遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉270 小説 埋もれて(完) 他 分 特性 

2019-12-01 14:29:25 | つぶやき
          分 特性(2019.10.20日作)

   人にはそれぞれ
   持って生まれた 分 特性 がある
   カラスは クジャクには なれない
   イルカは クジラや サメには なれない
   カラスには カラスの分 特性がある
   イルカには イルカの分 特性がある
   分相応 その中で 最善を尽くす 最高を目指す
   最善 最高 を目指し 尽くした結果
   自身が満足出来る生き方を生き得たならば 人は
   昂然と頭(ず)を上げ 誰に遠慮する事もなく
   自身を 誇ればよい 誇る事が出来る
   その値打ち 尊さは 誰にも否定出来ない


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         埋もれて(完)

「二次会へ行かないの ?」
 津田安次が最後にロビーを出て来て言った。
「春江さんが帰るから」
 道代が答えた。
 春江はみんなの前で車を停めて降りて来た。
「じゃあ、浩一さん、正子ちゃん、乗って」
 吉岡浩一と滝川正子が後部席へ乗り込んだ。
「二人とも東京 ?」
 明夫が聞いた。
「そう、浩一さんが亀戸で、正子ちゃんが蔵前、わたしが中野」
「わたし、やっぱり帰るわ。遅くなると困るから」
 陽子は夫がどうしているか、やはり気になって帰る事に決めた。
「じゃあ、前へ乗ってくれる ? 宇津木さんが市川だし、みんな通り道だわ」
 春江は満足気に言った。
 陽子が乗った席のドアを閉めると春江は、車の前を廻って運転席に着いた。
 陽子は窓ガラスを開けて見送るみんなに挨拶した。
「また、いらっしゃいよね」
 道代が言った。
 春江は見送る人達が手を振る中で車を出した。
 車はホテルの敷地を走り抜けて大通りへ出た。
 一気に加速して、たちまちホテルは遠のいた。
 陽子は猛烈な勢いで街の中を走り抜ける車の振動に心地よく身を委ねた。
 ふうっと、夢から醒めてゆくような感覚があった。楽しかった一日が終わって、現実の中へ引き戻されてゆくようだった。明夫や道代をはじめ、時間が経つにつれて記憶が蘇って来た同級生達の顔が、車の猛烈なスピードと共に過去へ押しやられてゆく。そして、単調で少し退屈な日々がまた戻って来る。
「俺はこの前、出席しなかったけど、今日は来て良かったよ。陽子さんには二十年振りで会えたし、おまけに有名人の春江ちゃんにも会えたんだからなあ」
 吉岡浩一が冗談めかして言った。
「春江ちゃん、ずいぶんあちこちの番組に出ているのね」
 滝川正子が言った。
「そんなでもないわよ」
 春江は何気ない口振りで否定したが、それでも何処かに得意気な響きがあった。
「毎日、忙しいんでしょう。新聞なんかでも春江ちゃんの書いたものをよく読ませて貰っているわ」
 陽子は沈みがちな気分を引き立て会話に加わった。
「けっこう、忙しいわね。でも、忙しい方が気持ちに張りが出ていいわ」
 春江は猛スピードて走る車のハンドルを握ったまま、しっかりと正面を見つめて言った。その横顔には、充実した時間を生きる人としての自信と幸福感に満ちた輝きがあった。
「こんな事言って失礼かも知れないけど、俺、春江ちゃんがこんなに有名になるなんて思わなかったよ。どっちかと言えば、高校時代の春江ちゃんは余り目立たなかったもんな」
 吉岡浩一は、おそらく、同級生たちの誰もが思っているに違いない気持ちを遠慮もなく口にした。
「たまたま、こうなっただけよ。ちょっとした巡り合わせなのよ」 
 春江は気を悪くした様子もなく言った。
「正直言って、俺は陽子さんが有名になるんじゃないかって思ってたんだ。陽子さんは俺達のクラスじゃ抜群の成績だったもんな」
 浩一の更なる遠慮のない言い方に陽子は耳を塞ぎたくなった。それが春江に対する侮辱のようにも受け取れたし、陽子自身、思い出したくもない過去を鷲掴みにして、眼の前に突き出されたような思いがしたのだった。
「お母さん、結局、亡くなったの ?」
 正子が陽子に訊ねた。
「ええ、もう十年になるわ」
 陽子は重い口調で答えた。
 母の事に触れると今でも心が痛んだ。
「宇津木さんがあの時、大学へ行っていたらわたしなんか今頃、足元にも及ばなかったわよ」
 春江の口調は何気なかったが、それでも陽子にはそれが、何処かに毒を含んだ厭味でもあるように思えて、神経にさわった。
「なにしろT大の現役入学はまず、間違いないだろうって、誰もが思っていたし、先生方もそう言っていたんだもんな」
 吉岡浩一に悪意はなかったが、その言葉も陽子を苛立たせた。
「そんな事、分かりはしないわよ」
 陽子は不機嫌さを押し殺して小さく言った。
「宇津木さん、今、何かやってらっしゃるの ?」
 春江が聞いた。
「ううん、何も」
 陽子には、クラスメイトと一緒にいる事が次第に苦痛になって来た。
「何かなさればいいのに。宇津木さんみたいな頭のいい人が何もしないなんて勿体ないわよ」
 春江は言った。
 陽子はその言葉にもまた、春江が得意さを誇示しているような思いを抱いて神経がささくれた。
 余計なお節介だわ、そう思わずにはいられなかった。
「お母さん、ずっと寝たきりだったの ?」
 滝川正子が陽子の気持ちを汲み取り、助け舟を出しでもするかのように口を挟んだ。
「そうよ。十年間も植物人間。そしてある朝、わたしが気付きもしないうちに呆気なく死んでいた」
 陽子は何かに向けて腹立たしさをぶつけずにはいられない気持ちで投げ遣りに言った。
「十年間も寝たきりでいたんじゃ大変だったわね」
 正子が真情を込めて言った。
 陽子は淋しい微笑で頷いただけだった。
「うわッ、凄い渋滞。なんでこんなに混んでいるのかしら ?」
 春江が高速道路の料金所附近に延々と連なる車の列を見て声を上げた。
「幕張メッセで国際見本市が開かれているんだよ」
 浩一もそれを見て言った。
「ああ、そのせいか。今朝、行く時も混んでいて、それで遅くなっちゃったのよ」
 春江は納得したように、うんざりした口調で言った。
 車はひしめきながら、遅々として進まなかった。
 陽子はその渋滞にいらいらして、そっと腕時計を見た。
 五時半に近かった。
 いつの間にか周囲には夜の気配が立ち込めていた。
 道路沿いのネオンサインや街灯の灯りが眩しかった。
 陽子はふと、買い物で帰りが遅くなり、夕暮れの道を急かれる気持ちで足早に帰宅を急ぐ、日常の生活の中での自分を思い浮かべた。
 明かりを点したマンションの部屋で、夫と二人の子供が待っているだろうと思うと、気持ちが落ち着かなくなった。
 車は船橋市を過ぎる頃になって、ようやく順調に走り出した。
「宇津木さん、市川のどの辺 ?」
 春江がやれやれといった様子で聞いた。
「市川インターがあるでしょう。あそこの近くなの」
「本八幡の方角ね ?」
「ええ、そう」
「じゃあ、わたし達はそこから蔵前通りへ出て、まっすぐ行こうかしら ?」
 春江が後部席の二人に聞いた。
「そうね。それでいいわね ?」
 正子が浩一に聞いた。
「うん、俺はいいよ。何処からでもバスの便はいいから」
 すでに六時を過ぎていた。
 車は順調に走っていた。
 やがて、ヘッドライトが交錯してまばゆいインターチェンジが見えて来た。
 そのインターチェンジを渡って、傾斜した道路を下ると眼の前に交差点が見えた。
「あの交差点を過ぎたら、何処でもいいわ。都合の良い所で停めてくれる ?」
 陽子は前方を指差して言った。
「はい、分かりました」
 春江は言った。
「この辺りなの ?」                           
「ちょっと中へ入るんだけど、でも歩いて行ける距離だから」
 車は信号待ちもなく交差点を渡った。
「この辺りでいいかしら ?」
 五十メートル程過ぎてから春江は言った。
「ええ、有難う。ちょうどいいわ」
 陽子はようやく自分の本拠地へ戻ったという安堵感と共に、穏やかに言った。
 春江は徐行して小さな横道を見付けると車を停めた。
「本当に有難う御座いました。みんなに親切にして戴いて、今日はとっても楽しかったわ」 
 陽子は降りる間際に、心から湧き上がる感謝の気持ちと共に、その言葉を口にしていた。
「また、この次、会いましょう」
 浩一が如才なく言った。
「ええ、そうね」
 陽子も笑顔で答えた。それから春江に向かって、
「頑張ってね。応援しているわ」
 と言った。
「有難う」
 春江は自信に満ちた笑顔で言って頷いた。
「じゃあ、お元気でね」
 ドアを閉める陽子に正子が言った。
「うん、有難う。正子ちゃんもね」
 三人が乗った車が走り去ると陽子は、その影が見えなくなるまで見送ってから、自宅への方角へ向かって歩き出した。
 奇妙に淋しかった。
 春江の生き生きとした姿が眼に浮かんだ。
 春江は楽しそうだった、と陽子は思った。
 ふと、我に返ると陽子は周囲の暗さに気付いて、思わずハンドバッグをしっかりと右手に抱え直して足早に歩いた。
 灯りを点したマンションの一室で、子供たちに食事をさせているかもしれない夫の姿が眼に浮かんだ。
 その夫の姿に陽子は、何故とはなしに切なさを覚えて涙ぐんだ。
 日常生活の中での夫の優しさが胸に迫って来た。そして陽子は、その夫との生活をこれからも大切にしてゆきたい、と思った。  
 幸い二人の子供にも恵まれた。その子供達や夫と共に、穏やかで幸福な家庭を築いてゆく事が出来ればそれでいい、これが、わたしの人生なのだ、と陽子は思った。
           完
 


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          KYUKOTOKYYU9190様

          有難う御座います

          涼風鈴子さん

          わたくしは一か月があっと言う間に過ぎてしまいます
          これも歳のせいですかね
          涼風鈴子さんが羨ましい


         
 

 
 
 
 


   

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