遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉279 小説 サーカスの女(3) 他 現在の世界に於ける権力者の定義

2020-02-02 16:03:22 | つぶやき
          現在の世界に於ける権力者の定義(2020.1,30日作)

   狡知に長けた 狡猾人格
   自己顕示欲 そのエネルギー並外れ
   厚顔無恥 
   自己以外 他者なし
   感情皆無
   左右の視界を閉ざされた
   馬車馬


          ----------------


          サーカスの女(3)

 座敷の掃除も雨戸を閉めるのも祖母がやった。電燈だけは背が足りないので、他の誰かが点けなければならなかった。
「まだ、仕事が終わんねえってよお」
 道代が祖母に聞こえるように大きな声で言った。
「まだ終わんねえ ? そうが、そうが」
 祖母が風呂に入る時には母か姉が手を貸さねばならなかった。
 信吉達の柿盗みの企ては結局、不首尾に終わった。柿はきれいに収穫されていて、一つもなかった。少年達は悪たれ口をたたきながら空手で戻った。
 途中、松林に入ると金タケ(茸)を探した。金タケも時期が遅いのか、見つからなかった。
 少年達の午後はそれで終わった。皆がそれぞれ家路に着いた。
 父は稲の積み下ろしが終わると牛車から牛を外し、小屋に連れていった。
「鶏(とり)小屋ば閉めだが。隙間が空いてっど、まだ、イダチ(鼬)にやられっど」
 父が信吉に言った。
 信吉は鶏小屋に行った。
 白いレグホンたちは止まり木に体を丸くして蹲っていた。信吉が近付いても動かなかった。「コウコウコウ」と、餌をやる時の呼び掛けをしても白い綿帽子のように蹲ったまま鶏たちは動かなかった。
 信吉はぴっちりと網戸を閉めて鍵を掛けた。


         3


 日曜日の朝はよく晴れた。
 冬を間近に控えた穏やかな陽射しだった。
 晩菊の上に秋の色があった。
 虻(あぶ)が黄色い金属的な羽音を立てて菊の上に群がっていた。
「母ちゃん、おらあ、今日、金毘羅さ行ぐど」
 朝日の差す井戸端で顔を洗いながら信吉は言った。
「金毘羅さ ? だ(誰)っど ?」
 母は釣瓶で水を汲んでいた。
「高ちゃんや、春男なんかどよお」
「仕事ば手伝わねえで、まだ、父ちゃんにおご(怒)られっがんね」
 母は知らん振りの体で言った。
「銭くろ」
「銭なんか母ちゃん、持ってねえべよお。父ちゃんに貰いな」
「いいがらくろよお」
 信吉は有無を言わせぬように言った。
 母はなお取り合わなかったが、信吉はしつこく絡みついて五十円を貰った。
 朝食が済むと父の眼を盗むようにして、縁側から下に降りた。
 寺の庭には既にみんなが集まっていた。藁草履や下駄履きの足はみんな素足だった。それに継ぎの当たった長ズボン。信吉は半袖の開襟シャツだった。母はみっとも無いからセーターを着て行けと言った。信吉は窮屈になるのが厭だった。その上、なんとなく母の言葉に逆らうように我を通してもみたかった。母の言葉を聞こうともしなかった。
「まったく、意地っ張りなんだがんねえ」
 母は持て余したように言って諦めた。
 金毘羅神社までは五キロか六キロの道のりを歩かなければならなかった。彼等は途中、近道をするために川の堤防を行く事にした。
 金毘羅神社は駅のある横芝町の一番向こう外れにあた。
 信吉達のいるは、九十九里浜に一番近い白浜村の中にあって、横芝駅からは四キロ程下だった辺りに位置していた。ほとんどが農家だったが、海に面したの中には何軒かの網を持つ家もあった。
 だが、遠浅の砂浜だけが広い浜には漁港はなかった。地引網が主な漁法で、この頃ではそれも寂れて来ていた。
「板木が鳴ってない、こごら辺りまでも聞ごえて来たもんだよ。そっで、ああ、今日は漁があっだなって分がってな、行って網ば引くのば手伝うどよお、バケツさいっぺえ(一杯)ぐれえの鰯ばくれだもんだよお」
 祖母が話す昔日の面影はもはやなかった。
 金毘羅神社がその海になんらかの関係があるのかどうかは、むろん、信吉達の知るところではなかった。祭礼は毎年、旧暦十月十日を中に三日間開かれた。催事の乏しい地方では毎年、近在の人々を集めていつも大賑わいだった。
 信吉達は栗山川への道を辿った。
 やがて堤防へ出ると、晩秋の事とはいえ陽射しは厳しかった。遮るものの何一つない直射日光が、ひんやりとした辺りの空気を射抜くようにして肌を刺した。
「お日さまがやげに暑いなあ」
 高志が眩しそうに顔をしかめて言った。
 堤防も周辺の松林も芒の光る秋の色だった。
 稲の切り株だけが眼に付く田圃では時折り、黄色い秋の陽射しの中で本ヤンマが静かな水面を乱した。
 田の畦道のあちこちにはまだ、おだ(稲架)が掛けられたままになっていた。
" 父ちゃんや母ちゃんは今日も、稲の取り外しに行ったのがなあ "
 信吉、ふと思った。
 取り外しが終わればすぐに脱穀だ。
「あれ ! あんだい ? 今、でっけえ魚が川ん中で跳ねだど」
 良治が突然、大きな声で言った。
 幅二十五メートル程の川は静かな水の流れを見せていた。夏にはこの川では小学校の水泳大会が開かれたりなどもしていた。
「イナ(ボラの小さい時)だよ」
 高志が言った。
 こういう事に関する高志の知識は概ね正しかった。
「イナって、夏の魚だっぺえ」
 忠助が言った。
「秋になったって、魚は水の中にいべえ(いる)よ。山さぬだぐって(這って)行くわけであんめえ」
 高志は言った。
「鯉でねえのがなあ」
 忠助がまだ信じられないように言った。
「この川には鯉はあんまりいねえだ」
 高志は投網を打ったり、釣りをしたり、川での経験は豊富だった。
「カモチン(雷魚)かも知んねえど」
 春男が言った。
「カモチンは跳ねめえよお」
 高志は言った。
 道のりの中程を過ぎると、水門が陽射しの中に白いコンクリートの姿を見せて来た。川に架かる橋はこの他、横芝の町へ出るまでなかった。
「あの水門ば渡って、向こう岸さ行くべえが」
 高志が言った。
「渡れんのがあ」 
 小柄な義男が不安げに言った。
「あのコンクリートの上は、こんな細い幅しきかねえど」
 忠助が三十センチ程の幅を手で示した。
「危ねえな」
 信吉は思わず言った。
「はあ、ずっとめえ(前)だけっどよお、あの水門に死んだ人間が引っ掛がっていだ事があっただどお」
 春男が言った。
「あらあ、自殺した人間だっぺよお」
 高志が不満げに言った。
「水ば飲んで、パンパンに腹が膨れぢゃってだだってなあ」
 春男は恐怖の色を浮かべて言った。
「五十ぐれえの男だっぺえ」
 高志が言った。
 水門の傍まで来ると彼等は立ち止まった。
 暫くは水門を見上げていたが、急に義男が元気づいたように、
「面白えでねえが。渡ってんべえよ」
 と言って、ためらい佇む仲間達を促した。
「だけっど、ちよっと、おっかねえなあ」
 忠助はなお、ためらう風だった。

 
          --------------------


          takeziisan様

          有難う御座います
          雛人形の御写真
          山の御写真
          拝見しました
          すぐにもカレンダーに使えるような
          数々の写真が消えてしまうなんて
          本当に残念に思います。 
          御当人といたしましては尚の事だろうと思います
          それにしても花の名前の詳しい事には感服致します
          あれっ、なんだったっけ、わたくしの日常です
          共感致します

 
 
 


 
 

 

          

   

コメントを投稿