『泥の河』(81) (1981.6.11.東急名画座)
モノクロで昭和30年代初頭を再現
この映画は、宮本輝の作家デビュー作を、小栗康平が自主製作の体裁で監督したものです。
昭和30年代初頭の大阪を舞台に、川べりの食堂で暮らす少年と、対岸に繋がれた廓舟の姉弟との出会いと別れを描きます。小栗監督は、原作の世界を生かすにはモノクロ、スタンダードサイズで撮ることが適当だと考えました。そして製作当時はすでに珍しいものになっていたモノクロフィルムでの撮影を、ベテランカメラマンの安藤庄平が担当し、数々の撮影賞に輝きました。
戦争の影を引きずって生きる大人たちを田村高廣、藤田弓子、加賀まりこらが好演。オーディションで選ばれた子役たちも見事に昭和30年代の子供を演じました。
ラストシーンで、去っていく廓舟をどこまでも追っていく少年の姿は『禁じられた遊び』(52)のラストの少女の姿とも重なります。この映画は、直接戦争を描いたものではありませんが、形の違う反戦映画だとも言えるのです。
時代に逆行するような形で撮られたこの映画が、堂々とアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされたことも大きな出来事でした。