『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』(94)(1995.2.14.丸の内松竹)
これまで、このシリーズの全ての作品を見てきたのだが、今回ほど見ようか見まいか迷いながら、その結果、ある覚悟を持って見たのは初めてだった。その覚悟とは、シリーズとの決別。つまり、長い間お世話になった人に最後のお別れをしにいくような気持ちだったのである。
実のところ、このまま自然消滅してくれたらどんなに気が楽だろう、というのが本音だ。それは、また来年作られたら、覚悟がぐらついて、見てしまいそうな自分が怖いからだし、老いていく身内を見捨てるような後ろめたさを感じるところもあるからだ。
思えば、本来は虚構であるはずの映画の中に、役者たちが老いていく姿をリアルタイムで焼きつけたのは、このシリーズが初めてだったのではないか。だから、前例がない分、作る方も、見る方も、収拾の付け方が分からないのかもしれない。
そして、バッドタイミングで流れ始めたTVCMで、寅ではない渥美清本人の老いに改めて気づいて、がく然とした人も少なくないと思う。これまでは、見続けることが恩返しだと思っていたのだが、それは逆にこのシリーズの首を絞めていたのかもしれない。今こそ、見ないことで終わりにしてあげる勇気を持とうではないですか。ファン諸氏。