『打撃王』(42)(1973.2.25.NHK)
パンフレット(49・新東京出版(Hibiya Theatre))の主な内容は
『鉄人』ルウ・ゲーリッグを憶う(鈴木惣太郎)/配役・解説/物語/『打撃王』の原作脚色について(上野一郎)/鑑賞講座(田村幸彦)/サミュエル・ゴールドウィン(淀川長治)/ゲイリー・クーパーとテレサ・ライト(野口久光)/監督者サム・ウッド(双葉十三郎)/パアリンのオールウェイズ(岡俊雄)/『打撃王』を見て(宇野庄治)/ゲーリッグと私の想い出(若林忠志)/『ママの想い出』に泣く(双葉十三郎)
『打撃王』のパンフレットを手に入れたのだが、さすがに鑑賞メモは残っていない。というわけで、代わりに昔見たテレビムービーについてのメモを。
『ルー・ゲーリック物語』(77)(1982.3.21.)
オープン戦の雨傘番組で、何と『ルー・ゲーリック物語』なる未公開のテレビムービーが放送された。ゲーリッグで、すぐに思い出すのは、ゲーリー・クーパー主演の『打撃王』(42)という古い映画だが、このドラマからは、それとは全く違う印象を受けた。
『打撃王』がいわばアットホーム的な温かい映画だったのに対して、このドラマは非常に冷めたものを感じさせる。主人公であるゲーリッグ(エドワード・ハーマン)の妻エレノア(ブライス・ダナー)も、『打撃王』でテレサ・ライトが演じたように、決して良妻としては描かれておらず、ゲーリッグの母(パトリシア・ニール)との醜い争いや、身勝手な行動も随所に見られ、その分、人間っぽいと言えなくもないが、映画で抱いたイメージを壊されてしまった。
また、ゲーリッグ自身も、大スターのクーパーとハーマンとでは、もちろん比べるべくもないが、ニックネームの鉄人ではなく、ひ弱なマザコン青年として描かれている。ちょっとうがった見方かもしれないが、ニューシネマが西部の英雄伝を壊したように、このドラマも大リーグの神話であるルー・ゲーリッグ伝を壊すことに主眼を置いたのか、と思えなくもない。ゲーリッグも悩み多き一人の人間だったという、神話の中に封じ込められた事実を、あえて描こうとしたのだろう。
自分のような、映画も野球も大好きな者にとって、スポーツ選手を主人公にした映画やドラマには大いに興味をそそられるのだが、実在の選手を描く場合は、やはり主人公の興じるスポーツの魅力が自然と浮かび上がってくるような描き方を望みたい。マーティン・スコセッシの『レイジング・ブル』(80)のような、人物描写に厳しさがある映画にはそんな口を挟む余地はないのだが、このドラマのような中途半端な描き方には不満を持たされた。
例えば、野球映画では、『打撃王』の主人公ゲーリッグの野球への愛、彼の真摯な姿から浮かび上がる野球の素晴らしさ、『甦る熱球』(49)の主人公ストラットンの野球への執着、野球の楽しさを描いた『春の珍事』(49)、最近では『がんはれ!ベアーズ』(76)など、いいものがたくさんある。
このドラマに、これらと同じレベルを求めるのは筋違いかもしれないが、野球に限らず、スポーツの素晴らしさを描けば、人間ドラマとしても、自然にいいものができるのではないかと思うのだが…。
「映画で見る野球 その1」『打撃王』『甦る熱球』『42~世界を変えた男~』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/031d59decb01df8fc64df847f7a96531
「映画で見る野球 その2」『メジャーリーグ』『ナチュラル』『マネーボール』『人生の特等席』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/80952a2821739214c4c86f2aec76f65d
「映画で見る野球 その3」『私を野球に連れてって』『くたばれ!ヤンキース』『春の珍事』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f5037ebd473c95a1ff9818b20b6f1bde