田中雄二の「映画の王様」

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『東京人』2020.1.特集「寅さんと東京」

2019-12-14 09:00:03 | 男はつらいよ
今月の雑誌『東京人』の特集は「寅さんと東京」みたことのない東京ロケ地案内。
 
 
 冒頭の対談で山田洋次監督が「不寛容な時代はこの厄介な男(寅)をどう迎えるか?」と問い掛けているのが興味深かった。例えば、昔は寅のような、ちょっと困ったおじさんと電車やバスで一緒になっても、さほど気にならなかったのに、今は誰かがちょっと咳をしただけでも、迷惑そうな顔をされるし、自分もしている気がする、と反省させられた。「くるまや」店員の三平役の北山雅康へのインタビューも珍しいもので楽しく読んだ。
 
 川本三郎氏の「京成電鉄沿線ロケ地を歩く」では、「もうひとつの寅さんの町」として、柴又の隣町で我が住処がある金町が紹介されていた。確かに、『続 男はつらいよ』(69)の散歩先生(東野英治郎)の家は金町だし、寅は時々ここで商売をした。『~心の旅路』(89)の淡路恵子は「金町出身」だと言っていた。
 
 また、実質的な最終作となった『~紅の花』(95)のラスト近くで、寅(渥美清)とけんかをし、柴又からタクシーに乗ったリリー(浅丘ルリ子)が、運転手(犬塚弘)に行く先を「金町」と告げる。金町からJRに乗り換えるつもりだったのだ。ところが、そこに寅が乗り込んできて、かっこをつけながら「男が女を送るって場合は、その女の家の玄関まで送るってことよ」と言う。喜んだリリーは「金町じゃなくて、あたしのうち(奄美大島の加計呂麻島)まで行って」と言って運転手を困らせる、というシーンがあった。思えば、これが寅とリリーが交わした最後の会話となった。などというように、「『男はつらいよ』には、本当に、金町がよく出てくる」のである。
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『男はつらいよ 寅次郎の青春』

2019-12-14 06:11:03 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎の青春』(92)(1993.1.30.丸の内松竹 併映は『釣りバカ日誌5』)
 
 
 もはや渥美清は、寅さんと心中してしまうつもりなのだろうか。だとすれば、あれだけの名優にしては何とももったいない話だ。今回もゴクミの4連投であり、結局“満男の青春”で寅は動かない。否、もう動けないということか。
 
 例えば、パトリス・ルコントの『髪結いの亭主』(90)を意識したような、風吹ジュンとの床屋での長回しのシーンは、本来ならちょっと色っぽいシーンになるはずなのに、渥美清のあまりの老けぶりが露になってかえって切なくなった。
 
 ひよっとして山田洋次は、半ば意図的に、レギュラー陣の老けぶりと満男の成長を対照的に見せながら、諦めの悪い観客に「もうよしなよ」と言わせたいのかもしれない。そんな気もする、ここのところの4作である。
 
 そして、今回で満男の恋にも一区切りをつけてしまったからには、もはや隠し球は残っていない。となると、テレビ版のように、寅の存在自体を消すしかないのだろうか…。
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