、女はソファーに掛け、膝を毛布でくるんで編み物をしていた。男がドアを開けて入っていっても顔を上げなかった。
 男はそばへゆくと、
「なにを編んでいるんだい ?」
 と聞いた。少し、酔っているようだった。
「セーターへよ」
 女は顔も上げずに言った。
「誰のセーターだ ?」
 男は編み物の針を運ぶ女の手元に視線を向けて聞いた。
「誰のものでもないわ」
 女は乾いた声で言った。
「誰のものでもない ? 男物だな」
 男は編み物を覗き込むようにして言った。
「あなたのではないわ」
 女は素っ気無く言った。
「誰かに遣るのか ?」
 男はなお、執拗に聞いた。
「誰にも遣らないわ」
「誰にも遣らない?」
「ええ、誰にも遣らないわ。当てなんてないわ」
 女は毛糸の玉をずらしながら言った。
「バカだよ」
 男は軽く言った。
「なぜ ?」
 女は静かに聞いた。
「死にに来て、セーターを編んでいるなんてバカだよ」
 女は黙っていた。それから、
「そうね」
 と言った。そして、また黙った。
 男も女も何も言わなかった。相変わらず夜の中に響く波の音だけが聞こえていた。
 夜は深かった。
 宿の中には物音一つなかった。あの老人はもう、帰ったのだろうか ?
「おれは明日帰ろうと思う。きみはどうする ?」
 男は長い沈黙のあとで言った。
「先に帰って下さいな。わたし、あとから帰ります」
 女は編み物に視線を落としたままで言った。
「きみはこれから、どうするつもりなんだ ?」
「分からないわ。よく考えてみたいと思うの」
 女は言った。

          完



       ーーーー-----------------



       takeziisan様

       有難う御座います
       秋一色 いいですね
       小山田緑地公園 こういう環境がお近くにあって
       いいですね わたくしの家の前にも大きな公園が  
       ありますが 街中の公園 とてもこのような訳には
       ゆきません
       竹林 わたくしの居た田舎の家にも竹林があり
       しばらくの間は筍の季節になると 兄妹みんな揃って
       採りにいっていましたが そこも今では太陽光発電の
       パネルが置かれています
       おすそ分け なんだか楽しそうですね
       浮き浮きした様子が眼に浮かびます
       河口湖 お近くなのでしょうか
       もう 三年ぐらい前になりますけど 家族で
       旅行した事があります 遊覧船にも乗りました
       朝になってカーテンを開けると眼の前に大きな   
       富士山がデンと控えていてびっくりし
       喚声を上げた事を覚えています しかも
       その姿が わたくしの家の屋上から見えるその姿と
       全く同じで一層 感動した事でした お写真を拝見して 
       懐かしく思い出しました
       でも 短い旅行ゆえ このような隠れた小さな景色は
       見る事がありませんでしたので このお写真は新鮮です 
       奥様は何処かお悪いのでしょうか
       病院通い大変な仕事で どうぞ お体にお気を
       お付け下さい



       桂蓮様

       有難う御座います

       大統領に関する御文章 拝見しました
       わたくしの考えていた事と何一つ違いません
       実は 今までテレビの大統領演説を見ていたところです
       今度の選挙にはわたくしも アメリカの事ながら    
       非常に気をもみました 普段 あまりテレビを見ないのですが
       今回だけは 選挙結果が気になって ニュースの時間になると
       しきりにテレビを点けていました
       トランプ現大統領には 大統領としての見識も資質も
       品格もありません 滅茶苦茶な大統領で 
       この大統領がこれからもアメリカ政治を指揮する
       のかと思うと息苦しくなる程でした とりあえず今度の結果に
       安堵しています これで世界を滅茶苦茶にされる事も
       なくなるのではないでしょうか
       とりあえず桂蓮様と共に喜びを分かち合い 
       祝杯を挙げたい気分です
       有難う御座いました

       (女性のハリス副大統領 この人は
       いいですね 頭も切れそうですし
       実はわたしは バイデン大統領よりも 密かに
       評価しています それにしても 二人とも
       演説が上手いです 日本の政治家の紙を見ながら
       くちゃくちゃ 口の中で言葉をこね回すような
       演説とは訳が違います 自分の言葉を持っている
       という事です)
 



 
   
   
   

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2020-11-08 14:08:53
同意してくださったことに、感激感謝しております。

参考までにハリスさんのスピーチコーチは
ブッディジャージーさんです。
ブッディジャージーさんは大統領候補でしたが、
黒人からの支持が少なくて、
辞退しました。
私は彼を心から応援しています。
いずれ、彼の時代がくるでしょう。

ブッディジャージーがコーチ担当する前のハリスさんは本当に気持ち悪いただの女でした。
言っていることが本当に不愉快だったのです。
それが、黒人表を得るために彼女が選ばれて、
ブッディジャージーさんから訓練されて
切れるほどのスピーチをするようになったのです。
彼女の言葉からブッディジャージー流が出ています。

今回の選挙はトランプ派の邪悪さに国民がうんざりしているので、
今は国全体がまつり騒ぎです。

でも皮肉にトランプがそれほど悪く、邪悪極まることしなかったら
バイデン氏は負けていたと思います。

トランプはあらゆる意味で悪そのものです。
彼の支持者は、彼らの悪が認められた感じになったから好きだったのでしょう。
トランプ派のFOXニュース記者に揶揄をしていたビデオもツイッターで流れています。

でも、日本人の中にトランプ派がいて、
バイデン氏の悪口を言っている人が案外多いのです。
(私のブログコメントにも多いー削除していますけど)

日本人のトランプ支持者って、最悪です。
トランプ側とFoxニュースが流した詐欺みたいな情報を取って、あんたは事実を知らないと私を非難しています。

とにかく、今は洗濯物をたたまないとなので、後で時間が持てたらまた書き込みにきます。

桂連 
返信する
 ()
2020-11-08 16:49:54
声を聞く、ぞくぞくした感じ、
科学的に証明されても
医学的に説明されても
何か物足りない感がありますよね。

私の場合は
わけ有って実の父と縁が切れていましたが、
(継母とのもつれから)
ある日、突然父が私の名を呼んで
眠っていたのでしたが、
飛び上がりました。

なんとなく、父が今死んだと思いましたね。
ですが、継母が私と父との縁を切ったので、
連絡もできなく、
そのままにして忘れようとしました。
それが、戸籍謄本を取ることがあって
韓国に行って
市役所で謄本を取ったら
なんと、父死亡となっていました。

当時は、父と継母から多くの苦痛をもらっていたので
墓地がどこか、いつ死んだのかさえ確認しなかったです。
韓国に住んでいる雄一の血縁の姉に
父の墓地を確認しておけと頼んだのでしたが、
姉は私よりひどい仕打ちを受けたので
やりたくないとの一点張りでしたね。

たまさ様はご両親から
愛情に富んだ親子関係をお持ちみたいだから
私の場合も、子の義務を果たしていないように思えるかもしれませんが、
もうやるべきことはやっていると勝手に思っています。

たまさ様が聞いたその声は
たまさ様を心配してくれてますよね。
案じている感じですよね。
私が聞いた父の声は、いつもの父のように私に怒っていました。

案じるのと怒る、相反することですが、
少なくても
私達の心にまだ存在している何かの気ですかね。

嫌なことと関連つけて申し訳ないですが、
私の生き様、語るといいこと出てきませんので、了解お願いします。

でも、文を読んで
あの時、聞いた父の声を鮮明に思い出してしまいました。

因みに
死についての定義
私とそっくり、全く同じです。
返信する
おはようございます、 (takezii)
2020-11-09 04:51:44
海辺の宿、(完)ですね。
都会の喧騒とは別世界の海辺の宿で交わす夫婦の会話、バーテンダーとの会話、映画、ドラマの1場面のように 浮かんできます。tamasa様は、やっぱり 小説家、脚本家、演出家ではないかと 思ってしまいます。次回の作品をまた 楽しみにしています。
返信する

コメントを投稿