遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉288 小説 日常の中の恐怖 他 至福の時

2020-04-05 13:06:03 | つぶやき
          至福の時(2020.3.20日作)


   今 わたしは 一日の終わり
   誰もわたしの傍にいない
   孤独な時間の中で
   就寝前のひと時
   ホイットマンに眼を通す
   「草の葉」
   最晩年の詩に 心を寄せる
   わたしの孤独の慰め 気持を
   奮い立たせてくれる
   ウォルト ホイットマン
   寄る年波 老いを嘆きつつも
   その老いに 打ちひしがれてはいない
   過ぎ去りし日々の追憶に
   心を奪われながらも 哀しみに
   溺れてはいない
   なお 昂然と頭(ず)を上げた気配が
   わたしを 鼓舞してくれる
   八十年を超える歳月
   その歳月を生きて来て 今
   ホイットマンの詩と同じ時を生きる わたしには
   その詩が直截 心に響き
   染みて来る
   ウォルト ホイットマン
   ホイットマンと同じように わたしは今
   老いを嘆いても その老いを哀しみ
   打ち砕かれてはいない 彼と同じように
   頭を上げて 生きる気概を
   失ってはいない
   幼い頃から その名に親しんだ
   ドイツの詩人 その詩人の抒情
   老いを嘆き 哀しむ詩より わたしは今
   ウォルト ホイットマン を 座右に置いて
   誰もいない 孤独な時間
   静かな時間の中で 最晩年の詩に 
   向き合う時 満ち足りた 
   心の安らぎ 安息に包まれる
   孤独なひと時 わたしに取っての
   至福の時間


          
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          日常の中の恐怖(1)


 九月のまだ残暑が厳しい、妙に蒸し暑い夜、島田昭二は背後に自分の足音以外の足音を聞いたように思った。午前一時に近い深夜の事だった。
 東京近郊の静かな住宅地に建つ家々は、大方が門灯を消して闇に包まれていた。
 島田昭二が振り返った背後にはバス通りを入ってほぼ、二百メートルの距離があった。五メートル程の道幅の両側には、百メートル間隔で交互に建っている街灯が目映いばかりの光りを路上に投げかけていた。
 " やっぱり、気のせいなのかなあ "
 島田昭二が振り返った背後に浮かび上がる人の影はなかった。
 いつもので事あった。
 それでも島田は納得し兼ねる思いだった。
 ここ一週間程、駅からの帰り道、なんとなく、誰かに尾行されているような気がしていてならなかった。
 確証がある訳ではなかった。気になる度に周囲を見廻してみても、思い当たるような人影を捉える事は出来なかった。
 " 或いは、残業続きの毎日で、神経が参ってしまっているんだろうか ? "
 自分に問い掛けてみたりもした。
 時には、その足音がしたと思った瞬間、不意に立ち止まり、相手の動きを探るような行動に出てみたりもした。
 それでも、その足音の真相を捉える事は出来なかった。
 気弱になった島田は妻の夏子に言った。
「この頃、家(うち)に何か変わった事はないか ?」
「変わった事 ?」 
 夏子は呆気に取られような顔できょとんとして聞き返した。
「うん」
 島田は重い気分のままて小さく言った。
「ないわ。なんで ?」
 夏子はやはり、何を言うのかというような顔で聞き返した。
「いや、このところ三、四日、なんとなく帰って来る途中の道で、誰かに尾行されているような気がしていてならないんだ」
 島田は浮かない顔のままで言った。
「尾行されている ? 尾行されているって、誰に ?」
 夏子は思い掛けない言葉に驚いたように言った。
「それが分かれば苦労はないさ」
 島田は投げ捨てるように言った。
「何か、尾行されなければならないような事をしたの ?」
 夏子は不安を募らせたように緊張した面持ちで、島田を責めるように言った。
「そんな事、するはずないだろう」
 島田も苛立って言った。
「それなら、尾行されるなんて、おかしいじゃないの ?」
「いや、尾行されているって、確証がある訳じゃないんだ。ただ、なんとんく、そんな気がするだけなんだけど」
「気のせいじゃないの ?」  
 夏子もようやく安心したように穏やかに言った。
「俺も、そう思うんだけど、なんとなく気になって」
 島田は煮え切らないまま言った。
「お仕事のし過ぎよ。疲れているんじゃないの。毎日毎日、午前様でゆっくり体を休める時間もないじゃない。神経が参っているのよ」
 夏子は非難とも、慰めとも付かない口調で言った。
 島田昭二、三十八歳。中堅貿易会社の財務担当課長だった。株式、為替を主に扱っている関係もあって、神経の休まる時がなかった。いかにリスクを抑え、会社の余剰資金を有利に運用するか、総ては彼が指揮を執る実行部隊の実力に係っていた。為替の動きの激しい時などには、会社に泊まり込む事も稀ではなかった。
 そんな激務だったが、島田はその仕事に充実感を覚えていた。辛いなどと思った事は一度もなかった。無論、対人関係も総てうまくいっていた。
 仕事以外でも、他人の恨みを買い、後ろ指を差されるような行為などした事は一度たりともなかった。
 三歳年下の夏子との間も至極、円満で、十二歳の息子、光一と十歳の娘、美雪がいる家庭は「幸福な家庭」そのものと言えた。六年程前に現在の場所に建売住宅を購入して、以来、地域の人達ともすっかり馴染んでいていて、人々の不評を買うような事もなかった。
 島田は妻の夏子に、なんとなく落ち着かない胸の内の不安を訴えたあと、楽観的とも言える妻の言葉に幾分かの心の慰めを見い出して、三、四日は落ち着いた気分で過ごしていた。その間は、確かに足音も聞こえて来ないように思った。
 ところが、それから何日か後の事だった。島田が午前一時に近い時間に帰宅すると、いつも寝ているはずの夏子がパジャマの上にガウンを羽織った姿のウソ寒い顔をして居間のソファーに座っていた。
「どうしたんだ、まだ、寝なかったのか ?」
 島田は怪訝な思いと共に、軽い非難を込めたような口調で言った。
「今日、美雪が誰か、知らない男の人に刺されそうになったの」
 夏子は怯えた表情で言った。



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             桂蓮(keiren)様


             コメント有難う御座います
             とても嬉しく 光栄に思います
             拙い文章ですが これからも
             お眼をお通し戴けますれば
             嬉しく存じます
             有難う御座いました
             (余談ですが桂蓮様はhasunohana1966様   
              でしょうか 桂蓮様をチェックしましたら
              行き着きました)

             takeziisan様

             いつも有難う御座います
             御礼 申し上げます
             相変わらず 楽しくお写真
             御文章を拝見させて戴いております
             シラユキケシ 始めて名前 花を眼に     
             しました それにしても 土いじりの出来る
             生活はお羨ましい限りです
             ロボット犬 笑いました


             hasunohana1966様

             数多くの御支援、有難う御座います
             アメリカにお住まいとの事 現在
             大変な状況なんではないでしょうか
             日本に於いても毎日 はらはらしながら
             ニュースを見ています
             御文章、大変 深い内容で感銘しました
             むろん 英文は分からないのですがーー
             これからもいろいろ御情報を戴けましたら
             嬉しく存じます
             有難う御座いました   

 






 
 
 











     


      
   
   
   
   
   



1 コメント

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Unknown (桂蓮Keiren)
2020-04-12 11:41:27
hasunohana1966は私桂蓮Keirenのアカウント名です。

至福の時
響きのいいことばですよね。
福に至る、このことばを丁寧に教えてくださった大学での恩師を思い出します。
その恩師は『福に至る』ことを説明するのに、多くの言葉は使っていなかったのでしたが、
何十年が経った今でもあの時の感じや雰囲気を鮮明に覚えています。
おかげさまでその時の記憶が蘇りました。
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