久しぶりにフランク・キャプラ監督の『我が家の楽園』(38)を再見。
この映画の原題は「You Can't Take It With You=持って行けやしないよ」。で、どこに何を持って行けないのかと言うと「あの世に金を」なのだ。
主人公は元実業家のバンダーホフ(ライオネル・バリモア)。彼はある日突然、金儲けに嫌気がさして、今は自由人として暮らしている。彼の娘(スプリング・バイントン)は劇作家を気取り、その夫(サミュエル・S・ハインズ)は地下室で仲間(ドナルド・ミークら)と共に花火や玩具を製造している。孫娘(アン・ミラ―)は元レスラーのロシア人(ミッシャ・オウア )にバレエを習い、その夫(ダブ・テイラー)は印刷業のかたわらシロフォンの演奏をしている。
この何とも自由というか、奇妙な一家のもう一人の孫娘のアリス(ジーン・アーサー)は、軍需工場の若き副社長トニー(ジェームズ・スチュワート)の秘書を務めていた。ところが、トニーの父のカービー(エドワード・アーノルド)は、工場拡大のためにバンダーホフ家の周辺を買収しようと画策していた。対立する父親たちの息子と娘が恋仲になって…という、キャプラ十八番の人情喜劇が展開する。
すったもんだの挙句、バンダーホフがカービーに言う「あの世に金を持って行けやしないよ」のセリフと、小道具のハーモニカが決め手となって、最後は奇跡のハッピーエンドが訪れる。これもキャプラの十八番。
最も大切なものは愛と友情だと説く心、スチュワートとアーサーの共演、被告であるバンダーホフ一家に肩入れしてしまい思わず苦笑する裁判長、罰金が払えないバンダーホフ一家になけなしの金を恵む人々、何とも哀れな役を演じるH.B・ワーナーなど、後年の『スミス都へ行く』(39)や『素晴らしき哉、人生!』(46)につながるようなシーンもある。
また、この映画では気のいい自由人を演じたバリモアが、『素晴らしき哉、人生!』では一転、金の亡者のポッター老人を演じている。改めて変幻自在のすごい俳優だったことに気づかされた。
ところで、もちろん現実はこんなに甘くはないし、キャプラの映画をご都合主義だと言ってしまえばそれまでだが、うまい嘘は見る者を幸せな気分にさせるし、現実もこんな風だったらいいのになと夢見る楽しさを与えてくれる。などと思うのは、自分が年を取った証拠なのか。