人生のほろ苦さを感じさせる秀作野球映画
この映画は、1950年代末のマイナーリーグを舞台にした、渋さが光る野球映画です。主人公は41歳のベテランピッチャー、ロイ・ディーン(ウィリアム・ラス)。彼はメジャーリーグにたった3週間だけ在籍し、スタン・ミュージアルにホームランを打たれたことを誇りにしているとても気のいい男ですが、もはや引退の時が迫っています。
ある日、黒人の新人ピッチャー、タイロン(グレン・プラマー)がチームに入団してきます。引退間際のロイと黒人のタイロン。チームメートから差別を受ける2人が心を通わせていきます。そしてロイは自分が果たせなかった夢をタイロンに託し、変化球ブリーム・ドリームを伝授します。この映画は、マイナーリーグのうらぶれた雰囲気の描写が出色で、野球しか生きる術を知らないロイの悲しさがにじみ出てくるような佳作になっています。
ちなみにタイトルは、コーヒー一杯を飲む間(つまりあっという間)しかメジャーリーグにいられなかった選手を表すスラングです。実はこの映画には「パスタイム=娯楽」という別のタイトルも付けられています。この二つのタイトルを見るだけでも、アメリカ人にとっての野球の価値や、マイナーリーグの悲哀の上にメジャーリーグの栄光が成り立っていることをうかがい知ることができます。
“コーヒー”だけに、最後に人生のほろ苦さを感じさせる映画ですが、見た者には忘れ難い印象を残します。それを証明するかのように、サンダンス・フィルム・フェスティバルでは観客賞を受賞しました。